一言まとめ
早期の間質性肺疾患患者87人に対して水素療法を行うことで、現行のN-アセチルシステイン(NAC)と比較して優れた効果と安全性が示された。具体的には、画像所見、肺拡散能力(DLCO-sb)の改善が確認された。
3分で読める詳細解説
結論
水素水治療は、早期間質性肺疾患患者に対してNACよりも優れた有効性と安全性を示した。
研究の背景と目的
間質性肺疾患(ILD)は、肺胞の炎症が間質やその周囲に広がり、びまん性の肺線維症を引き起こす疾患群である。酸化ストレスがILDの病態形成に重要な役割を果たすことが知られており、早期の炎症段階で効果的に介入することが重要な治療法と考えられている。抗酸化剤であるN-アセチルシステイン(NAC)は早期ILD患者の治療に用いられてきたが、肺組織での生物学的利用能が低いことが課題であった。一方、水素分子は選択的に細胞毒性の高い活性酸素種を還元する効率的で無害な抗酸化物質として注目されている。これまでのin vivo実験により、水素分子が間質性肺疾患治療に有効な可能性が示唆されている。そこで、本研究では早期の間質性肺疾患患者を対象に水素療法とNAC(Nアセチルシステイン)療法を比較し、その効果と安全性を比較検証した。
研究方法
単一施設前向きランダム化並行群間比較試験で行った。
139人をスクリーニングし、早期間質性肺疾患患者87人を選定した。この87人を対象に、水素療法(1.6ppmの水素水350mLを1日2回経口投与)44人とNAC療法(600mg 1日3回経口投与)43人をランダムに 1:1 で割り付けた。除外項目は、ステージが早期でないもの(息切れ、肺高血圧、予測DLCO<40%, 一分間の歩行テストによる酸素飽和度<88%, 高解像度CT画像でハニカムラング)、市中肺炎を含む微生物による肺疾患患者、COPDなどの肺疾患既往歴、シリコン肺、肺毒性薬の長期使用歴ありである。
主要評価項目は、48週目までの高解像度CT画像の変化とcomposite physiologic indexの変化である。副次的評価項目は、肺機能とし、安全性を評価する目的で有害事象について記録した。
研究結果
※FAS(full analysis set):ランダム化された被験者のうち、有効なデータが一つもないものなどを除外した集団。なるべくランダム化を保持できるよう最低限の除外を行った集団といえる。
※PPS(per protocol set):プロトコルを完遂したものだけを残した集団。介入による二群間の差を良く反映することができると考えられるが、一方でランダム化が損なわれるリスクがある。
Appendix(用語解説)
- 間質性肺疾患(ILD):肺の間質に炎症や線維化が生じる疾患の総称。原因不明の特発性肺線維症や、膠原病に伴うものなどがある。
- 複合生理学的指標(CPI):ILDの重症度評価や予後予測に用いられる指標。肺活量、一秒量、肺拡散能力から算出される。
- 肺拡散能力(DLCO):肺胞から血液中にガスが拡散する能力。一酸化炭素を用いた単回呼吸法(DLCO-sb)によって測定される。
- 努力性肺活量(FVC):最大吸気位から最大呼気位まで最大努力で呼出したときの呼気量。拘束性換気障害で低下する。
- 1秒量(FEV1):最大吸気位から最大努力で呼出を開始して1秒間に呼出される呼気量。閉塞性換気障害で低下する。
- 1秒率(FEV1/FVC%):FVCのうち1秒間に呼出される割合。正常では70%以上だが、閉塞性換気障害では70%未満に低下する。
- 全肺気量(TLC):最大吸気位での肺内の空気量。拘束性換気障害で低下し、閉塞性換気障害では増加することが多い。
- 肺拡散能力(DLCO):肺胞から毛細血管への一酸化炭素の拡散能力。間質性肺疾患や肺気腫で低下する。
論文情報
タイトル
Efficacy and Safety of Hydrogen Therapy in Patients with Early-Stage Interstitial Lung Disease: A Single-Center, Randomized, Parallel-Group Controlled Trial(早期間質性肺炎に対する水素療法の有用性と安全性について:単一施設前向きランダム化並行群間比較試験)
引用元
Tang, C., Wang, L., Chen, Z., Yang, J., Gao, H., Guan, C., Gu, Q., He, S., Yang, F., Chen, S., Ma, L., Zhang, Z., Zhao, Y., Tang, L., Xu, Y., Hu, Y., & Luo, X. (2023). Efficacy and Safety of Hydrogen Therapy in Patients with Early-Stage Interstitial Lung Disease: A Single-Center, Randomized, Parallel-Group Controlled Trial. Therapeutics and clinical risk management, 19, 1051–1061. https://doi.org/10.2147/TCRM.S438044
専門家のコメント
本研究は、早期の間質性肺疾患患者に対して水素療法を行うことでNAC療法より優れているか検証したものです。結果として、水素療法で改善率が優れていること、安全性が劣らないことが確認されました。単一施設の研究ではありますが、87名と決して少なくない人数を対象に結果が出たことは注目に値します。水素もNACも強力な抗酸化物質としての一面を持ちますが、機序が違うことが今回の差を生んだ可能性があります。水素は直接的に抗酸化物質として作用するのに対して、NACは抗酸化物質のグルタチオン合成を助けることでその抗酸化作用を発揮します。
また、この機序からは、水素の方が個体差が少なく安定した作用を提供できる可能性が高いと考えられ、その効果に加えて大きな利点となるでしょう。