精神・神経系
【医師監修】レビー小体型認知症に水素吸入療法が期待される理由を徹底考察

【医師監修】レビー小体型認知症に水素吸入療法が期待される理由を徹底考察

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症、血管性認知症と並ぶ三大認知症の一つです。

まだ根本的な治療がなく対症療法が中心であり、この疾患に苦しむ患者さんとご家族にとって、効果的な治療法の選択肢を広げることは重要な課題です。近年、水素吸入療法が認知症に対する新たなアプローチとして注目されています。

本記事では、レビー小体型認知症の基本的な情報と、水素吸入療法がどのようにレビー小体認知症に対して期待されているのか研究結果をもとにわかりやすく解説します。

本記事のポイント
  • レビー小体型は三大認知症の一つ
  • 水素吸入が脳の神経細胞を保護
  • 関連疾患で認知機能改善効果が報告
  • 副作用が少なく既存治療の補助に期待

《この記事の監修ドクター》

レビー小体型認知症とは

レビー小体型認知症は3番目に多い認知症のタイプ|「すいかつねっと」の疾患説明図解

レビー小体型認知症は、脳内に「レビー小体」という異常なタンパク質の塊が多数たまることで起こる病気です。

日本では全認知症患者の4.3%ほどを占めると報告されており、「アルツハイマー型」と「血管性認知症」に次いで三番目に多い認知症のタイプです。1)

高齢化に伴い認知症の患者数は増加の一途を辿ることが予想され、2040年には6〜7人に1人(約580万人)に達すると予測されています。2)

レビー小体型認知症の主な原因

レビー小体型認知症の主な原因は、脳の神経細胞内にαシヌクレイン(アルファシヌクレイン)というタンパク質が異常にたまり、「レビー小体」として蓄積することです。これにより脳の神経細胞の機能障害が起こり、それに伴い神経伝達物質のバランスが崩れ、様々な症状を引き起こします。しかし、なぜ「αシヌクレイン」が異常に溜まってしまうのかについては、今のところ解明されていません。

また、脳内では「酸化ストレス」と呼ばれる状態と炎症反応が病気の進行に関わっており、これらによって神経細胞の損傷が進むことも分かっています。

レビー小体型認知症の主な症状

レビー小体型認知症には以下のような特徴的な症状があります。

レビー小体型認知症の主な症状
  • 認知機能の変動
    日や時間によって記憶力や判断力に大きな波がある(調子の良い日と悪い日の差が大きい)
  • 幻視
    実際にはないものが見える(具体的で詳細な内容の幻覚が多い)
  • パーキンソン症状
    手足の震え、動作がゆっくりになる、筋肉が固くなるなど
  • レム睡眠行動障害
    眠っているときに大声を出したり、手足を激しく動かしたりする
  • 自律神経症状
    立ち上がったときのめまいや便秘など
  • うつ症状
    気分が落ち込んだり、やる気が出なくなったりする
  • 薬への敏感さ
    特に精神を安定させる薬に対して、少ない量でも強い副作用が出やすい

これらの症状が組み合わさって現れ、日常生活に大きな支障をきたします。

レビー小体型認知症の症状の大きな特徴の1つとしては、パーキンソン病でみられる症状(手足の震えなど)が現れることです。レビー小体型認知症とパーキンソン病は、どちらも脳内に「レビー小体」というαシヌクレインが異常に蓄積する病気であることが、その理由です。パーキンソン病では主に運動症状が前面に出るのに対し、レビー小体型認知症では認知機能障害と精神症状(幻視など)も強く現れるという違いがあります。

レビー小体型認知症の治療法

現在のところ、レビー小体型認知症を根本的に治す方法はなく、症状を和らげる治療が中心となります。

各症状とそれに用いられる薬物療法は以下のとおりです。

レビー小体型認知症の治療法
  • 認知機能障害に対して
    アリセプト(ドネペジル)などの薬。ドネペジルは2014年に「レビー小体型認知症における認知症状の進行抑制」として世界で初めて日本で承認されました
  • 手足の震えなどに対して
    パーキンソン病の薬(ただし幻覚などの症状が悪化することがあるので注意が必要)
  • 幻視や妄想に対して
    非常に少量の抗精神病薬
  • 睡眠の問題に対して
    メラトニン製剤や少量の睡眠薬

