《この記事の執筆者》
国立大学医学部卒。大学病院で25診療科を経験したのち、大阪や愛知、静岡、徳島など各地域の拠点病院で科の垣根を越えて診療に従事。基礎医学研究をしていた期間もあり、研究発表では最優秀賞を受賞。その後東京都の公立病院で内科全般、精神科、麻酔科、産婦人科、救急医療などに携わる。
「歳を重ねるごとに、疲れやすくなった…」
こう感じている方も多いのではないでしょうか?
年齢と共に持久力が低下するのは自然なことですが、対策を知れば改善も可能です。
本記事では、持久力の基本から、効果的な鍛え方について詳しく解説します。また、最近注目されている水素吸入療法が持久力向上にどのような効果をもたらすのか、最新の研究報告を基に検証します。
最近ちょっと動いただけで疲れやすくなったと感じている方は、ぜひこの記事を参考にして、持久力を高めるためにお役立てください。
持久力について
持久力は一定の運動を長く続けられる体力や粘り強さのことです1,2)。
正式には全身持久力、心肺持久力と呼ばれています。
筋力・瞬発力・柔軟性・調整力と並ぶ基本的運動能力のひとつであり、アスリートの世界ではとくに命運をわける能力といえるでしょう。
それでは持久力をつけるにはどうすればよいのでしょうか?
持久力のカギは最大酸素摂取量
最大酸素摂取量は、1分間に体内に取り込まれる酸素の最大量を指します2,3)。
持久力をつけるカギは、この最大酸素摂取量にあります。なぜなら、酸素を多く取り込めれば、それだけ長くエネルギーを生み出せるからです。
酸素は身体の中で化学反応によってエネルギーに変えられます。
運動でエネルギーが使われると、身体はできるだけ多くの酸素を取り込み血液中の酸素濃度を保とうとするのです。
酸素濃度を保つには心臓のポンプ機能や肺の拡散能力、赤血球の酸素運搬力などが関わりますが、これらは最大酸素摂取量でまとめて評価できます。つまりこの最大酸素摂取量を増やせば、持久力がついたといえるのです。
では持久力をつける具体的な方法は何があるのでしょうか?
持久力をつける方法
持久力をつけるためには、以下の2つを満たす運動が有効です1,2)。
- 低めの運動強度の運動をできるだけ長く行うこと
- 最大酸素摂取量の40%以上を確保すること
この2つを満たすにはジョギングや水泳、サイクリングなど、リズミカルで長く続けられる有酸素運動が最適です。
これらの運動を続けると心臓の機能が高まって酸素が取り込みやすくなり、筋肉の毛細血管が発達して血流量が増えます。
そうしてエネルギーを生み出し続けられるようになり、持久力がつくのです。
激しすぎる運動はあまりおすすめしない
長時間の中〜強度の運動は、酸化ストレスを引き起こし、疲労が溜まりやすくあまりおすすめされません。
持久力向上の面では、低めの運動強度の運動に軍配が上がるでしょう。なぜなら、ジョギングなどはだれでも取り組みやすく、継続がしやすいからです。
無理はせずに、低めの運動強度で運動を続けていましょう。
水素吸入は持久力に効果はある?
持久力をつけるとき、運動強度によっては酸化ストレスが発生することを説明しました。
ここで運動生理学の研究者たちは水素吸入に注目します。
水素吸入には抗酸化作用があり、酸化ストレスを引き起こす疾患や生活習慣に有効な可能性が多数示唆されているのです。そのため、運動時の酸化ストレスにも水素吸入が有効な可能性が考えられます。
今回、2024年に水素と持久力を含む身体能力の関係を調べた報告があるので、紹介したいと思います。
水素と身体能力についてのメタ分析
この研究は401件の論文から基準をもとに選択し、最終的に597人の参加者からなる27件の論文を調べたメタ分析です4)。
このメタ分析は水素と身体能力の関係を調べることが主旨となっています。
論文はランダム化比較デザインまたはクロスオーバーデザインを分析対象としました。
参加者は平均年齢17.5〜51.5歳の健康な成人であり、半分弱はエリートアスリートでした。
水素の投与方法や運動の種類は限定せず論文を選択しています。
結果は次の通りです。
- 下肢瞬発力の向上
- 主観的疲労度の低下
- 血中乳酸値の低下
- 最大酸素摂取量を含む有酸素性持久力の改善
- 無酸素性持久力の改善
- 筋力の向上
- 平均心拍数の低下
水素は持久力に有効でない可能性がある
今回、持久力を中心に述べてきましたが、このメタ分析では持久力に水素が有効でない可能性が示唆されました。
実際、3つの研究では水素が最大酸素摂取量などを有意に改善する可能性が示されていますが、別の6つの研究では有意ではないとの報告でした。
ただ、運動強度や水素の投与方法など制限なく抽出されていることや、最大酸素摂取量に言及した研究は9つであったことから、サンプル数が少ない可能性があるといえるかもしれません。
【私はこう考える】水素吸入と持久力
水素と持久力の関係について詳しく見てきました。
この論文は水素と身体能力に関する、おそらく最初のメタ分析です。メタ分析は診療ガイドラインに次いで信用できる研究手法であることから、非常に意義のある研究だといえるでしょう。
持久力に対する水素の効果は残念ながら認められませんでしたが、瞬発力や主観的な疲労感などは有意に低下しました。したがって身体能力の面では、少なからず水素の効果はあると示唆されます。
ここで提案したいのは、持久力の向上に低強度の運動を活用し、その疲労度の改善に水素吸入を利用する、ということです。
持久力の向上に低強度の運動が優れているのは確かです。
重要なのは続けていくということなので、疲労度を少しでも下げられれば、運動の継続がしやすくなる可能性が期待できるかもしれません。例えば、運動の前後に水素吸入を取り入れるなどが考えやすいでしょう。
しかしながら、今回は水素吸入に絞ったメタ分析ではなかったことから、投与方法を水素吸入に限定したメタ分析の報告が待たれます。
直接ではなくとも、水素吸入が持久力をサポート面で利用できる可能性を示唆した論文が報告されていくことを期待しています。
参考文献
- 心肺持久力|e-ヘルスネット
- なぜ全身持久力が必要なのか -健康と全身持久力の関連性|e-ヘルスネット
- 最大酸素摂取量 / VO2max|e-ヘルスネット
- Li, Y., Bing, R., Liu, M., Shang, Z., Huang, Y., Zhou, K., Bao, D., & Zhou, J. (2024). Can molecular hydrogen supplementation reduce exercise-induced oxidative stress in healthy adults? A systematic review and meta-analysis. Frontiers in nutrition, 11, 1328705. https://doi.org/10.3389/fnut.2024.1328705