《この記事の執筆者》

2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
「最近、生理でもないのに出血することがあって…。これって更年期のせい?」
そんなお悩みを抱えていませんか?
更年期の不正出血は、ホルモンバランスの乱れが原因で起こりやすい症状のひとつです。
実は、最新の研究で抗酸化作用がこの症状の予防や改善に関わる可能性が示唆されており、抗酸化作用を持つ「水素吸入」も注目を集めています。
本記事では、更年期の不正出血の原因や治療法、水素吸入の可能性について科学的な視点から解説します。
水素吸入が更年期の不正出血を予防・改善する可能性が、抗酸化作用に基づく理論から示唆される段階。ヒトを対象とした直接的な研究は未実施。
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更年期障害の不正出血について

閉経前後10年間の更年期では、女性ホルモンバランスの急激な変化が生じることで全身にさまざまな不調が引き起こされます。
閉経前の女性には定期的に生理がやってくる性周期があります。女性ホルモンの一種であるエストロゲンの作用によって子宮の壁には「子宮内膜」が増殖し、プロゲステロンの作用によって妊娠に適した状態に成熟していきます。そして、妊娠しないと増殖・成熟した子宮内膜が剥がれ落ちる現象が生理です。
生理ではない時期に出血が生じる症状を不正出血と呼びますが、更年期は不正出血が生じやすい時期でもあります。重症な場合には貧血の原因になるケースもあり、更年期障害の注意すべき症状の一つです。
まずは、更年期の不正出血について詳しく見てみましょう。
更年期障害の不正出血の原因
更年期障害の不正出血は女性ホルモンバランスの乱れによって引き起こされます。更年期では子宮内膜の増殖を促すエストロゲンが減少し、十分に増殖しなかった子宮内膜が生理ではない時期に剥がれ落ちやすくなると考えられています。
また、更年期になると正常な排卵の頻度が低くなっていきます。排卵がない場合はプロゲステロンが分泌されなくなるため、エストロゲンの作用によって子宮内膜が過剰に増殖することで不正出血しやすくなるのです。
さらに、更年期にさしかかると不正出血の原因となる子宮筋腫や子宮内膜症、子宮体がんなどの病気になる女性が増えていきます。これらの病気が不正出血の原因となっているケースは少なくありません。
更年期障害の不正出血の症状
更年期障害の不正出血には次のような特徴があります。
- 生理周期が長くなったり、短くなったりする
- 生理の量が多くなったり、少なくなったりする
- 腹痛や貧血など生理に伴う症状が強くなる場合がある
更年期障害の不正出血の症状の現れ方には個人差があります。エストロゲンの分泌量が著しく低下する場合には子宮内膜が十分に増殖しないため、出血量も少なくなります。
一方で、排卵が生じずにプロゲステロンが分泌されない場合は子宮内膜が過剰増殖するため出血量が多く、腹痛や貧血などの症状も強くなるのが特徴です。
更年期障害の不正出血の治療方法
更年期障害の不正出血が続くと貧血を引き起こすこともあるため、適切な治療が必要となります。
更年期障害の不正出血では不足したエストロゲンを補うためのホルモン補充を行うのが一般的です。
しかし、子宮内膜が過剰に増殖するタイプの不正出血の場合には子宮内膜の増殖を抑えるためのピルなどによる薬物療法を行います。
水素吸入が更年期の不正出血の予防や改善に役立つ可能性

