研究論文
【対象の研究】激しい運動の前に水素ガスを吸入すると運動疲労が軽減される: ランダム化クロスオーバー研究 Dong, G., Wu, J., Hong, Y., Li, Q., Liu, M., Jiang, G., Bao, D., Manor, B., & Zhou, J. (2024). Inhalation of Hydrogen-rich Gas before Acute Exercise Alleviates Exercise Fatigue: A Randomized Crossover Study.

激しい運動の前に水素吸入をすると運動疲労が軽減される

【対象の研究】激しい運動の前に水素ガスを吸入すると運動疲労が軽減される: ランダム化クロスオーバー研究

Dong, G., Wu, J., Hong, Y., Li, Q., Liu, M., Jiang, G., Bao, D., Manor, B., & Zhou, J. (2024). Inhalation of Hydrogen-rich Gas before Acute Exercise Alleviates Exercise Fatigue: A Randomized Crossover Study. International journal of sports medicine, 10.1055/a-2318-1880. Advance online publication. https://doi.org/10.1055/a-2318-1880

《この記事の執筆者》

研究の背景と目的

激しい運動は、疲労の蓄積を通じて怪我のリスクを高め、競技のパフォーマンスの低下を引き起こします。水素分子には抗酸化作用や抗炎症作用があり、水素を豊富に含む水や水素ガスを摂取することで、人の運動誘発性の疲労が改善する効果が報告されています。特に吸入水素の場合は、水素水よりも反応が長時間持続する可能性があります。そこで、本研究では、運動前に水素ガスを吸入することで、運動誘発性疲労が軽減されるかどうかを、自覚症状と血液検査値の変化から検証することを目的としました。

研究方法

対象者健康で定期的な運動習慣がある成人男性24名(21±3歳、177±5cm、71±7kg)
方法二重盲検ランダム化クロスオーバーデザイン*1で実施。
事前テストとして参加者に対し、以下の2つの検査を実施。(検査1と2の間に72時間の休息期間あり)
・検査1(Wmaxテスト): 徐々に負荷を上げて、60回/分以下のペダル回転数で継続不可能になるまで実施。
・検査2(Tmaxテスト): Wmaxの80%の負荷でサイクリングを実施し、運動不能になるまでの時間(Tmax)を測定。

事前テストから72時間以上空けてから、本検査として、参加者をランダムに以下の2グループに分けて、80% WmaxのサイクリングをTmaxの時間で実施。
・グループ1:水素量1,200ml/分で1時間の水素吸入
・グループ2:プラセボガス(通常の空気)を1時間吸入

7日間の休息期間を空けて、グループを入れ替えて再度実施。
期間17日前後
評価項目主観的評価
・主観的疲労感(VAS)
・感じられる運動強度(RPE)

他覚的評価
・運動パフォーマンス(カウンタームーブメントジャンプ:CMJ)
・血液検査値(血清乳酸レベル、酸化ストレスマーカー)
・疲労パフォーマンスと血液検査値との関連性

研究結果

  • 疲労感
    • 水素吸入は、運動直後の疲労感を有意に軽減した(VASスコア:水素群72.5 vs 対照群 76.8 p=0.019、RPEスコア:水素群9.9.0 vs 対照群 10.5、 p=0.014)。
    • しかし、30分後および60分後には有意差は見られなかった(p>0.258)。
  • 運動パフォーマンス
    • CMJのパフォーマンスには統計的な有意差はなかった(p=0.113)が、水素ガス群の方がプラセボ群よりも高いジャンプを示した(35.01 cm vs 32.53 cm)。
    • 運動の終盤、特にサイクリングの最後の30秒間において、水素ガス群が、プラセボ群よりもペダルを漕ぐ速度(回転数)が有意に高かった(t=9.659, p<0.001)。
  • 血液検査
    • 乳酸値が水素ガス群で30分後に運動前レベルに戻り、プラセボ群より回復が早かった。(運動前:水素群2.68±0.73mmol/L vs 対照群2.38±0.58mmol/L→運動30分後:水素群2.60±1.08mmol/L vs 対照群3.46±1.02mmol/L )
    • ヒドロキシラジカル抑制能力は運動直後に水素ガス群で有意に高かった(運動直後:水素群 637.06±222.43 U/ml vs 対照群 434.69±201.67 U/m, p=0.009)。
    • しかし、運動後30分と60分では有意差は認められなかった(p>0.707)。
    • 疲労感の変化と血液マーカーの間には有意な相関は見られなかった(p>0.271)。

考察とコメント

本研究は、高強度運動前に水素吸入をすることで、運動による疲労軽減や酸化ストレスの改善に効果を示すか調査した初めての試みです。人を対象にしている研究であり、信頼性の高い結果ではないかと思われます。

特に、水素吸入による疲労感の軽減や、運動後の乳酸回復の加速、ヒドロキシラジカル抑制能力の向上が確認されました。これにより、水素ガスが酸化ストレスを抑制し、運動後の回復を促進する可能性が示唆されます。

しかし、サンプルサイズが24名と少ない点は本研究の限界であり、特にCMJに有意差が見られなかったことは、統計的パワーの不足による可能性が考えられます。今後の研究では、より大規模なサンプルサイズを用いた試験が必要でしょう。

また、水素吸入による疲労軽減が酸化ストレスマーカーとの直接的な相関を示さなかったため、観察された疲労軽減は、別の経路から生じている可能性が示唆されています。脳の前頭前野(PFC)という部分は、疲労関連情報の処理に重要な領域であると考えられており、疲労レベルが高いほどこのPFCの活性化が低くなるということがわかっています。そのため、疲労軽減のメカニズムとして中枢神経系や前頭前野の活性化に関する検討が求められるでしょう。

さらに、適切な水素ガスの投与量や吸入時間についても標準化が必要です。本研究では60分間の吸入が行われましたが、最適な吸入時間や投与量を調整することで、より効果的な疲労軽減が期待されます。

今後の研究では、これらの要因を考慮した上で、水素吸入がスポーツパフォーマンスや回復に与える影響を包括的に評価し、その有効性を明確にすることが重要です。

包括的に判断すると、本研究は激しい運動の前に水素ガスを吸入することで疲労回復を促進できることを示唆しているといえます。さらなる知見が積み重ねられ、アスリートなどの疲労回復の一助として、今後の発展が期待されます。

参考文献
  1. Dong, G., Wu, J., Hong, Y., Li, Q., Liu, M., Jiang, G., Bao, D., Manor, B., & Zhou, J. (2024). Inhalation of Hydrogen-rich Gas before Acute Exercise Alleviates Exercise Fatigue: A Randomized Crossover Study. International journal of sports medicine, 10.1055/a-2318-1880. Advance online publication. https://doi.org/10.1055/a-2318-1880

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