感染症
【医師監修】水素吸入が結核の補助治療に?期待される役割とは

【医師監修】結核の補助治療:水素吸入に期待される役割とは

《この記事の執筆者》

結核は「過去の病気」と思われがちですが、いまだに年間約1万人が発症する感染症です。

特に免疫力が低下しやすい高齢者や持病を抱える方にとって、そのリスクは無視できません。

この結核に対する新たな手法として注目を集めているのが「水素吸入」です。

本記事では、結核の基礎知識から「水素吸入」が予防や治療にどう役立つ可能性があるのか、科学的な視点で詳しく解説します。高齢になる程リスクが心配になる結核から身を守るためにも、ぜひ最後までご覧ください。

すいかつねっとのエビデンス評価
2.0

現時点では、水素吸入が結核の治療や予防に直接的な効果をもたらすことを裏付ける研究結果は報告されていない。ただし、活性酸素と結核菌の関係や抗酸化物質の有効性が示唆されており、水素吸入の応用が理論的に期待される段階。

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結核について

結核について

結核は、細菌感染によって引き起こされる感染症です。

かつては死の病として恐れられていましたが、有効な治療法が確立された現在では結核で命を落とす人は激減しています。

一方で、結核は感染してから症状が現れるまで長い時間がかかり、免疫機能が低下したときに発症するリスクが高まります。そのため、今でも高齢者や持病のある人が発症するケースは少なくありません。

まずは、結核の原因、症状、治療について詳しく見てみましょう。

結核の原因

結核は、結核菌という細菌に感染することによって引き起こされる病気です。結核菌は一般的な細菌のように飛沫感染や接触感染ではなく、空気感染によって感染が広がっていきます。

空気感染は、発症者から排出されて空気中を漂う結核菌を、同じ空間にいる人が吸い込むことで感染する経路です。そのため、多くの人に感染を広げる可能性があり、日本では結核と診断され排菌していることが分かった場合には、結核病棟への入院が必要となります。

一方で、結核菌は感染しても実際に発症するのは5~10%程度です。多くは感染しても免疫機能の働きによって結核菌の活動が抑えられ、症状が現れることはありません。

しかし、免疫機能が低下すると結核菌が活性化して様々な症状を引き起こし、体外にも結核菌を排出するようになります。

結核の症状

結核を発症すると、以下のような症状が現れます。

結核の主な症状
  • 発熱(37℃台の微熱)
  • 3週間以上持続する咳
  • 血が混ざった痰
  • 疲労感
  • 体重減少
  • 夜間の寝汗

高齢者の場合は典型的な症状が現れないことも多く、「なんとなく元気がなくなった」と感じていると結核を発症していたというケースもあります。

結核の治療方法

結核を発症した場合は、複数の抗結核薬を内服する治療を行います。

内服する期間は半年以上の長期間に渡りますが、途中で治療を中断すると耐性菌が出現する可能性があるため注意が必要とされています。

また、抗結核薬は肝機能障害などの副作用を引き起こす場合もあるため、医師の管理の下で適切な治療を継続していくことが大切です。

水素吸入が結核の予防や治療に役立つ可能性

結核に対する有効な治療薬やワクチンが開発された結果、現在では結核の発症者は激減しています。しかし、高齢化が進む中で免疫機能の低下とともに結核を発症するケースもあり、今でも注意すべき感染症の一つと考えられています。

これまでにも結核の新たな予防や治療方法を見出すための研究が重ねられてきました。結核に対する水素吸入の直接的な効果を検証した研究結果は報告されていません

しかし、水素吸入が結核の予防や治療をサポートする可能性を示唆する研究結果が報告されています。

具体的な内容を詳しく見てみましょう。

活性酸素が結核菌の増殖を促進する?

2017年、ドイツの研究チームは体内での結核菌の増殖に活性酸素が深く関わっている可能性を示唆する研究結果を報告しました1)。

この研究は結核に感染させたマウスを用いた動物実験です。活性酸素によって血液中の免疫細胞が刺激されると炎症を引き起こす物質が放出され、結核菌の生存と増殖を促進させたことが明かされています。

水素吸入が結核の発症を予防する可能性

今回の研究では、活性酸素が結核菌の増殖に関わって発症の原因になりうることが示唆されました。研究者たちも免疫細胞への刺激を抑える薬剤の開発が新たな結核治療に応用できる可能性があると言及しています。

活性酸素を効率的に除去できる水素吸入は免疫細胞への刺激を抑えて結核の発症を予防できる可能性があります。確実な効果があると言える段階ではありませんが、さらに研究が進み効果が立証される日を期待しましょう。

抗酸化物質が結核による肺のダメージを軽減する?

2022年、メキシコの研究チームは抗酸化作用を持つN-アセチルシステインが結核による肺損傷を抑え、治療の補助的な役割を果たすと報告しました2)。

この論文は、これまでの研究などで分かっている結核の病態生理を詳細に解説しています。その中で研究者たちは、結核菌に感染すると活性酸素が増加して抗酸化物質が減少することを指摘しました。活性酸素の増加による酸化ストレスが炎症を免疫機能の抑制を引き起こすことで結核の重症化を促す可能性を示唆しています。

また、抗酸化物質が結核による肺損傷を抑制する可能性にも言及しました。

水素吸入が結核の治療に役立つ可能性

今回の論文は抗酸化物質が結核の補助的な治療に役立つ可能性を示しています。

この論文中では抗酸化物質としてN-アセチルシステインが使用されていますが、活性酸素を効率よく除去できる水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性があるでしょう。

今後はヒトを対象とした大規模な研究が必要となりますが、さらに研究が進展し水素療法が結核治療の補助的な治療法となる日を期待します。

【私はこう考える】水素吸入と結核

日本では現在でも一年間に10,000人程度が結核と診断されています。発症者は減少傾向にありますが、撲滅できた病気ではなく注意が必要な感染症の一つです。

結核には有効なワクチンや抗結核薬が開発されていますが、結核で命を落とす人や重症化する人もいるのが現状です。特に最近では結核が流行している国からの渡航者を介して感染する機会が増えているとされています。

今回紹介した2つの研究結果から、水素吸入はすでに確立している結核の予防や治療法の補助的な役割を果たす可能性が期待できると考えます。どちらの研究も結核の病態生理を詳細に追求し、その結果から新たな予防や治療方法の手掛かりとなる貴重な結果が得られたと言えるでしょう。

水素吸入を結核の予防や治療方法に応用するまでには多くの課題があります。大規模な臨床研究などさらなる研究の進展がなされ、水素吸入が結核をはじめとした多くの病気の治療方法の一つとして確立する日を期待したいと思います。

参考文献
  1. Dallenga, T., Repnik, U., Corleis, B., Eich, J., Reimer, R., Griffiths, G. W., & Schaible, U. E. (2017). M. tuberculosis-Induced Necrosis of Infected Neutrophils Promotes Bacterial Growth Following Phagocytosis by Macrophages. Cell host & microbe22(4), 519–530.e3. https://doi.org/10.1016/j.chom.2017.09.003
  2. Herrera, M. T., Guzmán-Beltrán, S., Bobadilla, K., Santos-Mendoza, T., Flores-Valdez, M. A., Gutiérrez-González, L. H., & González, Y. (2022). Human Pulmonary Tuberculosis: Understanding the Immune Response in the Bronchoalveolar System. Biomolecules12(8), 1148. https://doi.org/10.3390/biom12081148

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