《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
鼻づまりや頭痛など、日常生活に大きな支障をきたすことも多い副鼻腔炎。
風邪やアレルギーが引き金となって発症し、慢性化すると治療が難しくなるため、早期の対策が重要です。
最近では、副鼻腔炎の改善に「水素吸入」が効果を発揮する可能性があるとして注目されています。
本記事では、副鼻腔炎の原因や症状、従来の治療法に加え、最新の研究が示唆する水素吸入の可能性について詳しく解説します。副鼻腔炎にお悩みの方にとって役立つ内容となっているので、ぜひ最後までご覧ください。
副鼻腔炎について
副鼻腔炎とは、鼻の周囲にある副鼻腔と呼ばれる空洞に炎症が生じる病気です。
放っておくと炎症が慢性化してつらい症状が長引き、治療も難しくなるため予防や早い段階での治療が必要となります。
まずは、副鼻腔炎の原因、症状、治療方法について詳しく見てみましょう。
副鼻腔炎の原因
副鼻腔炎は、鼻の奥などにある副鼻腔の粘膜に炎症が生じることによって引き起こされます。炎症の主な原因はウイルスや細菌などの感染であり、多くは風邪をひいたときに発症します。
そのほか、以下のような要因も副鼻腔炎の発症リスクを高めると考えられています。
- アレルギー
- 鼻の構造的な異常
- 気管支喘息
副鼻腔炎の症状
副鼻腔炎を発症すると以下のような症状が生じます。
- 鼻づまり
- 鼻水
- 頭痛、頭重感
- 顔の痛み
これらの症状を放置すると、副鼻腔の粘膜が大きく腫れたり、粘液が溜まったりすることで鼻づまりが続き、においや味を感じにくくなるケースも少なくありません。
また、頭痛や頭重感が継続するために集中力が低下するなど日常生活に支障を来すケースもあります。
副鼻腔炎は一般的に1~2週間程度で治りますが、症状が継続する場合は注意が必要です。
副鼻腔炎の治療方法
副鼻腔炎の治療には、抗菌薬や鼻詰まりを改善する薬剤などを用いた薬物療法が行われます。
また、原因によっては鼻の構造の異常を修正するための手術や腫れた粘膜の通りを改善するための手術などが行われることがあります。
治療方法は原因や重症度によって異なるため、医師の指示に従って適切な治療を継続するようにしましょう。
水素吸入が副鼻腔炎の予防や改善に役立つ可能性
副鼻腔炎は風邪を引いたときなどによく見られる病気ですが、慢性化すると手術が必要になる場合もあります。
これまでにも副鼻腔炎の新たな予防や治療方法を見出すための研究が重ねられてきましたが、水素吸入が副鼻腔炎の予防や改善に直接的に役立つことを示した研究結果は現在のところ報告されていません。
一方で、水素吸入で除去できる活性酸素の関わりや水素水(水素ガスが溶けた水)の効果を示した研究結果は報告されています。
具体的にどのような内容か詳しく見てみましょう。
活性酸素が副鼻腔炎の発症リスクを高める?
2021年、アメリカの研究チームは環境汚染物質によって多く産生した活性酸素が副鼻腔の炎症を引き起こし、抗酸化物質の投与によって炎症が抑制されたことを示す研究結果を報告しました1)。
この研究は、ヒトの鼻の粘膜細胞を用いて行われた研究です。環境汚染物質に暴露されて活性酸素が増えた粘膜細胞は炎症性物質が多く産生されたことが分かりました。
さらに、環境汚染物質の暴露前に抗酸化物質であるN-アセチルシステインを添加すると、活性酸素と炎症性物質の増加が抑制されたことが明らかになっています。
水素療法が副鼻腔炎を予防する可能性
今回の研究から、抗酸化物質は副鼻腔炎の発症を予防できる可能性が示唆されました。
同じく抗酸化作用を持つ水素吸入にも同様の効果が期待できる可能性はあるでしょう。
まだ細胞を用いた段階の研究ですが、今後はさらにヒトを対象として研究が行われて水素吸入の効果の検証が進むことを期待します。
水素水での洗浄が慢性的な副鼻腔炎の症状を改善する?
2022年、中国の研究チームは水素水での鼻腔の洗浄が慢性的な鼻炎や副鼻腔炎の症状を改善するとの研究結果を報告しました2)。
この研究はランダム化二重盲検臨床試験をもとに行われています。慢性的な鼻炎や副鼻腔炎がある患者120名を水素水で鼻腔洗浄を行う群と通常の水で行う群に分けて、症状の変化を検証しました。
その結果、水素水で洗浄した群は水で洗浄した群と比較すると有意に鼻づまりや鼻水などの症状の改善が見られました。また、鼻水の成分を比較したところ、水素水で洗浄した群は炎症性細胞が有意に少なくなったことが明らかになっています。
水素吸入が副鼻腔炎の治療に役立つ可能性
今回の研究結果から、水素水での鼻腔の洗浄は副鼻腔炎の治療に役立つ可能性が示唆されました。水素吸入は水素水よりも効率的に炎症の元となる活性酸素を除去できるため、同様の効果が期待できるかもしれません。
また、近年では水素水を生成できる水素吸入機もあるため実際に水素水を作って鼻腔洗浄するのもよいでしょう。
今後はさらに大規模な人数を対象として研究を行い、水素吸入が副鼻腔炎の治療に広く使用される日が来ること期待します。
【私はこう考える】水素吸入と副鼻腔炎
副鼻腔炎はよく見られる病気であり、鼻づまりや頭痛などのつらい症状に悩まされたことがある方も少なくないでしょう。
今回ご紹介した2つの研究結果は、いずれも副鼻腔炎の新たな予防や治療方法の確立に向けた第一歩となる結果であったと言えます。まだ確実な効果があると言える段階ではありませんが、水素吸入が副鼻腔炎の予防や改善に役立つ可能性は大いに期待できる結果となりました。
特に中国の研究チームが行った研究は実際の患者を対象としたランダム化二重盲検臨床試験であることから、非常に信頼性が高く有意義な結果が得られたと感じます。
また、アメリカの研究チームによって副鼻腔炎と活性酸素の関係が示されたことも興味深い内容です。
今後さらに研究が進みその有効性が確立されることで、水素吸入が副鼻腔炎の予防や治療方法として活用される日が来るかもしれません。
水素吸入は大きな副作用はなく自宅でも気軽に行うことができます。副鼻腔炎になりやすい方、慢性的な副鼻腔炎にお悩みの方は健康増進法の一つとして今から取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- Leland, E. M., Zhang, Z., Kelly, K. M., & Ramanathan, M., Jr (2021). Role of Environmental Air Pollution in Chronic Rhinosinusitis. Current allergy and asthma reports, 21(8), 42. https://doi.org/10.1007/s11882-021-01019-6
- Jin, L., Fan, K., Tan, S., Liu, S., Ge, Q., Wang, Y., Ai, Z., & Yu, S. (2022). The Beneficial Effects of Hydrogen-Rich Saline Irrigation on Chronic Rhinitis: A Randomized, Double-Blind Clinical Trial. Journal of inflammation research, 15, 3983–3995. https://doi.org/10.2147/JIR.S365611