レビー小体型認知症の方は薬剤への過敏性が高いため、薬剤の選択は慎重に行い、必要最小限の使用に留めることが重要とされています。

これらの薬物治療に加えて、転倒しにくいように家の中を整理するなど生活環境の整備やパーキンソン症状の改善や転倒予防のためのリハビリテーションも行われます。

そのほか音楽療法が回想法、アロマセラピーなど様々な療法が研究・実施されていますが、どれも根本治療ではなく、良くても進行の抑制に留まります。そのため、レビー小体認知症の新しい治療法の研究は今でも進められており、根本的に治す治療法の開発が待たれます。

水素吸入療法がレビー小体型認知症に期待される3つのこと

水素吸入療法とは、水素分子(H₂)を含む気体を吸い込む治療法です。

水素分子は2007年に「体に有害な活性酸素のみに選択的に反応する」ことが報告されて以来、新たな抗酸化物質(体の錆び=酸化を防ぐ物質)として注目されるようになりました。3)

残念ながら、レビー小体型認知症の患者さんを直接対象とした水素吸入療法の大規模な臨床試験の報告は、現時点ではありません。しかし、似た病気や関連分野での研究から、その可能性について期待が寄せられています。

①細胞にダメージを与える酸化ストレスから脳を守る

細胞にダメージを与える酸化ストレスから脳を守る|「すいかつねっと」イラスト解説

水素分子の最も注目すべき作用は、強力な抗酸化作用です。レビー小体型認知症では、脳内での酸化ストレス(体の錆びのような状態)も病気の進行に深く関わっています。実際に、初期のレビー小体病患者の脳では、酸化ストレスによる損傷の指標が増加していることが確認されています。4)

水素分子は、とても小さく体の隅々まで浸透し、有害な活性酸素のみを除去する作用が報告されています。他の抗酸化物質(ビタミンCなど)は通過できない脳の関門も通過することで、脳の細胞内の活性酸素を除去して、酸化ストレスによる神経細胞へのダメージを抑制することが期待されます。

実際、パーキンソン病のマウス実験では、水素水を飲ませることで脳の神経細胞の減少が抑えられました。5)パーキンソン病はレビー小体型認知症と同じように、脳に「レビー小体」という異常なたんぱく質が蓄積する病気です。この研究結果は、水素の抗酸化作用が神経細胞を守る可能性を示す重要な証拠と言えるでしょう。

②認知機能の改善が長期的に持続する

認知機能の改善が長期的に持続する|「すいかつねっと」イラスト解説

レビー小体型認知症と同じく認知症の1つであるアルツハイマー病患者を対象にした水素吸入療法の研究から、認知機能改善への効果が示唆されています。6)

日本で行われたこの研究では、軽度〜中等度のアルツハイマー病患者8名に3%濃度の水素ガス吸入を1日2時間(1時間×2回)、6ヶ月間続けたところ、認知機能テスト(ADAS-cog)のスコアが平均4.1点改善しました。

治療を受けなかったアルツハイマー病患者では同じ期間に平均2.6点悪化していたため、これは注目すべき結果です。さらに脳のMRI検査でも、海馬(記憶を司る脳の部位)を通る神経線維の状態が改善し、神経細胞のつながりが保たれていることを示す結果が得られました。

さらに注目すべき点は、水素吸入を終了した後も6ヶ月間は認知機能や脳の画像所見の改善が続き、1年後でも改善傾向が保たれていたことです。

これは水素療法が一時的に症状を和らげるだけでなく、神経変性の進行そのものを遅らせる可能性を示唆しています。

③炎症を抑えて脳の神経細胞の損傷を遅らせる

炎症を抑えて脳の神経細胞の損傷を遅らせる|「すいかつねっと」イラスト解説

水素ガスには炎症を抑える作用(抗炎症作用)もあることが報告されています。具体的には、免疫細胞から放出される炎症を引き起こす物質(IL-6やTNF-αなど)の産生を抑制する作用があります。

レビー小体型認知症患者では脳内だけでなく、血液中でも炎症物質の増加が報告されており、炎症が神経変性を促進する悪循環が起きていると考えられています。7)

水素の抗炎症作用によってこの悪循環を断ち切れる可能性が、関連する研究から示唆されています。2023年の日本の研究では、脳の血流が一時的に途絶えた後に再開すると起こる炎症性の脳障害(脳梗塞後などに見られる状態)に対して水素吸入を行ったところ、脳の損傷が水素吸入をしない場合に比べて大幅に軽減されたことが報告されています。8)

このように、水素には炎症を伴う様々な脳障害に対して保護効果があることが示されており、炎症が関与するレビー小体型認知症にも同様の効果が期待できるのです。

伊藤たえ 先生のアバター

医師

伊藤たえ 先生

水素吸入療法には、抗炎症作用や神経保護作用があることが報告されています。
レビー小体型認知症に対する直接的な水素吸入療法の有効性は現時点では示されていません。しかし、関連疾患のアルツハイマー型認知症やパーキンソン病に対する研究結果から、レビー小体型認知症への応用も今後期待できるのではないでしょうか。今後のさらなる研究に注目しています。

