消化器系
【医師監修】下痢の改善に水素吸入が有効?期待される効果と注意点を解説

【医師監修】下痢の改善に水素吸入が有効? 期待される効果と注意点を解説

《この記事の監修者》

下痢は、日常生活に支障をきたす辛い症状です。その原因は多岐にわたり、適切な対処が求められます。

近年、様々な疾患への効果が期待される水素吸入療法が、下痢に対しても有効である可能性が示唆され、注目を集めています。

本記事では、下痢の原因や一般的な治療法を解説するとともに、水素吸入療法と下痢の関係性について、最新のエビデンスに基づき専門家監修のもと詳細に解説します。水素吸入が下痢の予防や改善にどのように寄与するのか、その作用機序を医学的見地から明らかにします。

すいかつねっとのエビデンス評価
2.5

下痢の予防・改善における水素吸入の効果を直接検証したヒト研究は存在しない。しかし、水素水を用いた動物実験では炎症抑制や腸内環境改善効果が示唆されている段階。

すいかつねっとのエビデンス評価基準はこちら)

下痢ってどんな病気?

下痢ってどんな病気?

下痢とは、便の水分量が増え、液状や泥状の便が頻回に排泄される状態を指します。

健康な便の水分量は70~80%程度ですが、これが80%を超えると軟便、90%を超えると水様便となり、下痢の状態と言われます。

2022年の国民生活基礎調査によると、日本人全体で1.6%が下痢を訴えており、女性よりも男性の方が下痢症状に悩む人が多い傾向にあります。1)

下痢になる原因

下痢の原因は実に様々ですが、大きく分けると「感染性」と「非感染性」に分けられます。

1. 感染性の下痢

感染性の下痢とは、細菌(サルモネラ菌、カンピロバクターなど)、ウイルス(ノロウイルス、ロタウイルスなど)、寄生虫などによるものを指します。

特に日本では、ノロウイルスやロタウイルスによる感染性胃腸炎が冬場に流行する傾向があります。

2. 非感染性の下痢

非感染性の下痢とは、上述した細菌やウイルス、寄生虫などの感染以外で引き起こされる下痢です。

主に以下のような種類があります。

非感染性の下痢
  • 食事性
    食べ過ぎ、飲みすぎ、特定の食べ物へのアレルギーや不耐症などによる下痢。
  • 薬剤性
    抗生物質などの薬の副作用による下痢。
  • 疾患性
    炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などによる下痢。
  • ストレス性
    過敏性腸症候群(IBS)など、精神的なストレスが原因で腸の動きが乱れることによる下痢。

下痢の主な症状

下痢の主な症状は、水のような便や柔らかい便、頻繁な便意、腹痛、お腹の張りなどです。

また、下痢は急性か慢性かによっても分類されます。

多くの急性下痢は通常数日で治まりますが、3~4週間以上続くものは慢性下痢とされ、より詳しい原因の検査が必要となります。

下痢の一般的な治療方法

下痢の治療は、原因に応じて行われます。

例えば、感染性下痢の場合、脱水予防のための水分補給、細菌感染が疑われる場合には抗菌薬の使用などが挙げられます。

また、症状を和らげるために腸内環境を整える整腸剤が使用されることもあります。さらに、症状が強く非感染性の場合には、止瀉薬(下痢止め)が使用されることもあります。

慢性下痢の場合には、基礎疾患や原因を特定し、その治療を進めることで下痢の改善を図ります。

水素吸入療法は下痢に効く?そのメカニズムに迫る

近年、水素の抗酸化作用や抗炎症作用が注目され、様々な疾患への効果が研究されています。

下痢に対する水素吸入療法の効果を直接検証した臨床試験はまだ限られていますが、いくつかの研究結果から、その有効性が期待されています。

ここでは、水素吸入療法が下痢の改善にどのように役立つ可能性があるのかを、医学的な視点から詳しく見ていきます。

水素吸入が下痢の予防に役立つ可能性

現時点では、下痢の予防における水素吸入の効果を直接検証した臨床試験は存在しません。

しかし、水素の抗酸化作用や抗炎症作用は、下痢の発症リスクを抑制する可能性が示唆されています。

例えば、炎症性腸疾患のラットモデルに水素水を与えた研究では、水道水を飲んだ場合と比べて有意に大腸組織での炎症が抑制されたことが報告されています。2)

この結果から、水素が炎症性腸疾患による下痢の予防に役立つ可能性が考えられ、水素水よりも効率的に水素を体内に取り込める水素吸入でも同様の効果が期待できるかもしれません。

