水素吸入がパーキンソン病患者の酸化ストレス指標を変化させた

結論
名古屋大学の研究グループが、パーキンソン病患者20名を対象にランダム化比較試験を実施した。4週間の水素ガス吸入は嗅覚や日常生活動作などに有意な変化をもたらさなかったが、体内の酸化ダメージの度合いを示す指標(尿中8-OHdG)を16%有意に上昇させた。
研究の背景と目的
パーキンソン病は、脳内のドパミン神経が徐々に減少することで手足のふるえや動作の鈍さが生じる神経疾患である。嗅覚の低下は初期症状のひとつで、患者の70〜80%に見られると報告されている。
水素ガスの吸入は動物実験でパーキンソン病モデルの改善が報告されていたが、患者を対象とした吸入試験はなかった。そこで本研究では、水素ガス吸入が嗅覚・非運動症状・日常生活動作・酸化ストレスに与える影響を検証した。
研究方法
名古屋大学大学院医学系研究科の研究グループが、パーキンソン病患者20名を対象にランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験を実施した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | パーキンソン病患者20名 (全員レボドパ服用中) |
| 水素吸入の条件 | 約1.2〜1.4%水素-空気混合ガス (流量 2 L/分) |
| 吸入方法 | 鼻カニューラを使用 朝10分+夕10分の1日2回 |
| 吸入期間 | 4週間 |
| ウォッシュアウト | 8週間 |
| 研究デザイン | ランダム化二重盲検 プラセボ対照クロスオーバー試験 |
- OSIT-J(日本人向け嗅覚テスト。12種類の匂いの正答数で評価)
- UPDRS1(精神・気分の状態を評価する指標)
- UPDRS2(日常生活動作を評価する指標)
- 尿中8-OHdG/Cr(体内の酸化ストレスの程度を反映するバイオマーカー)
研究の主な結果
本研究の結果から、以下の2点を取り上げる。
- ① 嗅覚・非運動症状や日常生活動作に有意な変化はなかった
- ② 酸化ストレスの指標が有意に上昇した
① 臨床症状に有意な変化はなかった
4週間の水素ガス吸入が嗅覚・精神状態・日常生活動作に与えた影響を、プラセボと比較した。
| 評価項目 | 水素吸入前 | 水素吸入後 | p値 |
|---|---|---|---|
| OSIT-J (嗅覚) | 4.7±2.0 | 4.85±1.9 | 0.77 |
| UPDRS1 (精神・気分) | 2.2±1.6 | 2.3±1.9 | 0.84 |
| UPDRS2 (日常生活動作) | 13.7±9.0 | 15.9±7.0 | 0.15 |
嗅覚テスト・精神状態・日常生活動作のいずれにおいても、水素吸入による統計的に有意な変化は認められなかった。4週間・1日20分という短い介入では、パーキンソン病の臨床症状を改善するには至らなかった。
② 酸化ストレスの指標が有意に上昇した
尿中8-OHdG(体内の酸化ストレスの程度を反映する指標)の変化を、水素吸入群とプラセボ群で比較した。
| 群 | 吸入前 | 吸入後 | p値 |
|---|---|---|---|
| 水素吸入 | 9.5±9.7 | 11.0±5.9 | 0.02 |
| プラセボ | 9.2±6.9 | 9.7±6.8 | 0.59 |

水素ガスの吸入により、尿中8-OHdGは16%有意に上昇した(p = 0.02)。一方、プラセボ吸入では変化がなかった。
この16%という上昇幅は、糖尿病患者で報告されている300%以上の上昇に比べるとはるかに軽微であり、8日間の反復的なランニング後に見られる上昇(26%)と同程度の水準である。著者らは、この軽度の酸化ストレス上昇が「ホルミシス」(適度なストレスが細胞の防御機構を活性化する現象)を反映している可能性を提唱している。
考察と今後の課題
水素ガスにより誘発された軽度の活性酸素種の増加は、Nrf2(細胞の抗酸化防御を制御する転写因子)やNF-κB経路、ヒートショック応答を活性化する可能性がある。これは適度な運動が健康に良い影響を与えるメカニズムと類似しており、水素の有益な作用がホルミシスを介している可能性を示唆する。
ただし、本研究は4週間・1日2回各10分間という短い介入であり、水素濃度も約1.2〜1.4%と低い。また、対象が20名と少数であるため、今回の結果はあくまで予備的な知見である。臨床症状の改善が見られなかった背景には、介入期間の短さや吸入量の不足がある可能性がある。今後は、より長期・高濃度・大規模な条件でパーキンソン病に対する水素吸入の効果を検証する研究が求められる。
すいかつねっと編集部の感想
本研究は、パーキンソン病患者に対する水素ガス吸入の効果をランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験という厳密なデザインで評価した貴重な報告です。結果として臨床症状の改善は確認されませんでしたが、酸化ストレスマーカーの有意な変化は、水素が体内で確かに生物学的な反応を起こしていることを示しています。
興味深いのは、酸化ストレスの上昇を「悪い変化」ではなく、運動と似た「ホルミシス効果」として解釈している点です。この仮説はその後、水素がミトコンドリア内のヘムと反応してホルミシスを誘発するという理論へと発展しています。
なお、同じ研究グループは後に16週間に延長したパーキンソン病患者へのRCTを実施しています。パーキンソン病と水素吸入についてはメカニズムと症例報告も報告されており、研究は着実に積み重ねられています。パーキンソン病を抱えるご家族にとって、今後の研究の進展を見守りつつ、主治医と情報共有する材料としてお役立てください。
用語解説
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| パーキンソン病 | 脳内のドパミン神経が減少し、手足のふるえ・筋肉のこわばり・動作の鈍さなどが生じる進行性の神経疾患 |
| 8-OHdG\(8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシン) | DNAが酸化ストレスを受けた際に生じる損傷マーカー。尿中の濃度を測定することで体内の酸化ストレスの程度を評価できる |
| ホルミシス | 少量のストレスが細胞の防御機構を活性化し、結果的に保護効果をもたらす現象。適度な運動が健康に良いのも同じ原理 |
| クロスオーバー試験 | 各参加者が治療群とプラセボ群の両方を順番に経験する臨床試験デザイン。個人差の影響を最小化できる |
| UPDRS | パーキンソン病の重症度を評価する国際的な尺度。精神状態・日常生活動作・運動機能などで構成される |
| Nrf2 | 細胞が酸化ストレスを受けたときに活性化する転写因子。抗酸化酵素の産生を促し、細胞を保護する |
| 活性酸素種(ROS) | 体内の化学反応で生じる酸素の一種。適量は細胞のシグナル伝達に必要だが、過剰になると細胞を傷つける |
| OSIT-J | 日本人向けに開発された嗅覚テスト。12種類の匂いをカプセルから嗅ぎ分ける |
| レボドパ | パーキンソン病の標準的な治療薬。脳内で不足しているドパミンを補う |
| ウォッシュアウト期間 | 前の治療の効果が体内から完全に消えるのを待つ期間。試験結果への影響を防ぐために設ける |
論文情報
論文タイトル
Inhalation of hydrogen gas elevates urinary 8-hydroxy-2′-deoxyguanine in Parkinson’s disease(水素ガスの吸入はパーキンソン病患者の尿中8-ヒドロキシ-2′-デオキシグアノシンを上昇させる)
引用元

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