精神・神経系
【医師監修】水素吸入がアルツハイマー認知症の補助治療として期待される理由

【医師監修】水素吸入がアルツハイマー認知症の補助治療として期待される理由

高齢化が進む日本では、認知症の患者さんが急増しています。65歳以上の高齢者の約8人に1人(12%程度)が認知症だと言われています。

その中でも最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。

これまでの治療法では病気を根本的に治すことができず、進行を遅らせるのが精一杯でした。そんな中、近年「水素吸入」という新しい方法に期待が集まっています。

本記事では、アルツハイマー型認知症の基本と、水素吸入がもたらす可能性について、最新の研究からわかりやすくお伝えします。アルツハイマー病の対策として役立つ内容となっているので、ぜひ最後までご覧ください。

本記事のポイント
  • 認知症の約7割がアルツハイマー型
  • 水素吸入は既存薬との併用で治療効果が向上
  • 水素が脳内の活性酸素を減らし神経を保護
  • 治療中止後も効果が持続する可能性がある

《この記事の監修ドクター》

アルツハイマー型認知症とは?基本情報と現状

アルツハイマー型認知症とは?基本情報と現状|水素吸入のことなら「すいかつねっと」

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が少しずつ傷ついて働かなくなっていく病気です。

認知症の中で最も多いタイプで、物忘れから始まり、少しずつ症状が重くなっていくのが特徴です。日本では認知症患者の約7割がこのタイプと言われています。1)

高齢化に伴い認知症の患者数は増加の一途をたどっており、2022年には65歳以上の約8人に1人(約443万人)でしたが、2040年には6〜7人に1人(約580万人)に達すると予測されています。2)

高齢社会の日本では重要な問題であり、社会全体での対応が急がれています。

アルツハイマー型認知症の主な原因

アルツハイマー型認知症の発症メカニズムは複雑で、いくつかの要因が絡み合っています

主な要因は次のようなものです。

アルツハイマー型認知症の主な原因
  • 異常タンパク質の蓄積
    「アミロイドβ」という物質が脳内に溜まり(老年斑)、脳の神経細胞同士の連絡を妨げます
  • 神経線維の変化
    「タウタンパク質」が異常をきたして神経細胞内でもつれ(タングル)、細胞の形や働きを崩します
  • 酸化ストレスと炎症
    脳内で有害な活性酸素が増え、慢性的な炎症が起きて神経細胞を傷つけます
  • エネルギー不足
    細胞のエネルギー工場(ミトコンドリア)の機能が低下し、脳の働きが衰えます

これらの要因が影響し合って、認知機能が低下していくと考えられています。

アルツハイマー型認知症の主な症状

アルツハイマー型認知症の症状は大きく2つに分けられます。

認知機能の低下に関する「中核症状」と、それに伴って現れる「行動・心理症状(BPSD)」です。

主な中核症状
  • 記憶障害:新しいことを覚えられない、最近あったことを思い出せない
  • 見当識障害:今日が何日か、自分がどこにいるのかわからなくなる
  • 判断力低下:状況に合った判断ができなくなる
  • 実行機能障害:計画を立てて行動することが難しくなる

主な行動・心理症状(BPSD)
  • 不安や焦り、気分の落ち込み
  • 妄想(物を盗まれたと思い込むなど)
  • 徘徊(目的なく歩き回る)
  • 睡眠リズムの乱れ

また、アルツハイマー型認知症は「軽度認知障害(MCI)」という前段階を経て発症する場合が多く、この段階で早期発見・対応することで本格的な認知症への進行を遅らせる取り組みが行われています。

ちなみにMCIは2022年の時点で、65歳以上の高齢者の約6.5人に1人(15.5%)と報告されています。2)

アルツハイマー型認知症の治療法と限界

残念ながら、現在のところアルツハイマー型認知症を完全に治したり、進行を止めたりする方法はありません。そのため、現在の治療は「症状を和らげる」「進行をなるべく遅らせる」ことを目指しています。

