《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスが引き起こす感染症で、一度発症すると再発や後遺症としての神経痛に悩まされることも少なくありません。
免疫力の低下が主な再発の原因とされ、加齢やストレスがリスク要因として挙げられています。
近年、活性酸素の増加が免疫機能低下を引き起こすことが分かり、その抑制が再発予防につながる可能性が示され抗酸化作用のある水素吸入が注目されています。
本記事では、帯状疱疹の基礎情報から、水素吸入がどのように帯状疱疹の予防や改善に役立つ可能性があるのかについて詳しく解説します。
帯状疱疹について
帯状疱疹は、水痘帯状疱疹(すいとうたいじょうほうしん)ウイルスによって引き起こされる感染症です。
水痘帯状疱疹ウイルスは一度感染すると治った後も神経に潜伏し、免疫機能が低下したタイミングなどで再発を繰り返します。また、症状がないときも強い神経痛の後遺症が残るケースも多く、特に高齢者で問題となります。
まずは、帯状疱疹の原因、症状、治療方法について詳しく見てみましょう。
帯状疱疹の原因
帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスに感染することで発症します。
水痘帯状疱疹ウイルスに初めて感染すると、全身のかゆみを伴う発疹を引き起こす「水ぼうそう(水痘)」を発症します。そして、治ったあとに神経に潜伏した水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化して再発したものが「帯状疱疹」です。
帯状疱疹の再発は免疫機能が低下した際に生じやすく、疲れ、ストレスなどの生活習慣、病気、加齢などが関係します。
帯状疱疹の症状
帯状疱疹は、痛みを伴う水ぶくれが体の左右片側に帯状に生じるのが特徴です。潜伏している神経が支配する部位にのみ症状が現れるため、このような特徴的な症状の現れ方をします。
水疱は非常に強い痛みを伴い、発熱や倦怠感などの全身症状を伴うケースも少なくありません。また、症状が現れる前に水ぶくれができる部位にピリピリした痛みやかゆみといった前兆症状が現れるのも特徴です。
さらに、帯状疱疹は水ぶくれが治った後も発症した部位にピリピリとした痛みが残る「帯状疱疹後神経痛」を引き起こしたり、視力や聴力低下を引き起こしたりするケースもあるため注意が必要です。
帯状疱疹の治療方法
帯状疱疹を発症したときは、水痘帯状疱疹ウイルスに対する抗ウイルス薬を用いた薬物療法が行われます。発症後はできるだけ早く抗ウイルス薬の使用を開始することが推奨されています。
また、症状に合わせて鎮痛剤などを使用する場合もあり、帯状疱疹後神経痛を発症した場合には抗うつ薬や抗てんかん薬が有効です。
水素吸入が帯状疱疹の予防や治療に役立つ可能性
帯状疱疹は強い症状を引き起こす感染症であり、再発を繰り返すためつらい症状に悩まされている方は少なくないでしょう。日本では50歳以上の人に対して帯状疱疹の発症を予防するためのワクチンが推奨されています。
帯状疱疹の新たな予防や治療方法を見出すための研究は現在も続けられています。
残念ながら今のところは、水素吸入が帯状疱疹の予防や治療に役立つとする直接的な研究結果は報告されていません。しかし、帯状疱疹に対する抗酸化作用の効果を検証した研究結果は報告されています。
具体的な内容を見てみましょう。
活性酸素の増加が免疫機能低下を引き起こして再発の原因になる?
