一言まとめ
マウスの足底切開による術後疼痛モデルにおいて、水素分子の投与が脊髄内のTrx1発現を増加させ、ASK1/MMP9シグナル伝達経路を抑制することで、神経炎症を軽減し、術後痛を有意に緩和することが明らかとなった。
3分で読める詳細解説
結論
水素分子は神経炎症を抑制するシグナル伝達経路(Trx1/ASK1/MMP9経路)を介して術後疼痛を軽減し、副作用が少ない治療選択肢となる可能性がある。
研究の背景と目的
術後痛は手術後の組織および神経損傷により引き起こされる一般的な健康問題である。手術後の急性痛は患者の約80%が経験し、20%以上の患者ではその後重度の慢性痛に進行する。しかし、効果的な術後痛治療法はまだ不足している。術後痛の発生メカニズムには、ミクログリアなどのグリア細胞が媒介する神経炎症が重要な役割を果たしている。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、特にMMP-9が術後痛の発生と維持に関与することが知られているが、その上流の調節機構は十分に解明されていない。本研究は、抗酸化作用を持つ水素分子(H2)が神経炎症を軽減し、Trx1/ASK1シグナル伝達経路を介して術後痛を緩和する可能性を検証することを目的とした。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- Trx1(チオレドキシン1):細胞内の酸化還元状態を調節する12kDaのタンパク質で、酸化ストレスから細胞を保護する。ASK1と結合してその活性を抑制する機能を持つ。
- ASK1(アポトーシスシグナル調節キナーゼ1):ストレス応答性のタンパク質キナーゼで、炎症やアポトーシスのシグナル伝達に関与する。JNKやp38 MAPKの活性化を通じて細胞応答を制御する。
- MMP-9(マトリックスメタロプロテアーゼ9):細胞外マトリックスを分解する酵素で、組織リモデリングや炎症過程に関与する。神経障害性疼痛の発生に重要な役割を果たす。
- ミクログリア:中枢神経系の主要な免疫細胞で、脳や脊髄で神経炎症反応を調節する。活性化すると炎症性サイトカインやMMP-9などを放出し、疼痛シグナル伝達を促進する。
- 神経炎症:神経系における炎症反応で、神経細胞の過敏化や疼痛の増強を引き起こす。ミクログリアやアストロサイトの活性化、炎症性サイトカインの産生などを特徴とする。
論文情報
タイトル
Hydrogen attenuates postoperative pain through Trx1/ASK1/MMP9 signaling pathway(水素はTrx1/ASK1/MMP9シグナル伝達経路を介して術後疼痛を軽減する)
引用元
Li, J., Ruan, S., Jia, J., Li, Q., Jia, R., Wan, L., Yang, X., Teng, P., Peng, Q., Shi, Y. D., Yu, P., Pan, Y., Duan, M. L., Liu, W. T., Zhang, L., & Hu, L. (2023). Hydrogen attenuates postoperative pain through Trx1/ASK1/MMP9 signaling pathway. Journal of neuroinflammation, 20(1), 22. https://doi.org/10.1186/s12974-022-02670-0
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