《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
楽しい飲み会の翌日、頭痛や吐き気で苦しんだ経験はありませんか?
二日酔いは多くの人が経験するつらい症状です。しかし、そんな二日酔いの予防や改善に効果的な方法があるとしたら、試してみたいと思いませんか?
この記事では、最新の研究に基づいた水素吸入が二日酔いの予防と改善に役立つ可能性について詳しく解説します。まだ完全な対策が見つかっていない二日酔いに対する、科学的根拠に基づいた新しいアプローチとなるのか、ぜひ最後までご覧下さい。
あらためて二日酔いって?
二日酔いとは、多量のアルコールを摂取することで頭痛、吐き気、嘔吐、気分の落ち込み、睡眠障害など心身にさまざまな症状を引き起こす状態のことです。二日酔いのなりやすさ、症状の現れ方や重症度には個人差があります。
まずは二日酔いの特徴について詳しく見てみましょう。
二日酔いの原因
二日酔いは多くの方が一度は経験したことがあるでしょう。原因はアルコールの摂り過ぎですが、具体的にどのようなメカニズムでつらい症状が引き起こされるのか明確には分かっていません。
これまで二日酔いの発症メカニズムに関しては多くの研究が行われており、以下のような原因が考えられるとされています。
- アルコール依存に伴う離脱症状
- 脱水
- 低血糖
- ホルモンバランスの異常
- 電解質バランスの異常
- 炎症
- 睡眠や生体リズムの異常
- アセトアルデヒドの蓄積
- アルコールに含まれる不純物
- 遺伝
二日酔いの症状
二日酔いの症状の現れ方には個人差がありますが、一般的には飲酒した翌日に次のような症状が現れます。
- 頭痛
- 吐き気、嘔吐
- 筋肉痛
- 胃痛
- めまい
- 疲労感、脱力感
- のどの渇き
- 睡眠障害(寝つきが悪い、眠りが浅い)
- 発汗
- 感覚の低下
- 抑うつ症状
- 不安感
- いら立ち
二日酔いの治し方
二日酔いの多くは、水分をたくさん摂取して安静にしていれば自然に回復します。しかし、二日酔いを治すために治療薬はありません。そのため、回復するまでつらい症状に耐える必要があります。
一方で、二日酔いは重症な場合、胃の粘膜に強いダメージが生じるなど医療機関での薬物療法や点滴などが必要になることがあります。強い症状が続くときはできるだけ早めに受診しましょう。
水素吸入が二日酔いの予防と改善に役立つ?
二日酔いの予防や治し方についてはさまざまな情報があります。しかし、いずれも二日酔いを完全に予防したり治したりすることはできません。あくまでも二日酔いになりにくくし、症状を早めに回復させる効果が期待できるだけです。
成人の3人に1人は二日酔いを経験したことがあるとのデータもあり、二日酔いは非常にありふれた症状の一つです1)。しかし、日中の活動性を低下させるなど社会生活に支障を来すこともあります。
そこで、二日酔いの新たな予防や治し方の研究は現在も広く行われています。水素吸入もその一つであり、水素吸入と二日酔いの関係を示す研究結果も報告されています。
具体的にどのような内容か詳しく見てみましょう。
水素吸入は二日酔いを予防する
2023年に、中国の研究チームは水素吸入が二日酔いを予防する可能性を示唆する研究結果を報告しました2)。
この研究は健康なボランティア20人を対象に行われ、空気を1時間吸入した後にアルコール分40%の酒を飲んだ群、水素と酸素の混合ガスを吸入した後に同量の飲酒をした群に分けて二日酔いの症状の現れ方や呼気アルコール濃度を比較しました。
その結果、水素と酸素の混合ガスを吸入した群は空気を吸入した群に比べて有意に二日酔いの症状が少なく、さらに呼気アルコール濃度も低かったことが明らかになりました。
水素吸入は二日酔いの予防に役立つ?
今回の研究結果から、水素吸入は二日酔いの予防に役立つ可能性が示唆されました。限られた人数での比較検討であるため、確実な効果があると断言できる段階ではありません。
しかし、現在のところ二日酔いの予防する方法は確立されていません。水素吸入は自宅でも気軽に行うことができるため、二日酔い対策の一つとして実施してみるのもよいでしょう。
二日酔いの症状は活性酸素も関与
2015年に、アルゼンチンの研究チームは二日酔いの症状と活性酸素の関係を示唆する研究結果を報告しています3)。
この研究は二日酔い状態にしたマウスを用いた動物実験であり、小脳のミトコンドリア機能が有意に障害されていることが分かりました。また、活性酸素の産生量も二日酔い状態ではないマウスと比較して増加していたとのことです。
水素吸入は活性酸素を除去し二日酔いの症状を改善する?
今回の研究結果から、二日酔いには脳内のミトコンドリア機能異常と活性酸素の増加が関与している可能性が示唆されました。ミトコンドリアは活性酸素によってダメージを受ける細胞内小器官であり、二日酔いの根底に活性酸素の増加があることが考えられます。
水素吸入は活性酸素を効率よく除去する効果が期待できるため、二日酔いの症状を改善する効果が期待できるかもしれません。
まだ確実な効果があると言える段階ではありませんが、体への負担がほとんどない水素吸入でつらい二日酔いの症状を改善できるようになることを期待しましょう。
【私はこう考える】水素吸入と二日酔い
二日酔いは多くの人が経験したことがある症状です。症状の現れ方には個人差がありますが、つらい症状が自然に回復するまで続きます。
これまでにも二日酔いの予防や治し方についての研究は重ねられてきましたが、現状では確立した方法はありません。今回ご紹介した2つの研究結果から、水素吸入は二日酔いの予防や症状改善に役立つ可能性があると言えるでしょう。
まだ研究段階ではありますが、今後さらなる検証を重ねて二日酔い対策法として確立する日を期待しましょう。
参考文献
- つらい二日酔い、一番多い不調は〇〇だった!|日経Gooday
- Lv, X., Lu, Y., Ding, G., Li, X., Xu, X., Zhang, A., & Song, G. (2022). Hydrogen intake relieves alcohol consumption and hangover symptoms in healthy adults: a randomized and placebo-controlled crossover study. The American journal of clinical nutrition, 116(5), 1208–1218. https://doi.org/10.1093/ajcn/nqac261
- Karadayian, A. G., Bustamante, J., Czerniczyniec, A., Lombardi, P., Cutrera, R. A., & Lores-Arnaiz, S. (2015). Alcohol hangover induces mitochondrial dysfunction and free radical production in mouse cerebellum. Neuroscience, 304, 47–59. https://doi.org/10.1016/j.neuroscience.2015.07.012