下痢と水素吸入:改善効果の可能性

下痢の改善における水素吸入の効果についても、現時点では直接的なエビデンスは不足しています。

しかし、水素が下痢の症状を改善する可能性は、いくつかのメカニズムから考えられます

まず、先ほどあげた研究結果から、水素が腸内の炎症を軽減して下痢の症状を改善する可能性が考えられます。2)

それに加えて、水素が腸内細菌叢のバランスを改善する可能性も指摘されています。3)

この研究では、水素水の摂取により乳酸菌など腸内の健康を促進する細菌が増加したことが示されています。

ただその一方で、水素吸入の場合はそういった変化が限定的であったともされています。

これらのことから、水素を取り込むことが下痢の改善に役立つ可能性が示されたものの、水素水や水素吸入での作用機序が異なる可能性があり、それらの解明のためのさらなる研究が必要です。

過剰な水素が下痢を誘発している?

ここまでで水素吸入の下痢予防・改善効果の可能性について考察しましたが、1つ興味深い報告もあります。

それは、過敏性腸症候群(IBS)患者は健常者と比較して、絶食時の呼気中水素濃度が高かったという研究結果です。4)

つまり、腸内細菌叢の異常と胃腸内での水素産生が、IBS患者の下痢症状に関連している可能性が示唆されたのです。

※人の腸内では腸内細菌によって、微量の水素が生成されています。

ただし、これは外部から水素を取り入れた結果について調べたものではなく、水素吸入や水素水の摂取によって下痢の発症を招くのかは不明です。

予防や改善の箇所で先述した研究結果などから水素がプラスに働く可能性の方が高いと考えますが、1つの可能性として頭に入れておいても良いかもしれません。

まとめ:水素吸入が下痢の予防・改善に役立つ可能性

下痢に対する水素吸入療法の効果は、現時点ではまだ研究段階であり、明確な結論は出ていません。

しかし、今回ご紹介した研究結果から、水素吸入が下痢の予防や改善に役立つ可能性は十分に考えられます。

特に、水素の持つ「抗酸化作用」と「抗炎症作用」は、酸化ストレスや炎症が関与する下痢だけではなく、そのほか様々な疾患や症状に対して効果を発揮する可能性が期待されています。

ただし、下痢には様々な原因があり、すべての下痢に水素吸入が有効とは限りません。

まずは、下痢の原因を正しく診断し、それに応じた適切な治療を行うことが重要です。水素吸入は、標準治療に代わるものではなく、あくまでも補助的な治療法として位置づけられるべきでしょう。

今後、より多くの臨床試験が実施され、下痢に対する水素吸入の有効性や安全性が検証されることが期待されます。

下痢はつらい症状ですが、適切な対処法を知ることで、症状を和らげ、快適な生活を送ることができます。もし、慢性的な下痢でお悩みの方は、自己判断せずに、まずは医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けて下さい。

参考文献
  1. 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況|厚生労働省
  2. Hu, D., Huang, T., Shigeta, M., Ochi, Y., Kabayama, S., Watanabe, Y., & Cui, Y. (2022). Electrolyzed Hydrogen Water Alleviates Abdominal Pain through Suppression of Colonic Tissue Inflammation in a Rat Model of Inflammatory Bowel Disease. Nutrients, 14(21), 4451. https://doi.org/10.3390/nu14214451
  3. Xie, F., Jiang, X., Yi, Y., Liu, Z. J., Ma, C., He, J., Xun, Z. M., Wang, M., Liu, M. Y., Mawulikplimi Adzavon, Y., Zhao, P. X., & Ma, X. M. (2022). Different effects of hydrogen-rich water intake and hydrogen gas inhalation on gut microbiome and plasma metabolites of rats in health status. Scientific reports, 12(1), 7231. https://doi.org/10.1038/s41598-022-11091-1
  4. Kumar, S., Misra, A., & Ghoshal, U. C. (2010). Patients with irritable bowel syndrome exhale more hydrogen than healthy subjects in fasting state. Journal of neurogastroenterology and motility, 16(3), 299–305. https://doi.org/10.5056/jnm.2010.16.3.299

このコラム記事は、一般的な医学的情報および最新の研究動向をもとに作成しておりますが、読者の方の個別の症状や体質などを考慮したものではありません。また、医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではなく、特定の製品や治療法の効果・効能を保証、証明するものでもありません。健康上の問題がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師などの専門家に必ずご相談ください。本コラム記事の情報をもとに被ったいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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