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結論
6か月間の水素吸入によって一時的な症状緩和にとどまらず、疾患修飾的な改善効果が得られる可能性が示唆された。
研究の背景と目的
アルツハイマー病は神経変性による記憶障害や認知機能の低下を特徴とする進行性疾患であり、既存の薬剤では進行抑制効果が限定的である。複合的要因が関与するアルツハイマー病に対して、多機能性をもつ水素吸入の治療可能性に着目し、認知機能の臨床評価(ADAS-cog)だけでなく、脳神経束の状態を評価する拡散テンソル画像(DTI)を用いて水素吸入の効果を検討することを目的とした。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- アルツハイマー病:記憶障害や認知機能の低下を主症状とする神経変性疾患。脳内におけるアミロイドβの蓄積やタウタンパク質異常など、複合的要因で進行すると考えられている。
- ADAS-cog(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale):アルツハイマー病の臨床評価に広く使われる認知機能テスト。得点が低いほど症状が軽度とみなされる。
- DTI(拡散テンソル画像):磁気共鳴画像法(MRI)の一種で、組織内の水分子拡散の方向性を計測し、神経線維の状態や密度を可視化する手法。
- FA(fractional anisotropy)値:拡散テンソル画像で示される値。0に近いほど拡散の向きが等方的、1に近いほど強く方向性をもつことを意味する。一般的に神経線維が良好に維持されているほどFA値が高くなる。
論文情報
タイトル
Therapeutic Inhalation of Hydrogen Gas for Alzheimer’s Disease Patients and Subsequent Long-Term Follow-Up as a Disease-Modifying Treatment: An Open Label Pilot Study(アルツハイマー病患者に対する水素吸入療法とその後の長期追跡:疾患修飾効果を検討したオープンラベル・パイロット研究)
引用元
Ono, H., Nishijima, Y., & Ohta, S. (2023). Therapeutic Inhalation of Hydrogen Gas for Alzheimer’s Disease Patients and Subsequent Long-Term Follow-Up as a Disease-Modifying Treatment: An Open Label Pilot Study. Pharmaceuticals, 16(3), 434. https://doi.org/10.3390/ph16030434
専門家のコメント
三國ユウジ 先生
日本において、65歳以上の認知症の有病率は約10%に及びます。アルツハイマー病が認知症の60〜70%を占めることを考えると非常に一般的な病気といえます。
しかし、一方で、本疾患は神経変性疾患として治療が難しいことで知られています。このような背景をもつ本疾患において水素吸入が有意な改善をもたらしたことは注目すべきことです。
本研究は8名のアルツハイマー病患者を対象とした小規模な非無作為化研究であり、さらなる研究が必要ですが、副作用なく取り入れることができる水素吸入療法は優れた治療法になる可能性を秘めています。

