《この記事の監修者》
国立大学医学部卒。卒後は消化器内科医として様々な市中病院で研鑽を積み、現在に至る。専門は早期がんの内視鏡治療、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の診療、消化器がんの化学療法。消化器病学会専門医,消化器内視鏡学会専門医,総合内科専門医を取得。
胃の痛みや不快感に悩まされていませんか?
日本人の約6%が罹患するとされる胃炎は、生活の質を著しく低下させる疾患です。
近年、注目を集める水素吸入療法が、この胃炎に対して新たな光をもたらす可能性が示唆されています。
本記事では、胃炎の原因や一般的な治療法を解説するとともに、水素吸入療法の可能性について、最新の研究結果に基づき徹底解説します。水素の持つ抗酸化作用や抗炎症作用がどのように胃炎に働きかけるのか、そのメカニズムと今後の展望に迫ります。
水素吸入の胃炎予防・改善効果が動物実験で確認されつつあり、理論的背景も支持される。ただし、ヒトを対象とした大規模臨床試験による有効性確認が求められる。
(すいかつねっとのエビデンス評価基準はこちら)
胃炎とは?原因や症状、治療法を解説
胃炎とは、一言でいうと「胃の粘膜が炎症を起こしている状態」です。
私たちの胃は、食べ物を消化するために強力な胃酸を分泌していますが、通常は粘液で覆われたバリア機能によって胃自身は胃酸から守られています。
しかし、何らかの原因でこのバリア機能が弱まると、胃酸が直接胃の粘膜を傷つけてしまい、炎症が起こります。
厚生労働省の『令和5年(2023)患者調査』によると、日本人の1,000人に57.4人、つまり約6%の人が胃炎または十二指腸炎を患っていると報告されています。1)
胃炎が起こる原因
胃炎の原因は多岐にわたりますが、主に次のような要因が挙げられます。
- ピロリ菌感染
世界的にも感染者が多く、慢性胃炎の大きな原因 - 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用
痛み止めとして広く使われているが、胃の粘膜を傷つけて胃炎リスクを上げる - アルコールの過剰摂取
胃粘膜を荒らしやすく、急性胃炎を誘発することもある - ストレス
強いストレスや過労が続くと、胃酸の分泌バランスが乱れ胃炎につながる - その他
自己免疫反応、胆汁の逆流などによって胃炎が引き起こされる
日本では、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)の感染が一因となる慢性胃炎の患者さんが多く、成人の半数近くがこのタイプの胃炎を持っているという報告もあります。2)
胃炎の主な症状
胃炎の最も一般的な症状は、みぞおち辺りの痛み(上腹部痛)や不快感です。
その他、吐き気、嘔吐、お腹の張り(膨満感)、食欲不振、胸やけなどの症状が現れることもあります。
急性胃炎では、痛みや吐き気が急激に強まることがあります。
一方、慢性胃炎では、症状がほとんど出ないまま進行し、気づいたときには胃粘膜が萎縮しているケースもあります。そうなると胃がんリスクが高まるため注意が必要です。
胃炎の一般的な治療法
胃炎の治療は、その原因によって異なります。
- ピロリ菌感染の場合
複数の抗生物質を組み合わせて除菌治療を行います。 - NSAIDsが原因の場合
薬の服用を中止するか、他の薬剤に変更します。 - アルコールが原因の場合
飲酒を控えることが重要です。
その他、胃酸を抑える薬や胃粘膜を保護する薬を用いた薬物療法が広く行われています。
さらに、食習慣の改善や禁煙・節酒、ストレスマネジメントなどの生活習慣の見直しも重要です。
胃炎に新たな光?水素吸入療法の可能性を探る
近年、健康や美容への効果が期待され、「水素吸入療法」が注目を集めています。
水素吸入療法とは、その名の通り水素ガスを吸入することで、体内に水素を取り込む方法です。水素は、抗酸化作用や抗炎症作用があることが研究で報告されており、医療分野での応用の期待が高まっています。
現時点で水素吸入が胃炎の予防や改善に役立つかどうかを直接的に調べた研究報告はありません。
しかし水素水を用いた研究など関連する研究から、その可能性を示唆する結果が報告されています。これらの知見を基に水素吸入の胃炎への応用可能性について考察します。
胃粘膜を保護して胃炎を予防
2014年の動物を用いた研究では、水素が痛み止め(アスピリン)による胃粘膜損傷を抑制し、胃炎の予防につながる可能性が示されました。3)
研究では、胃粘膜の損傷を誘発するためにアスピリンが投与されたマウスに水素水を与えて、食塩水を与えた場合と比較されました。その結果、食塩水を与えられた群に比べて、水素水の群では胃粘膜損傷が有意に抑制され、炎症の度合いも改善したことが示されました。