更年期障害は不正出血が生じやすい時期です。不正出血は予期せぬ場面で生じることも多く、頻度が多くなると外出が億劫になるなど日常生活にも支障を来す場合があります。
また、腹痛や貧血などの症状を伴うケースもあり、つらい症状に悩まされている女性も少なくないでしょう。
不正出血が続く場合は適切な治療が必要ですが、現在でも予防や治療方法に関しての研究が重ねられています。現在のところ水素吸入の効果を検証した研究結果は報告されていませんが、抗酸化物質に着目した研究結果は報告されています。
具体的な内容を詳しく見てみましょう。
抗酸化物質が生理周期の調節に役立つ?
2023年、スロバキアの研究チームは体内の抗酸化物質が減少すると卵子の代謝や子宮内膜の成熟に影響を及ぼすことを示唆する総説論文を発表しました1)。
総説論文とは、これまで世界中で行われてきたさまざまな研究結果をまとめて新たな結論を導き出す論文のことです。
この総説論文では、抗酸化物質が正常な排卵を促し、子宮内膜の正常な増殖に必要なことを示しています。研究者たちはビタミン類、フラボノイドなどの抗酸化物質の補充が女性の生理周期を整える可能性があると結論付けました。
水素吸入が更年期障害の不正出血を予防する可能性
この総説論文では、抗酸化物質が更年期障害の不正出血の原因となる無排卵や子宮内膜増殖の異常を抑制する働きがあることを示しています。
水素吸入にも抗酸化作用があるため、この説が正しいとすれば同様の効果を発揮することで不正出血を予防できる可能性があると言えるでしょう。
まだ確実な効果があると言える段階ではありませんが、今後の研究の進展に期待したいと思います。
抗酸化物質が不正出血を改善する?
2000年、インドネシアの研究チームは抗酸化作用を持つビタミンEが、子宮内膜の正常な増殖を促すという研究結果を報告しました2)。
この研究は、避妊薬としてプロゲステロンを使用している患者を対象に、血液中の酸化ストレスとビタミンE濃度の変化を検証しています。その結果、プロゲステロンを使用している女性は使用していない女性に比べて有意に酸化ストレスが高く、ビタミンEが減少したことを明らかにしています。
さらに、子宮内膜の状態を比較したところプロゲステロンを使用している女性は増殖の調節が正常に行われず不正出血のリスクが高いことが分かりました。また、子宮内膜の細胞にビタミンEを加えると正常に増殖しやすい状態になることも明かされています。
水素吸入が更年期障害の不正出血を改善する可能性
今回の研究結果から、抗酸化物質であるビタミンEには子宮内膜の正常な増殖を促して不正出血を抑える可能性があることが示されました。研究者たちも、プロゲステロンなどのホルモン製剤による不正出血の副作用の治療にビタミンEなどの抗酸化物質が役立つ可能性があると推論しています。
水素吸入にも抗酸化作用があるため、この説が正しいとすれば更年期障害の不正出血を改善する効果が期待できるでしょう。
実際の効果を立証するにはさらなる研究の進展が必要です。水素吸入が不正出血に悩む更年期の女性に広く活用される日が来ることを望みます。
【私はこう考える】水素吸入と更年期の不正出血
不正出血は更年期障害でよく見られる症状の一つです。軽度な出血のみであれば様子を見ることも可能ですが、出血量が多く頻回に発症する場合には貧血などのリスクがあるため適切な治療が必要となります。
基本的には医師の指示に従った治療が必要ですが、今回ご紹介した2つの研究結果から、水素吸入には不正出血を予防や改善する可能性が秘められていることが明らかになりました。
まだ理論的な考察の段階であり、実際に水素吸入の不正出血への効果を探る研究は現時点では行われていません。しかし、水素吸入にもある抗酸化作用が不正出血の予防や改善に役立つ可能性が示されています。
2つの研究結果は、水素吸入に秘められたパワーを推測する上で非常に有益な結果であったと言えます。特に、インドネシアの研究は子宮内膜の組織的な変化を細かく検証しており、信頼性がある結果だと思います。
今後はヒトを水素吸入自体の研究が進み、不正出血をはじめとした更年期障害のさまざまな症状の予防や改善に役立つようになることを期待しましょう。
参考文献
- Vašková, J., Klepcová, Z., Špaková, I., Urdzík, P., Štofilová, J., Bertková, I., Kľoc, M., & Rabajdová, M. (2023). The Importance of Natural Antioxidants in Female Reproduction. Antioxidants, 12(4), 907. https://doi.org/10.3390/antiox12040907
- Subakir, S. B., Abdul Madjid, O., Sabariah, S., & Affandi, B. (2000). Oxidative stress, vitamin E and progestin breakthrough bleeding. Human reproduction (Oxford, England), 15 Suppl 3, 18–23. https://doi.org/10.1093/humrep/15.suppl_3.18
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