《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
日本では約半数の人が、アレルギー性鼻炎に悩んでいるとされています。
しかし、根本治療はまだまだ限られているのが現状です。
このアレルギー性鼻炎に対して、最新の研究で水素吸入が予防と改善に役立つのではないかと示唆する報告が出てきています。
そこで本記事では、アレルギー性鼻炎の基礎知識から、水素吸入がどのようにアレルギー性鼻炎の予防や改善に役立つ可能性があるのかについて、科学的根拠をもとに解説していきます。アレルギー性鼻炎にお悩みの方は、ぜひご参考ください。
アレルギー性鼻炎とはどんな病気?
アレルギー性鼻炎とは、アレルギーによって鼻の粘膜に炎症が生じる病気のことです。
アレルギーの原因になる物質(アレルゲン)にはさまざまなものがあります。
まずは、アレルギー性鼻炎の特徴について詳しく見てみましょう。
アレルギー性鼻炎の原因
アレルギー性鼻炎は、鼻から侵入したアレルゲンが鼻の粘膜に付着してアレルギーを引き起こすことによって発症します。
アレルゲンの種類は多岐に渡りますが、最も多いのは花粉です。2019年に行われた全国調査では、日本では49.2%の方がアレルギー性鼻炎、42.5%の方が花粉によるアレルギー性鼻炎を発症していることが明らかになりました1)。特にスギ花粉によるアレルギー性鼻炎が多く、年々発症者が増えているとされています。
花粉以外には、ハウスダスト、ダニ、カビ、動物の毛などがアレルゲンとして挙げられます。これらのアレルゲンが鼻の粘膜に付着すると、過剰な免疫の力が働いてさまざまな症状を引き起こすのです。
アレルギー性鼻炎の症状
アレルギー性鼻炎の症状の現れ方には個人差がありますが、代表的には以下のような症状が引き起こされます。
- 発作性のくしゃみ
- 鼻水
- 鼻づまり
アレルギー性鼻炎は目のかゆみ、なみだ、充血といった症状が現れるアレルギー性結膜炎を発症しやすいのも特徴の一つです。
なお、年間を通して存在するハウスダストやダニなどがアレルゲンの場合には、季節問わず症状が現れます。このようなアレルギー性鼻炎を「通年性アレルギー性鼻炎」と呼び、花粉など限られた季節のみに存在するアレルゲンが原因のアレルギー性鼻炎は「季節性アレルギー性鼻炎」と呼びます。
アレルギー性鼻炎の治療
アレルギー性鼻炎の治療において最も大切なのは、原因となるアレルゲンをできるだけ排除することです。花粉が原因の場合はマスクを着用するなど花粉の吸入を予防することで症状を和らげることができます。
その上で、症状を緩和するための薬物療法を行います。使用する薬剤はアレルギー反応を抑える内服薬や注射のほか、鼻に直接噴霧する点鼻薬などを併用することも少なくありません。
それぞれの症状に合わせて薬剤を組み合わせる必要があります。症状が強く薬物療法では対処できない場合には、手術をするケースもあります。
アレルギー性鼻炎を根本的に治す唯一の治療法
近年では、スギ花粉やダニなど特定のアレルゲンに対する減感作療法という治療法も行われています。
減感作療法は、アレルゲンを少しずつ体内に取り入れていくことで体をアレルゲンに慣らしていく治療法です。
現状では、アレルギー性鼻炎を根本的に治す唯一の治療法となっています。
アレルギー性鼻炎は重症化するとどうなる?
アレルギー性鼻炎は軽度な症状のみの場合もありますが、重症な場合には頭重感や倦怠感などを伴うようになります。
また、不快な症状によって良質な睡眠が妨げられることで、集中力や注意力の低下など日常生活に支障を来す方も少なくないでしょう。
アレルギー性鼻炎が重症化すると、心身に大きな影響を及ぼすようになるため注意が必要です。
水素吸入はアレルギー性鼻炎の予防と治療に役立つ?
