水素吸入で進行がん患者の生活の質が改善 – 82名の追跡調査

結論
ステージIII・IVの進行がん患者82名に水素吸入を実施したところ、疲労や不眠などの生活の質が幅広く改善し、画像検査では約6割の患者で腫瘍の進行が抑えられた。がん種やステージによる効果の差も示されており、今後のさらなる検証が期待される。
研究の背景と目的
水素には抗酸化作用や抗炎症作用があり、がんへの応用が注目されてきた。しかし、進行がん患者に水素吸入を行い、効果を多角的に追跡したヒトの大規模データは限られていた。
本研究では「リアルワールドエビデンス※」の手法を採用。ステージIII・IVの進行がん患者82名に水素吸入を行い、生活の質や腫瘍の変化を追跡調査した。
※リアルワールドエビデンスとは、厳密に条件を統制した臨床試験ではなく、日常の診療環境で得られたデータに基づく科学的根拠のこと
研究方法
従来の治療に反応しない、または治療を受けられないステージIII・IVの進行がん患者82名が対象。水素吸入を3か月以上継続し、その経過を追跡した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | ステージIII・IVの進行がん患者82名 (III期 21名、IV期 61名) |
| 主ながん種 | 肺がん 19名、婦人科がん 16名、肝臓がん 11名、膵臓がん 10名ほか |
| 水素吸入の条件 | 水素66.7%+酸素33.3%の混合ガス (流量 3000 mL/分) |
| 吸入時間 | 1日3時間以上を3か月以上継続 |
| 併用治療 | 水素吸入のみ 28名(34%) 化学療法等を併用 54名(66%) |
| 研究デザイン | 前向き+後ろ向き観察研究(対照群なし) |
主な評価項目は以下の4つ。
- QLQ-C30(がん患者の生活の質を測る国際的な質問票)による生活の質(QOL)評価
- ECOGスコア(体の動きやすさの5段階評価)による身体状態の評価
- 血液中の腫瘍マーカーの変化
- RECIST基準(画像で腫瘍の大きさの変化を判定する国際基準)による腫瘍の応答
研究の主な結果
本研究の結果から、以下の3点を取り上げる。
- ① 疲労・不眠・痛みなどの生活の質が幅広く改善
- ② 身体状態の改善は、がんの種類によって大きな差があった
- ③ 画像評価では約6割で腫瘍の進行が抑えられた
① 生活の質が幅広く改善した
30名を対象に、水素吸入の前後で生活の質を評価した。
| 評価項目 | 治療前 | 4週間後 | p値 |
|---|---|---|---|
| 疲労 | 61.7 | 38.0 | 0.0001 |
| 不眠 | 65.6 | 41.9 | 0.0012 |
| 食欲不振 | 48.4 | 26.9 | 0.0024 |
| 痛み | 35.5 | 21.5 | 0.0009 |
| 吐き気・嘔吐 | 23.1 | 10.8 | 0.0374 |
| 身体機能 | 55.1 | 68.1 | 0.0010 |
| 役割機能 | 59.1 | 76.9 | 0.0004 |
進行がん患者にとって切実な悩みである疲労や不眠が、水素吸入4週間で大きく軽減された。とくに疲労スコアは約4割低下しており、すべての主要項目で統計的に有意な改善が認められた。
身体のだるさが和らぎ、日常の動作がしやすくなるなど、生活全般にわたる底上げが示された。
② がんの種類で身体状態の改善に差があった
ECOGスコアを用いて、3か月後の身体状態の変化をがん種ごとに比較した。
| がんの種類 | 対象人数 | 改善した割合 | p値 |
|---|---|---|---|
| 肺がん | 19名 | 68% | — |
| 肝臓がん | 11名 | 36% | 0.22 |
| 婦人科がん (卵巣がん・子宮頸がんなど) | 16名 | 12% | 0.004 |
| 膵臓がん | 10名 | 0% | 0.002 |
全体では42%の患者で身体状態が改善し、34%は維持、24%は悪化した。がんの種類による差は歴然としており、肺がんでは約7割が改善した一方、膵臓がんでは改善した患者がいなかった。
吸入した水素が肺に直接届きやすいことが、肺がん患者で効果が大きかった一因と考えられる。
③ 腫瘍の進行が抑えられた
RECIST基準に基づき、3か月後の画像検査(CTやMRI)で腫瘍の変化を判定した。
| ステージ | 対象人数 | 完全消失 | 部分縮小 | 安定 | 進行 | 病勢制御率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| III期 | 19名 | 5% | 21% | 58% | 16% | 84% |
| IV期 | 61名 | 0% | 18% | 31% | 51% | 49% |
| 全体 | 80名 | 1% | 19% | 38% | 42% | 57.5% |
腫瘍マーカー(血液検査でがんの活動度を推測する指標)が治療前に上昇していた58名のうち、36.2%で3か月後にマーカーの低下が認められた。低下が始まるまでの期間は中央値23日であった。
がん種別では肺がんで75%と最も高く、膵臓がん・肝臓がんでは低下例がなかった。 以下は、肺がんが消失した患者の1例。