この結果から、水素が酸化ストレスや炎症の抑制を通じて胃粘膜を保護することで、薬剤に起因する胃炎を予防する可能性が示唆されたと言えます。
抗炎症作用による胃炎症状の緩和
酸化ストレスは炎症の悪循環を引き起こす要因とも言われており、水素による抗炎症作用が症状の改善につながる可能性があります。4)
胃炎とはまさに胃に炎症が起きている状態であり、この炎症が抑制されれば、腹痛や不快感などの胃炎症状が改善することが期待できると考えられます。
しかし、まだ直接的に水素と胃炎の症状改善を調べた研究は報告されていないため、理論的な推測にとどまります。今後の研究による解明に期待しましょう。
まとめ:水素吸入の胃炎に対する有効性に期待
日本における胃炎の患者数は年々減少傾向にはあるものの、この疾患に苦しんでいる方は少なくありません。
胃炎に対する水素吸入療法の有効性については、まだ研究段階であり、臨床試験の数も限られています。
しかし、水素の持つ抗酸化作用や抗炎症作用は、胃炎の予防や症状の改善に役立つ可能性を十分に秘めていると言えるでしょう。
今後の研究課題としては、より多くの患者さんを対象とした大規模な臨床試験を行い、長期的な効果や安全性を確認することが挙げられます。
また、水素が胃炎に対してどのように作用するのか、そのメカニズムを細胞レベル・分子レベルで詳細に解明することも重要です。
さらに、胃炎には様々な種類があるため、それぞれのタイプ別に水素吸入の効果を検証していくことも重要でしょう。
今後の研究によって、さらに解明されることを期待しましょう。
いま、みぞおち辺りの痛みやそのほか胃炎の症状に該当するものにお悩みであれば、まずは医療機関を受診しましょう。
その症状の原因を突き止めて医師と相談の上で適切な対処を行うことが重要です。その上で水素吸入をプラスアルファとして取り入れることも検討してみても良いかもしれません。
参考文献
- 令和5年(2023)冠者調査の概況|厚生労働省
- Oki, S., Takeda, T., Hojo, M., Uchida, R., Suzuki, N., Abe, D., Ikeda, A., Akazawa, Y., Ueyama, H., Nojiri, S., Hoshino, S., Shokita, H., & Nagahara, A. (2022). Comparative Study of Helicobacter pylori-Infected Gastritis in Okinawa and Tokyo Based on the Kyoto Classification of Gastritis. Journal of Clinical Medicine, 11(19), 5739. https://doi.org/10.3390/jcm11195739
- Zhang, J. Y., Wu, Q. F., Wan, Y., Song, S. D., Xu, J., Xu, X. S., Chang, H. L., Tai, M. H., Dong, Y. F., & Liu, C. (2014). Protective role of hydrogen-rich water on aspirin-induced gastric mucosal damage in rats. World journal of gastroenterology, 20(6), 1614–1622. https://doi.org/10.3748/wjg.v20.i6.1614
- Ichihara, M., Sobue, S., Ito, M., Ito, M., Hirayama, M., & Ohno, K. (2015). Beneficial biological effects and the underlying mechanisms of molecular hydrogen – comprehensive review of 321 original articles. Medical gas research, 5, 12. https://doi.org/10.1186/s13618-015-0035-1
このコラム記事は、一般的な医学的情報および最新の研究動向をもとに作成しておりますが、読者の方の個別の症状や体質などを考慮したものではありません。また、医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではなく、特定の製品や治療法の効果・効能を保証、証明するものでもありません。健康上の問題がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師などの専門家に必ずご相談ください。本コラム記事の情報をもとに被ったいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。