まとめ:レビー小体型認知症への水素吸入の現状と将来性

レビー小体型認知症に対する水素吸入療法について、現時点の医学的エビデンスをご紹介しました。日本での研究を含め、水素分子の神経保護作用に関する報告は増えてきており、酸化ストレスを抑えるという観点からは理にかなった治療戦略と言えます。

しかしながら、証拠はまだ初期段階であり、レビー小体型認知症への直接的な有効性は確立されていません。特に大規模な臨床試験が不足している現状では、効果の程度や持続性については慎重に評価する必要があります。

その一方で、水素吸入は重大な副作用が報告されておらず安全性が高いこと、アルツハイマー病などの関連疾患で有望な結果が出始めていることなどから、「今後に期待ができる補助療法」と位置付けられるでしょう。

アルツハイマー治療における既存治療の副作用を軽減したことなども報告されているため、現在の標準治療(薬物療法など)を中心に、場合によっては主治医と相談のうえで水素療法を補助的に検討してみるのも良いかもしれません。

今後、レビー小体型認知症患者を対象とした質の高い臨床試験が行われ、より明確な証拠が集まることが期待されます。

すいかつねっとのエビデンス評価
3.5

動物実験やアルツハイマー病を対象とした臨床試験で、水素吸入の神経保護作用や認知機能改善の可能性が示唆されている。しかし、レビー小体型認知症に対する大規模な臨床試験はなく、今後の研究が待たれる段階。

すいかつねっとのエビデンス評価基準はこちら)

参考文献
  1. 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応(2015)|厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業
  2. 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計
  3. Ohsawa, I., Ishikawa, M., Takahashi, K., Watanabe, M., Nishimaki, K., Yamagata, K., Katsura, K., Katayama, Y., Asoh, S., & Ohta, S. (2007). Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nature medicine, 13(6), 688–694. https://doi.org/10.1038/nm1577
  4. Dalfó, E., Portero-Otín, M., Ayala, V., Martínez, A., Pamplona, R., & Ferrer, I. (2005). Evidence of oxidative stress in the neocortex in incidental Lewy body disease. Journal of neuropathology and experimental neurology, 64(9), 816–830. https://doi.org/10.1097/01.jnen.0000179050.54522.5a
  5. Fujita, K., Seike, T., Yutsudo, N., Ohno, M., Yamada, H., Yamaguchi, H., Sakumi, K., Yamakawa, Y., Kido, M. A., Takaki, A., Katafuchi, T., Tanaka, Y., Nakabeppu, Y., & Noda, M. (2009). Hydrogen in drinking water reduces dopaminergic neuronal loss in the 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine mouse model of Parkinson’s disease. PloS one, 4(9), e7247. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0007247
  6. Ono, H., Nishijima, Y., & Ohta, S. (2023). Therapeutic Inhalation of Hydrogen Gas for Alzheimer’s Disease Patients and Subsequent Long-Term Follow-Up as a Disease-Modifying Treatment: An Open Label Pilot Study. Pharmaceuticals (Basel, Switzerland), 16(3), 434. https://doi.org/10.3390/ph16030434
  7. Loveland, P. M., Yu, J. J., Churilov, L., Yassi, N., & Watson, R. (2023). Investigation of Inflammation in Lewy Body Dementia: A Systematic Scoping Review. International journal of molecular sciences, 24(15), 12116. https://doi.org/10.3390/ijms241512116
  8. Tamura, T., Suzuki, M., Homma, K., Sano, M., & HYBRID II Study Group (2023). Efficacy of inhaled hydrogen on neurological outcome following brain ischaemia during post-cardiac arrest care (HYBRID II): a multi-centre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. EClinicalMedicine, 58, 101907. https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2023.101907

このコラム記事は、一般的な医学的情報および最新の研究動向をもとに作成しておりますが、読者の方の個別の症状や体質などを考慮したものではありません。また、医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではなく、特定の製品や治療法の効果・効能を保証、証明するものでもありません。健康上の問題がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師などの専門家に必ずご相談ください。本コラム記事の情報をもとに被ったいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

※本記事は、公開時点での情報に基づいて作成しており、最新のものと異なる場合があります。予めご了承ください。

レビー小体型認知症と水素吸入の記事へのメディコレ認証2025年3月15日|すいかつねっと

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