2018年、イランの研究チームは水痘帯状疱疹ウイルスへの感染で増加した活性酸素が再発の主な原因となる可能性を示しました1)。
この研究は43名の帯状疱疹患者と47名の健康な人を対象に行われ、酸化ストレスを示す血液中の物質を測定されました。その結果、帯状疱疹患者は有意に酸化ストレスが高く、抗酸化力が低いことが明らかになりました。
これまでの研究結果から活性化酸素の増加はウイルスの活性化を抑えるT細胞(免疫細胞の一つ)の機能を低下させることが分かっています。そのため、研究者たちは帯状疱疹ウイルスによる活性酸素の増加がT細胞の働きを抑え、さらにウイルスが活性化して活性酸素が増えていくという悪循環が再発の原因である可能性を示しました。
水素吸入が帯状疱疹の予防に役立つ可能性
この論文は、実際の帯状疱疹患者の酸化ストレスや抗酸化力の変化を検証した研究結果を元に帯状疱疹の再発と活性酸素の関係を述べています。
結果として、帯状疱疹の再発は活性酸素による免疫機能低下が重要な要因である可能性が示唆されました。水素吸入には活性酸素を効率よく除去する作用があるため、帯状疱疹の再発予防に役立つ可能性があるかもしれません。
まだ研究段階ですが、さらに検証が進んで水素吸入が新たな再発予防方法として応用される日を期待しましょう。
抗酸化物質が帯状疱疹の症状を改善する?
2012年、ドイツの研究チームは帯状疱疹患者に2週間にわたってビタミンCを注射したところ、痛みや倦怠感などの症状が有意に緩和されたことを明らかにしました2)。
この研究は、67名の帯状疱疹患者を対象に行われ、2週間の投与で92.2%に症状改善を認めたことが報告されています。また、長期的にみると帯状疱疹後神経痛の発症も有意に抑えられたとしています。
水素吸入が帯状疱疹の治療に役立つ可能性
今回の結果から、研究者たちはビタミンCが持つ抗酸化作用と抗炎症作用が帯状疱疹の改善を促した可能性を提唱しました。
まだ少人数を対象とした検証であるため確実な効果があると言える段階ではありません。しかし、この説が正しいのであれば強い抗酸化作用がある水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性はあるでしょう。
今後はさらに無作為化プラセボ対照試験を大規模に行って効果の検証が進むことを期待します。
【私はこう考える】水素吸入と帯状疱疹
帯状疱疹は強い痛みを伴う水ぶくれが生じる感染症であり、一度感染すると再発を繰り返す厄介な病気です。また、症状が治ってもつらい神経痛に悩まされる人も多く、高齢者を中心に問題となる病気の一つとなっています。
また、帯状疱疹は症状がないときでも神経痛を引き起こすこともあり、症状が強い人は日常生活に支障が出るケースも少なくありません。
これまでにも高齢の患者を中心に、神経痛が原因で活動性が低下したり認知機能の低下につながったりするケースに遭遇したことがあります。帯状疱疹はその後の生活にも影響を与える病気と言っても過言ではないでしょう。
今回紹介した2つの論文は実際の帯状疱疹患者を対象とした研究結果を報告したものです。どちらも少人数を対象とした検証であるため、今後はさらに多くの人数に対する臨床研究が必要となります。
とはいえ、2つの論文から帯状疱疹の再発には活性酸素による免疫機能低下が関与している可能性、抗酸化作用が帯状疱疹の症状を改善される可能性を示した貴重な結果が示されました。
どちらの研究も帯状疱疹の病態解明や新たな治療方法の確立に役立つ有益な結果を示したと言えます。今後はこの結果を足掛かりとしてさらに研究が進み、帯状疱疹の水素吸入が帯状疱疹の予防や治療のサポートを担う日が来ることを待ちましょう。
参考文献
- Khazan, M., Hedayati, M., Robati, R. M., Riahi, S. M., & Nasiri, S. (2018). Impaired oxidative status as a potential predictor in clinical manifestations of herpes zoster. Journal of medical virology, 90(10), 1604–1610. https://doi.org/10.1002/jmv.25204
- Schencking, M., Vollbracht, C., Weiss, G., Lebert, J., Biller, A., Goyvaerts, B., & Kraft, K. (2012). Intravenous vitamin C in the treatment of shingles: results of a multicenter prospective cohort study. Medical science monitor : international medical journal of experimental and clinical research, 18(4), CR215–CR224. https://doi.org/10.12659/msm.882621