アレルギー性鼻炎には現在でもさまざまな予防や治療方法があります。しかし、アレルギー性鼻炎を根本的に治す方法は限られており、重症な場合には治療をしても症状が完全に抑えられないケースもあるのが現状です。
アレルギー性鼻炎の予防や治療方法は現在も多くの研究が進められていますが、水素分子との関係も注目されています。これまでにも水素分子がアレルギー性鼻炎の予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果が報告されています。
具体的な内容について詳しく見てみましょう。
水素水がアレルギー性鼻炎を予防する?
2017年に、中国の研究チームは水素水(水素ガスが溶けた水)がアレルギー性鼻炎の発症を予防する可能性を示唆する研究結果を報告しました2)。
この研究はアレルギー性鼻炎のラットを用いて行われました。その結果、水素水を投与したラットは生理食塩水を投与したラットに比べて、アレルギーを引き起こすサイトカインという物質が有意に減少させたことが明らかになっています。さらにくしゃみの頻度も低くなったことが分かりました。
水素吸入がアレルギー性鼻炎を予防する可能性
水素吸入がアレルギー性鼻炎の予防に役立つという直接的な研究結果は現在のところ報告されていません。しかし、水素吸入は水素水よりもより効率に水素分子を体内に取り入れることができます。
今回の研究では、水素分子がアレルギーを引き起こすサイトカインを減少させる可能性が示唆されているため、水素吸入にも同様の効果があることが期待されます。
まだ確実に効果があると断言できる段階ではありませんが、今後のさらなる究明を待ちましょう。
水素吸入でアレルギー性鼻炎の症状が改善する?
2018年に、中国で水素吸入がアレルギー性鼻炎による鼻粘膜の炎症を改善する可能性を示唆する研究結果が報告されました3)。
この研究は、アレルギー性鼻炎のマウスを用いて行われています。アレルギーを起こした後に水素ガスを吸入させた群とヘリウムガスを吸入させた群に分けて比較しました。
その結果、水素ガスを吸入した群では、鼻粘膜への炎症細胞の攻撃が有意に減少したことが明らかになっています。
水素吸入はアレルギー性鼻炎の治療に役立つ可能性
今回の研究結果から、水素吸入はアレルギー性鼻炎による粘膜の炎症を抑えることで症状を改善する効果を持つ可能性が示唆されました。
まだ動物実験の段階であるため、人に対しても同様の効果があると断言することはできません。しかし、水素吸入は他の臓器の炎症を改善するとの報告も多く上がっており、アレルギー性鼻炎の炎症も改善する可能性はあると言えるでしょう。
今後、人に対する効果の研究が進み、アレルギー性鼻炎の治療に応用されることを期待します。
【私はこう考える】水素吸入とアレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎は日本人の約半数が発症している病気です。予防や治療方法はすでに確立していますが、重症な場合には薬物療法などで十分な効果が出ないケースも少なくありません。
今回ご紹介した研究結果から、水素吸入はアレルギー性鼻炎の予防と改善に役立つ可能性が示唆されました。水素吸入は自宅でも手軽にできるため、つらい症状に悩まされている方は、試してみるのもよいでしょう。
これからさらに研究開発が進み、水素吸入がアレルギー性鼻炎の予防と改善に使用される日が来ることを期待します。
参考文献
- 鼻アレルギーの全国疫学調査2019 (1998年,2008年との比較): 速報 ―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として―
- Zhao, C., Yu, S., Li, J., Xu, W., & Ge, R. (2016). Changes in IL-4 and IL-13 expression in allergic rhinitis treated with hydrogen-rich saline in guinea-pig model. Allergology International. https://doi.org/10.1016/j.aller.2016.10.007
- Wang, S.-T., Bao, C., He, Y., Tian, X., Yang, Y., Zhang, T., & Xu, K.-F. (2020). Hydrogen gas (XEN) inhalation ameliorates airway inflammation in asthma and COPD patients. QJM: An International Journal of Medicine, 113(12), 870–875. https://doi.org/10.1093/qjmed/hcaa164