一言まとめ
くも膜下出血を起こしたラットモデルに2.9%水素ガスを2時間吸入させたところ、酸化ストレスが軽減され、脳浮腫や血液脳関門の破綻が改善し、神経機能障害が24時間後に有意に改善した。
3分で読める詳細解説
結論
水素ガスはくも膜下出血後の早期脳障害を抗酸化作用によって軽減する。
研究の背景と目的
くも膜下出血(SAH)は高い死亡率と後遺症率をもたらす深刻な疾患である。近年の研究では、脳血管攣縮に先行して起こる「早期脳障害」が死亡率に大きく関与していることが示唆されている。早期脳障害の主要な要因の一つが酸化ストレスであり、これは活性酸素種や活性窒素種の過剰産生によって引き起こされる。この酸化ストレスに対する治療戦略として、フリーラジカルの除去が注目されている。
最近、水素分子(H₂)が選択的に有害なヒドロキシルラジカルを中和し、酸化ストレスを軽減する効果が報告された。本研究は、くも膜下出血後の早期脳障害に対する水素ガス吸入の治療効果とその抗酸化作用を検証することを目的としている。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- くも膜下出血(SAH): 脳を包む膜の一つであるくも膜と軟膜の間の空間に出血が生じる状態。多くは脳動脈瘤の破裂によって起こる。
- 早期脳障害: くも膜下出血後72時間以内に発生する急性の脳全体の障害で、脳浮腫や血液脳関門の破綻、神経細胞死などを特徴とする。
- 酸化ストレス: 活性酸素や活性窒素などのフリーラジカルが過剰に産生され、体内の抗酸化防御システムがそれらを処理しきれない状態。
- 脂質過酸化(MDA): 活性酸素により脂質が酸化され生成される物質で、細胞膜損傷の指標。
- 血液脳関門: 血液中の有害物質が脳組織に侵入するのを防ぐ防御機構。内皮細胞とその周囲の基底膜、アストロサイトの終足などで構成される。
- マロンジアルデヒド: 脂質過酸化の産物で、脂質の酸化的損傷の指標となる物質。
- ニトロチロシン: タンパク質のチロシン残基が一酸化窒素由来の酸化剤によって修飾されたもので、タンパク質の酸化的損傷の指標となる。
- 8-ヒドロキシグアノシン: DNAのグアニン塩基がフリーラジカルによって酸化修飾を受けた産物で、DNA損傷の指標となる。
論文情報
タイトル
Hydrogen gas ameliorates oxidative stress in early brain injury after subarachnoid hemorrhage in rats(ラットのくも膜下出血後の早期脳障害における酸化ストレスを水素ガスが改善する)
引用元
Zhan, Y., Chen, C., Suzuki, H., Hu, Q., Zhi, X., & Zhang, J. H. (2012). Hydrogen gas ameliorates oxidative stress in early brain injury after subarachnoid hemorrhage in rats. Critical care medicine, 40(4), 1291–1296. https://doi.org/10.1097/CCM.0b013e31823da96d
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