薬による治療としては、脳内の神経伝達物質を増やす薬(ドネペジルやガランタミンなど)や脳細胞の過剰な刺激を抑える薬(メマンチンなど)がよく使われます。これらの薬は一時的に記憶力や日常生活の能力を維持するのに役立ちますが、効果には限界があり、病気の根本的な進行は止められません。また、すべての患者さんに効くわけではなく、効果の程度には個人差があります。

また、2023年12月に脳に蓄積したアミロイドβを減少させる「レカネマブ」という新薬も登場しています。しかし、適用される患者が限定的だったり、副作用の懸念があったりと、課題もあります。

薬物療法と並行して、リハビリテーション、認知訓練、運動療法、食事指導、生活環境の調整なども行われます。

こうした総合的なケアによって、患者さんの生活の質を高め、介護者の負担を軽減することができます。

しかし、これらの方法を組み合わせても、アルツハイマー型認知症の根本的な治療にはならないため、新しい治療法の開発が強く求められています。水素吸入療法は、そうした新たな選択肢の一つとして注目されているのです。

アルツハイマー病治療の新たな可能性としての水素吸入療法

アルツハイマー病の原因として酸化ストレスや慢性炎症が関わっていることから、近年、それらを抑える働きがある水素吸入療法が有効かどうか研究されています。

水素はとても小さな分子なので、体のすみずみまで行き渡ります。2007年に医学的効果が報告されて以来、体内の有害物質(活性酸素)を減らしたり、炎症を抑えたりする働きが医療ガスとして注目を集めています。

水素吸入とアルツハイマー型認知症に関するいくつかの臨床研究を見ていきましょう。

標準治療に水素吸入を併用して治療効果が向上

中国で行われた273名のアルツハイマー患者を対象とした研究では、治療薬の一つであるドネペジルを単独で使用した群と、ドネペジルに水素吸入を併用した群の治療効果が比較されました。3)

その結果、6〜12か月後の認知機能テストのスコアは両方の群で改善しましたが、水素吸入を併用した群の方がより大きな改善を示しました。また、日常生活の動作(着替えや食事、トイレなど)のスコア改善も水素吸入併用群でより良好でした。

研究者らは「ドネペジルに水素吸入を加えた治療はドネペジル単独より臨床的に優れており、さらなる研究に値する」と結論付けています。

水素吸入による症状改善が長期的に維持

日本で行われた研究では、軽度〜中等度のアルツハイマー患者8名を対象に、水素吸入を1日2回1時間ずつ、6か月間続けました。その後、水素吸入を中止して1年間観察を続けました。4)

結果として、水素吸入6か月後の認知機能検査のスコアは平均で4.1点改善し、同じ期間の未治療患者では2.6点悪化したのと比べて明らかな改善を示しました。

さらに、MRI検査による脳内神経線維の評価でも、記憶に重要な脳の部位である海馬を通る神経束の連絡が6か月後に増加・改善し、水素吸入中止後の6か月後でもその効果が維持されていました。

研究者たちは「水素治療は一時的な症状緩和に留まらず、病気の進行そのものを変える効果を持つ可能性がある」と報告しています。

短期間の水素吸入でも認知機能が改善

韓国の研究では、51名の成人(平均年齢約54歳)を対象に、1日30分の水素吸入を4週間実施した場合の効果を調べました。5)

結果として、水素吸入後には体内の酸化ストレスの指標である「活性酸素種(ROS)」や「一酸化窒素(NO)」のレベルが明らかに低下しました。また、認知症に関連する血液中のマーカー(アミロイドβ、タウ、IL-6など)にも改善傾向が認められました。

