《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
肝臓がんは初期症状がなく、気づいた時には進行しているケースも多いがんです。
特に5年生存率は進行して他の臓器に転移している場合、約3%となっており治りにくいがんの1つです。
本記事では、水素吸入療法が肝臓がんの予防や改善に役立つのかについて科学的根拠をもとに考察していきます。
《▼YouTube動画版での解説▼》
肝臓がんってどんな病気?
肝臓がんは、肝臓に発生するがんのことです。
日本では10万人に対して約30人が肝臓がんを発症するとされており、女性よりも男性方が発生率は約2倍高いとされています1)。
肝臓がんの特徴について詳しく見てみましょう。
肝臓がんの原因
肝臓がんの多くは、肝臓の細胞に慢性的な炎症が生じることが原因で発症すると考えられています。
炎症が続くと、肝臓の細胞が再生を繰り返し、遺伝子変異も発生。
その結果、肝臓が硬くなる「肝硬変」になり、最終的には肝臓がんを発症するのです。
肝臓に炎症を引き起こす原因としては、以下のものが挙げられます。
- B型肝炎ウイルス/C型肝炎ウイルス感染
- アルコール性肝障害
- 脂肪肝
また、肝臓がんは喫煙習慣、カビから発生するアフトラキトシンという毒素も発症リスクを高めることが指摘されています2)。
肝臓がんの症状
肝臓は沈黙の臓器とも呼ばれ、進行するまで自覚症状は現れません。
しかし、進行すると肝臓の機能が低下するため、以下のような症状が現れるようになります。
- 黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)
- 皮膚のかゆみ
- だるさ
- むくみ
- 食欲不振
- 出血しやすい
また、さらに進行すると肝臓にできたがんが大きくなってお腹の痛みを感じたり、しこりを触れたりするようになります。
肝臓がんの標準的な治療方法
肝臓がんは、進行度、肝機能、全身の状態などを総合的に判断して治療方法が決められます。
肝臓がんの標準的な治療法には、カテーテル治療、穿刺局療法、手術、薬物療法、放射線治療などがあります。
早期段階であればがんを取り除く手術が一般的です。
状態によっては皮膚から肝臓のがんに針を刺して通電してがんを焼く「穿刺局所療法(ラジオ波焼灼療法)」、カテーテルでがんを栄養する動脈を詰める治療が選択されることもあります。
転移がある場合、肝臓の機能が著しく悪い場合には手術ができないため薬物療法や肝移植が検討されます3)。
肝臓がんの生存率は低い
なお、肝臓がんの5年生存率は早い段階で発見できたとしても約50%です。
他の臓器に転移がある場合には3%とされています1)。
治りにくいがんの一つであり、新たな予防や治療方法に関する多くの研究が行われているのが現状です。
水素吸入療法は肝臓がんの予防や治療に役立つ?
肝臓がんは症状が現れにくいため進行した状態になって発見されるケースが多いがんです。
5年生存率は他のがんに比べて低く、日本では1年間で約25,000人が肝臓がんで命を落としています1)。
肝臓がんの新たな予防や治療方法の開発は現在も進められており、水素ガスが予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果も報告されています。
肝臓がんと水素ガスとの関係を占める研究結果の内容を詳しく見てみましょう。
水素ガスは脂肪肝から肝臓がんへの進行を抑える?
2012年に、水素水(水素ガスが溶けた水)が非アルコール性脂肪肝炎から肝臓がんへの進行を抑制する可能性を示唆する研究結果が報告されています4)。
非アルコール性脂肪肝炎ははっきりした原因がないにも関わらず、肝臓に脂肪が溜まっていく病気です。
最終的には肝臓がんに進行し、患者数が増加しているため注目されている病気の一つでもあります。
具体的な研究内容と結果
この研究では、非アルコール性脂肪肝炎から肝硬変を経て肝臓がんを発症するよう操作されたマウスを使用。
通常の水で飼育した群と水素水で飼育した群を比較したところ、肝臓がんの細胞数は水素水で飼育した群の方が有意に少ないことが明らかになりました。
また、発生したがんの大きさも水素水で飼育した群の方が小さいことが明らかになっています。
水素吸入の今後に期待
水素吸入は水素水の飲用よりもはるかに多くの水素分子を取り込むことが可能です。
そのため、水素吸入療法は肝臓がんの予防に役立つ可能性を持つことが示唆されました。
まだ研究段階のため確実な治療効果があるとは言えませんが、今後のさらなる解明を期待します。
水素は放射線治療の副作用を軽減する効果がある?
水素が肝臓がんを縮小したり、転移を抑制したりする効果があるとの研究結果は現在のところ報告されていません。
しかし、2011年には水素が肝臓がんの放射線治療による副作用を軽減するとの研究結果が報告されました5)。
研究の内容と結果
この研究では、放射線治療を受ける肝臓がん患者49人に水素水を飲用した群と通常の水を飲用した群とで副作用の変化を比較検討しています。
結果として、水素水を飲んだ群は疲労感などの副作用が有意に軽減されたことが明らかになりました。
水素には肝臓がんに対する放射線治療の苦痛を和らげる効果があると期待できるでしょう。
水素を効率よく取り込める水素吸入療法にも同様の効果が期待できます。
【私はこう考える】水素吸入と肝臓がん
肝臓がんは5年生存率が低く、治りにくいがんの一つです。
現在でも新たな予防や治療方法の開発が続けられていますが、従来の治療法よりも著しく高い効果を期待できる治療方法は見つかっていません。
水素吸入療法はこれまでにもさまざまな病気の予防や治療に役立つことが明らかになっています。
今回ご紹介した研究結果では、水素ガスが非アルコール性脂肪肝炎から肝臓がんへの進行を予防できる可能性が示唆されました。
また、治療による辛い副作用を軽減できる効果も示されました。
水素吸入療法は体への負担なく行うことができます。健診で肝機能異常を指摘された方、脂肪肝などで治療中の方、肝臓がんの治療を受けている方などは水素吸入療法を試してみるのもよいでしょう。
参考文献
- 肝臓:[国立がん研究センター がん統計]
- 肝がんの病気について|国立がん研究センター
- 肝臓がん(肝細胞がん) 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
- Kawai, D., Takaki, A., Nakatsuka, A., Wada, J., Tamaki, N., Yasunaka, T., Koike, K., Tsuzaki, R., Matsumoto, K., Miyake, Y., Shiraha, H., Morita, M., Makino, H., & Yamamoto, K. (2012). Hydrogen-rich water prevents progression of nonalcoholic steatohepatitis and accompanying hepatocarcinogenesis in mice. Hepatology (Baltimore, Md.), 56(3), 912–921. https://doi.org/10.1002/hep.25782
- Kang, K. M., Kang, Y. N., Choi, I. B., Gu, Y., Kawamura, T., Toyoda, Y., & Nakao, A. (2011). Effects of drinking hydrogen-rich water on the quality of life of patients treated with radiotherapy for liver tumors. Medical gas research, 1(1), 11. https://doi.org/10.1186/2045-9912-1-11