研究論文
水素吸入によってアルツハイマー病患者の認知機能が改善

水素吸入によってアルツハイマー病患者の認知機能が改善

一言まとめ

アルツハイマー病患者8名に3%の水素吸入を1日2回、6か月間実施し、その後1年間の追跡を行ったところ、ADAS-cogスコアが有意に改善し、6か月後もその効果が持続した。

3分で読める詳細解説

結論

6か月間の水素吸入によって一時的な症状緩和にとどまらず、疾患修飾的な改善効果が得られる可能性が示唆された。

研究の背景と目的

アルツハイマー病は神経変性による記憶障害や認知機能の低下を特徴とする進行性疾患であり、既存の薬剤では進行抑制効果が限定的である。複合的要因が関与するアルツハイマー病に対して、多機能性をもつ水素吸入の治療可能性に着目し、認知機能の臨床評価(ADAS-cog)だけでなく、脳神経束の状態を評価する拡散テンソル画像(DTI)を用いて水素吸入の効果を検討することを目的とした。

研究方法

  • 対象者
    • アルツハイマー病と診断された患者8名(初期ADAS-cogスコア19~40)を対象とした。既存の抗コリンエステラーゼ薬やNMDA受容体拮抗薬を服用中でも症状が進行している者が主な選定基準。
    • 対象外の主な例としては、重篤な呼吸器疾患を抱える者など。
  • 介入方法
    • 濃度:3%の水素
    • 吸入量・頻度・期間:1日2回、各1時間を6か月間
    • 論文中では酸素含有率(21%)への言及はあるが、本解説では主要情報のみを記載
    • 追加の詳細(流量など)は論文内に具体的な数値の記載なし
  • 対照群の設定
    • 治療を受けないアルツハイマー病患者(19名)のADAS-cogデータを同一病院のデータベースから抽出し、初期スコアを類似範囲にそろえて比較した。
    • DTIに関しては別途5名を対照とし、同様の期間で画像データを比較した。
  • 評価方法
    • ADAS-cog: アルツハイマー病の認知機能評価として広く用いられるスコア。数値が低いほど認知機能が良好。
    • 拡散テンソル画像(DTI): 脳内の神経束(白質)の方向性や密度を反映する指標。FA(fractional anisotropy)値0.1と0.2で得られる画像から、海馬を通る神経束のピクセル数を算出し、神経線維の変化を定量解析した。

研究結果

  • 主な結果
    • ADAS-cogの変化(主要結果)
      • 水素吸入群:6か月後、ベースラインから平均-4.1ポイント改善
      • 対照群:同期間に+2.6ポイント悪化
      • 統計的に有意な差を示した(p=0.004など)。
      • その後水素吸入を中止し、追加で6か月・12か月追跡しても、改善傾向が6か月後まで有意に維持された。
    • DTIの変化(主要結果)
      • 神経束の可視化を行ったところ、FA=0.2でのピクセル数が6か月間の水素吸入により初期値より有意に増加(p=0.0036)
      • 未治療対照群と比較しても有意に改善(p=0.001)
      • 水素吸入終了後6か月時点でも初期値より有意な増加が維持され、12か月時点でも一定の改善が持続する傾向がみられた。
  • 考察
    • 水素の抗酸化、抗炎症、エネルギー代謝促進など多面的な働きがアルツハイマー病の進行過程を抑制した可能性が示されている。
    • 患者数が少なく非ランダム化であるため、さらなる大規模プラセボ対照試験が必要とされる。
  • 研究の限界
    • 被験者数が少ないオープンラベル試験であり、プラセボ対照が設定されていない。
    • 継続期間も比較的短く、長期的有効性に関する検証は追加研究が求められる。

Appendix(用語解説)

  • アルツハイマー病:記憶障害や認知機能の低下を主症状とする神経変性疾患。脳内におけるアミロイドβの蓄積やタウタンパク質異常など、複合的要因で進行すると考えられている。
  • ADAS-cog(Alzheimer’s Disease Assessment Scale-cognitive subscale):アルツハイマー病の臨床評価に広く使われる認知機能テスト。得点が低いほど症状が軽度とみなされる。
  • DTI(拡散テンソル画像):磁気共鳴画像法(MRI)の一種で、組織内の水分子拡散の方向性を計測し、神経線維の状態や密度を可視化する手法。
  • FA(fractional anisotropy)値:拡散テンソル画像で示される値。0に近いほど拡散の向きが等方的、1に近いほど強く方向性をもつことを意味する。一般的に神経線維が良好に維持されているほどFA値が高くなる。

論文情報

タイトル

Therapeutic Inhalation of Hydrogen Gas for Alzheimer’s Disease Patients and Subsequent Long-Term Follow-Up as a Disease-Modifying Treatment: An Open Label Pilot Study(アルツハイマー病患者に対する水素吸入療法とその後の長期追跡:疾患修飾効果を検討したオープンラベル・パイロット研究)

引用元

Ono, H., Nishijima, Y., & Ohta, S. (2023). Therapeutic Inhalation of Hydrogen Gas for Alzheimer’s Disease Patients and Subsequent Long-Term Follow-Up as a Disease-Modifying Treatment: An Open Label Pilot Study. Pharmaceuticals16(3), 434. https://doi.org/10.3390/ph16030434

専門家のコメント

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三國ユウジ 先生

日本において、65歳以上の認知症の有病率は約10%に及びます。アルツハイマー病が認知症の60〜70%を占めることを考えると非常に一般的な病気といえます。
しかし、一方で、本疾患は神経変性疾患として治療が難しいことで知られています。このような背景をもつ本疾患において水素吸入が有意な改善をもたらしたことは注目すべきことです。
本研究は8名のアルツハイマー病患者を対象とした小規模な非無作為化研究であり、さらなる研究が必要ですが、副作用なく取り入れることができる水素吸入療法は優れた治療法になる可能性を秘めています。

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