研究者らは大半の指標で改善を確認し、「水素吸入は認知機能の改善候補となり得る」と結論付けています。

伊藤たえ 先生のアバター

医師

伊藤たえ 先生

水素吸入療法には、神経保護作用があることも報告されています。
アルツハイマー型認知症の根本的な治療法は見つかっておらず、既存の治療法を補える補助療法の研究開発は重要と考えます。上述の研究で水素吸入がその可能性を秘めることが示唆されたことは大きな一歩でしょう。現時点では保険診療に含まれませんが、今後の研究に注目しています。

まとめ:水素吸入は副作用が少なくアルツハイマー治療を補完する可能性

水素吸入療法はアルツハイマー型認知症の新たな治療・予防法として期待されています。これまでの研究では、水素吸入によって認知機能の改善、日常生活動作の向上など、いくつかの有望な結果が示されています。

ただし、現時点での水素吸入療法の科学的根拠にはまだ限界があることも知っておくべきでしょう。現在の研究は参加者数が少なく比較的短期間の研究に留まっており、長期的な効果は十分に確認されていません。また、最適な水素の投与方法や効果を得やすい患者さんのタイプも明確になっていない点は、今後の研究課題と言えます。

今後の研究により、水素吸入療法がアルツハイマー型認知症の標準治療の一部として確立されることを期待しましょう。

すいかつねっとのエビデンス評価
4.0

水素吸入がアルツハイマー型認知症の症状改善に寄与する可能性が、小規模な臨床研究で示唆されている。認知機能や日常生活動作の向上が報告されており、補助療法としての期待が集まる。有効性の確立に向け、さらなる大規模研究が求められる段階。

すいかつねっとのエビデンス評価基準はこちら)

参考文献
  1. 知っておきたい認知症の基本
  2. 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計
  3. Dan P, Li X, Ding Y, Tian S, Zheng L, Chen L, Li Z, Zhu M, Yan J, Feng H, Zheng M, Zhao B, Zhang Y, Wang N, Zhu Q, Tang Z, Jia W, Wu Z, Li X, Nie G, Geng J, Wang X. Efficacy of donepezil plus hydrogen-oxygen mixture inhalation for treatment of patients with Alzheimer disease: A retrospective study. Medicine (Baltimore). 2023;102(29):e34318. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10378857/
  4. Ono H, Setoyama D, Ohgidani M, Kato TA, Hayashida M, Nakazawa M, Koizumi-Sato S, Setoyama T, Kang D, Maruoka D, Tashiro Y, Nonaka S, Nishiyama A, Ohta Y, Ohtsuka Y, Kubo M, Kato D, Miyakoshi M, Yamaguchi A, Ide K, Morimoto K, Matsumoto K, Tasaki A, Shiojiri T, Kuwano Y, Itoi K, Obara D, Abe T, Ohno K. Therapeutic Inhalation of Hydrogen Gas for Alzheimer’s Disease Patients and Subsequent Long-Term Follow-Up as a Disease-Modifying Treatment: An Open Label Pilot Study. Biomedicines. 2023;11(1):183. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10057981/
  5. Rahman, M. H., Bajgai, J., Sharma, S., Jeong, E. S., Goh, S. H., Jang, Y. G., Kim, C. S., & Lee, K. J. (2023). Effects of Hydrogen Gas Inhalation on Community-Dwelling Adults of Various Ages: A Single-Arm, Open-Label, Prospective Clinical Trial. Antioxidants (Basel, Switzerland), 12(6), 1241. https://doi.org/10.3390/antiox12061241

このコラム記事は、一般的な医学的情報および最新の研究動向をもとに作成しておりますが、読者の方の個別の症状や体質などを考慮したものではありません。また、医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではなく、特定の製品や治療法の効果・効能を保証、証明するものでもありません。健康上の問題がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師などの専門家に必ずご相談ください。本コラム記事の情報をもとに被ったいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

※本記事は、公開時点での情報に基づいて作成しており、最新のものと異なる場合があります。予めご了承ください。

アルツハイマーと水素吸入の記事へのメディコレ認証2025年3月9日

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