研究論文
Mast Cells in Regeneration of the Skin in Burn Wound with Special Emphasis on Molecular Hydrogen Effect(熱傷創におけるマスト細胞の役割と水素分子の効果に関する検討)

熱傷創における水素分子の効果

一言まとめ

II度熱傷を負ったラット皮膚に対し、水素分子を含む水を用いた局所治療を行い、マスト細胞を介したコラーゲン線維形成が促進され、創傷治癒が軟膏治療と同程度に向上した。

3分で読める詳細解説

結論

水素の局所応用は、熱傷による皮膚のコラーゲン線維形成を促進し、創傷修復を効果的に高める可能性がある。

研究の背景と目的

熱傷後の皮膚修復では、創傷面の炎症制御や線維化をはじめとする複雑な過程を経る。特にマスト細胞は、細胞外マトリクス(とくにコラーゲン線維)の形成や炎症・免疫反応に深く関わるため、その動態を把握することが創傷治癒の促進に重要とされる。一方、水素分子を用いた治療は活性酸素種の除去などを通じ、創傷治癒を促進する報告があるが、具体的な作用機序の一端としてマスト細胞による線維形成への影響は十分に解明されていない。そこで本研究では、熱傷モデル動物を用いて、水素分子がマスト細胞の活動と皮膚のコラーゲン線維形成にどのように寄与するかを検証した。

研究方法

  • 対象者(実験動物)
    • ラット36匹(Wistar系、体重165~210g)を使用し、背部肩甲間部にII度熱傷を作製。
  • 介入方法
    • 熱傷の作製: 80℃に加熱した機器を皮膚に40秒間接近させることでII度熱傷を誘導。
    • 水素の濃度・使用方法: 水素含有量8.0 mg/Lの水を1日1回、2mL相当量で創部に灌流(いわゆる「湿潤療法」の一種としての局所応用)。
    • 他群との比較: 以下4群(各9匹)に分けて3日目・7日目・14日目の創傷回復を比較。
      1. コントロール群(健常皮膚、熱傷なし)
      2. 熱傷のみ(自然治癒)
      3. 熱傷+軟膏処置(銀製剤含有軟膏:1日1回、1g塗布)
      4. 熱傷+水素水処置(1日1回、2mL灌流)
  • 対照群の設定
    • コントロール群(熱傷を負わない正常皮膚)
    • 熱傷のみで処置を行わない自然治癒群
  • 評価方法
    • 創部の皮膚組織を3日目・7日目・14日目に摘出。マスト細胞の分布およびコラーゲン線維形成を組織学的に評価(トルイジンブルー染色+銀染色)。
    • 画像解析ソフトを用い、マスト細胞周囲の線維直径や分布を測定し比較検討した。

研究結果

  • 主要な結果
    • 日数経過ごとのマスト細胞周囲に形成される細いコラーゲン線維(直径0.2~0.5µm)の相対量は、水素水群で最も高かった。たとえば3日目時点では水素水群73.4±5.2%、軟膏群57.4±4.3%、自然治癒群22.7±2.9%(p<0.05)
    • 14日目には、水素水群の細線維割合が65.2±4.1%と依然として高く、自然治癒群や軟膏群と比べて有意差が認められた(p<0.05)
    • 組織学的観察では、水素水群においてマスト細胞が活発に脱顆粒し、コラーゲン線維の初期形成(fibrillogenesis)が顕著であった。
    • 線維形成の亢進は軟膏群でも確認されたが、水素水群では特に創傷周縁から中心部にかけてマスト細胞が集簇するパターンがみられ、組織の再構築がより促進されていた。
  • 主要な考察
    • マスト細胞は創傷治癒過程の炎症調節やコラーゲン線維形成の誘導に重要な働きをする。
    • 水素分子がマスト細胞を保護・活性化し、分泌されるヘパリンやトリプターゼなどを介して線維形成を促進している可能性が示唆された。
    • この作用は創傷周囲の微小環境を改善し、皮膚構造の早期再生をサポートする要因の一つとなりうる。
    • 動物実験である点や、水素投与量・頻度などをさらに臨床に適用する際の検証が必要などの限界もある。
  • 研究の限界
    • 動物実験であり、ヒトへの直接的な外挿には慎重な検討が必要。
    • 創傷面積の定量的変化については論文内で詳細に数値化されていない。
    • 水素の作用機序全般(抗酸化以外の経路を含む)や長期的な線維化・瘢痕化への影響は今後の研究課題。

Appendix(用語解説)

  • マスト細胞(Mast Cell):皮膚や粘膜などに多く存在し、脱顆粒によってヒスタミン、トリプターゼ、ヘパリンなどの顆粒内容物を放出する免疫細胞。炎症反応だけでなく、線維形成や血管新生にも重要な役割を担う。
  • 脱顆粒:マスト細胞や好塩基球などが顆粒内部の物質を細胞外へ放出する現象。炎症調節や組織修復を左右する。
  • 線維形成(Fibrillogenesis):コラーゲンやエラスチンなどの線維状タンパク質が細胞外で会合し、最終的に線維として組織を支える構造を形成する過程。創傷治癒や臓器リモデリングに必須。
  • 細胞外マトリクス(ECM):細胞外に存在するコラーゲン、エラスチン、プロテオグリカンなどの総称。細胞同士の接着やシグナル伝達にも深く関与し、組織の形態と機能を保つ。
  • トリプターゼ:マスト細胞顆粒に多く含まれる酵素。血管透過性や線維芽細胞活性、さらに免疫細胞の挙動を制御するなど、多面的に働く。
  • 銀製剤含有軟膏(Silver sulfadiazine ointment):創傷部の感染予防を目的とした抗菌軟膏。熱傷治療で頻用され、細菌の増殖を抑える効果がある。

論文情報

タイトル

Mast Cells in Regeneration of the Skin in Burn Wound with Special Emphasis on Molecular Hydrogen Effect(熱傷創におけるマスト細胞の役割と水素分子の効果に関する検討)

引用元

Atiakshin, D., Soboleva, M., Nikityuk, D., Alexeeva, N., Klochkova, S., Kostin, A., Shishkina, V., Buchwalow, I., & Tiemann, M. (2023). Mast Cells in Regeneration of the Skin in Burn Wound with Special Emphasis on Molecular Hydrogen Effect. Pharmaceuticals (Basel, Switzerland)16(3), 348. https://doi.org/10.3390/ph16030348

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