《この記事の執筆者》
北海道大学医学部卒業、北海道大学医学部大学院(循環病態内科学)卒業。専門は循環器内科、総合内科。循環器内科医師として北大病院をはじめとする総合病院にて勤務後、現在は大学教授として臨床医学を教えている。
一般的に年齢が上がるにつれて高血圧になる患者は増えていきます。
実際に、厚生労働省の『令和元年 国民健康・栄養調査報告』によると、20~30代の5%に対して40~50代では20〜35%が、60〜70代では半数以上である約60~70%が高血圧と報告されています。1)
そんな多くの日本人(特に高齢者)に影響を与えている高血圧に対し、近年水素ガスを吸入する水素吸入療法が予防や改善に役立てるかもしれないと注目を集めています。
本記事では、水素吸入療法が高血圧の予防や改善に役立つのかについて、科学的根拠をもとに解説していきます。
《▼YouTube動画版での解説▼》
高血圧について
高血圧は血管の中の圧力が高い状態です。
この状態が続くと血管が傷んで血液の流れが悪くなり心臓や脳などの臓器に障害を起こします。
日本高血圧学会のガイドラインによると、診察室血圧140/90mmHg以上を高血圧としています 2)。日本の高血圧患者は約4,300万人いると推定されており、日本人のおよそ3人に1人という状況です。もはや国民病といっても過言ではありません。
高血圧を放置すると、心疾患や脳卒中を起こす可能性が高まります。
高血圧の主な原因や症状
高血圧の要因として、遺伝、不規則な生活習慣、ストレスなどが挙げられます。
初期段階では自覚症状はほとんど現れませんが、進行すると頭痛、動悸、疲労感などが現れることがあります。
高血圧の主な治療法
治療には、ライフスタイル(食事、運動、ストレス)の改善、降圧薬の内服などがあります。
高血圧を放置すると心血管疾患や脳卒中のリスクが高まるため、早期の発見と適切な管理が必要です。
医師の指示のもと定期的なフォローアップを受けることが重要です。
水素吸入は高血圧の予防に効果はある?
高血圧は、原因の明らかでない本態性高血圧と基礎疾患(主にホルモン異常が多い)によって高血圧となる二次性高血圧の2種類に分類されます。
高血圧の90%以上は本態性高血圧に分類されます。
つまり、高血圧の原因はわからないことが多いのです。
「食塩のとりすぎ」は高血圧の“原因”という人がおりますが、厳密に言うとこれは“要因”にあたります。
原因の除去を予防と考えた場合、ほとんどの高血圧は予防することが難しいのです。
抗酸化作用のある水素は役立つ?
最近、様々な疾患を予防する方法として水素吸入が注目されています。
確かに、水素は体の細胞を健康で元気な状態に保つ働きである抗酸化作用があります。
酸化作用を有する活性酸素が高血圧発症の明らかな原因の1つとして証明された場合は、水素吸入は高血圧の予防法の1つになりうるかもしれません。
しかし現状では高血圧の原因も含め、水素吸入が高血圧の予防に貢献するかについて明確になっていないため、さらなる研究が必要です。
水素吸入は高血圧の改善に効果はある?
高血圧患者の血圧を下げるためには、高血圧の要因となる悪い生活習慣を改めることをまずは考えなくてはいけません。
つまり、肥満の解消、食塩摂取量を減らす、アルコールを控える、禁煙する、運動不足の解消、ストレス解消などを念頭に実践することが重要です。
こういった従来の対応に加えて、水素吸入によって高血圧患者の血圧を下げられる可能性が示唆されました。
水素吸入で血圧が低下した
中国で行われた研究で、水素-酸素混合の気体を吸入することにより高血圧患者の血圧が下がったと示されています 3)。
具体的には、高血圧患者56名(降圧薬服用者46名)に水素-酸素混合の気体を毎日4時間、2週間吸吸入させた結果、収縮期血圧(いわゆる上の血圧)が5mmHg程度下がり、夜間外来拡張期血圧(いわゆる下の血圧)が3mmHg程度下がったと報告されています。
肥満の高血圧患者が体重を1kg減らすと血圧は1.5mmHg程度下がると言われておりますので、本研究成果である3~5mmHgの血圧低下は降圧効果として大きいものと考えられます。
さらに、血圧を上げるホルモンの一部も下がったと報告しています。
【私はこう考える】水素吸入療法と高血圧
これまで水素吸入は、動物実験レベルで高血圧によって起こった臓器障害を改善することは報告されていますが、血圧に対する影響についてはエビデンスがほとんど無い現状です。
したがって、高血圧予防に対して水素吸入を考慮することは時期早々と考えます。
というのは、高血圧になる明らかな原因がつかめていないからです。
原因が明らかになり、水素吸入が原因を除去できることが可能であると証明されましたら、新たな知見になるかもしれません。
さらなる研究が待たれます。
高血圧患者の血圧を下げることを目標とした、既存の治療のサポートとしての水素吸入についても今後の検討が必要と考えます。
中国での研究は人を対象として血圧の低下への有効性が報告された点は評価できます。
しかしながら、研究対象者数が56名と少なく、万人に適応可能であるのか疑問が残ります。
これらのことより、既存の降圧治療のサポートとして水素吸入を有効とするにはエビデンスが十分ではありません
以上より、高血圧の改善を目的としたサポートとしての水素吸入についてもさらなる研究が待たれます。
参考文献
- 厚生労働省『令和元年国民健康・栄養調査報告』
- 日本高血圧学会『世界も日本も、高血圧基準は 140/90 mmHgです』
- Liu B, Jiang X, Xie Y, Jia X, Zhang J, Xue Y and Qin S (2022) The effect of a low dose hydrogen-oxygen mixture inhalation in midlife/older adults with hypertension: A randomized, placebo-controlled trial. Front. Pharmacol. 13:1025487. doi: 10.3389/fphar.2022.1025487
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