全体の病勢制御率は57.5%で、ステージIIIの患者では84%と高い制御率が得られた(p=0.0167)。完全消失や部分縮小が確認され始めたのは開始から21〜80日目(中央値55日)であった。
ただし、患者の66%は化学療法などを併用しており、水素だけの効果を切り分けることはできない点に注意が必要である。
安全性
水素吸入のみで治療した29名において、血液検査上の異常は認められなかった。胃の不快感やめまい、鼻の乾燥感などが個別に見られたが、いずれも数日以内に自然に消失しており、重い副作用の報告はなかった。
考察と今後の課題
水素の抗酸化・抗炎症作用が、がんの周囲の環境(がん微小環境)を改善している可能性がある。近年では、水素が免疫細胞(CD8+ T細胞)の疲弊状態を回復させ、抗腫瘍免疫を活性化するメカニズムも報告されている。
ただし、本研究は対照群のない観察研究であり、66%の患者が化学療法等を併用していたため、水素単独の効果は証明されていない。今後は、がん種ごとの効果の違いを検証するとともに、最適な吸入量・時間の確立やランダム化比較試験による科学的検証が求められる。
すいかつねっと編集部の感想
本研究は進行がん82名という比較的大きな規模の報告で、QOL・身体状態・腫瘍マーカー・画像評価の4つの角度から水素吸入の効果を調べた先駆的な内容です。副作用がほぼなく、生活の質を幅広く改善しうるという結果は、「がんと共に生きる」患者さんを支える選択肢として注目に値します。
ただし、対照群がなく、多くの患者が化学療法等を併用していたため、「水素でがんが治る」と解釈すべきではありません。あくまで「既存の治療に加えて生活の質を高める補助的な手段」としての可能性が示された段階です。
本研究の後、同じ研究グループは肺がんに特化した追跡研究を発表しており、大腸がんにおいても免疫機能の改善が報告されています。がんと水素に関する研究の全体像は、以下の記事もあわせてご覧ください。
用語解説
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| リアルワールドエビデンス | 臨床試験のように条件を厳密に統制するのではなく、日常の診療環境で得られたデータに基づく科学的根拠のこと |
| QLQ-C30 | 欧州のがん研究機関(EORTC)が開発した、がん患者の生活の質を評価するための30項目の質問票 |
| ECOGスコア | 患者の全身状態(日常生活をどの程度送れるか)を0〜5の6段階で評価する指標。0が最も良好 |
| RECIST基準 | CTやMRIの画像で腫瘍の大きさの変化を判定する国際的な評価基準 |
| 病勢制御率(DCR) | 完全消失+部分縮小+安定の患者の割合。腫瘍が「悪化しなかった」人の比率を示す |
| 腫瘍マーカー | がん細胞が作り出す物質の血中濃度。がんの活動度や治療効果の目安として使われる |
| がん微小環境 | 腫瘍の周囲を取り巻く細胞や血管、免疫細胞などの環境。がんの増殖や転移に大きく影響する |
| CD8+ T細胞 | がん細胞を直接攻撃する免疫細胞の一種。疲弊状態になると攻撃力が低下する |
論文情報
論文タイトル
“Real world survey” of hydrogen-controlled cancer: a follow-up report of 82 advanced cancer patients(「水素によるがん制御」のリアルワールド調査:進行がん患者82名の追跡報告)
引用元

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