一言まとめ
肺移植後に生じる虚血再潅流障害や炎症による肺障害に対し、水素分子が抗酸化・抗炎症・抗アポトーシス作用を示すことが、動物実験研究を中心に報告されている。さらなる動物実験と臨床試験の積み重ねが必要。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸入は肺移植後の肺障害を軽減し、移植肺機能の維持や改善に寄与する可能性が高い。
研究の背景と目的
肺移植は末期肺疾患に対する最終手段として行われるが、移植後にしばしば問題となる一次移植肺機能不全(PGD)は高い罹患率と死亡率の原因となる。PGDの主な要因として、虚血再潅流障害による炎症や酸化ストレスが挙げられる。近年、水素分子の抗酸化・抗炎症・抗アポトーシス作用に注目が集まり、脳死ドナーや循環死ドナーからの肺提供時における温虚血・低温虚血・再潅流による損傷をどのように軽減できるかが大きな課題となっている。本研究(総説)は、動物実験を中心とした既存の研究報告を総括し、水素分子が肺移植後の肺障害を保護する可能性と作用メカニズムを整理することを目的としている。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 一次移植肺機能不全(PGD):肺移植後の早期に起こる肺障害のこと。呼吸不全や炎症などが強く、移植肺の予後を大きく左右する。
- 虚血再潅流障害(I/R障害):血流が遮断された後、再び血流が戻る際に組織が酸化ストレスや炎症によって損傷を受ける現象。
- 酸化ストレス:活性酸素種(ROS)やフリーラジカルが過剰に生成され、細胞・組織に障害を与える状態。
- MDA(マロンジアルデヒド):脂質過酸化の指標として用いられる物質。酸化ストレスの程度を推定する目安。
- MPO(ミエロペルオキシダーゼ):好中球が持つ酵素で、組織での好中球浸潤を示す指標。炎症や組織障害の評価に用いられる。
- アポトーシス:遺伝子制御によって細胞が計画的に死に至る現象。過剰なアポトーシスは組織障害の原因となる。
- NF-κB / MAPK / Nrf2:細胞内シグナル伝達の中心的経路。炎症性サイトカインの産生制御や抗酸化遺伝子の発現調節など、多岐にわたり細胞応答を司る。
論文情報
タイトル
Protective effects of molecular hydrogen on lung injury from lung transplantation(肺移植による肺障害に対する水素分子の保護効果)
引用元
Quan, L., Zheng, B., & Zhou, H. (2021). Protective effects of molecular hydrogen on lung injury from lung transplantation. Experimental biology and medicine (Maywood, N.J.), 246(12), 1410–1418. https://doi.org/10.1177/15353702211007084
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