胸部外傷後の肺挫傷に対する水素吸入の軽減効果

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結論

水素吸入は、鈍的胸部外傷後の肺挫傷に伴う肺の炎症反応を有意に軽減する。

研究の背景と目的

肺挫傷は鈍的胸部外傷でよく見られる肺実質の重篤な炎症性損傷で、急性呼吸促迫症候群（ARDS）を引き起こす可能性がある。水素分子は抗酸化・抗炎症作用を持ち、様々な肺損傷モデルで保護効果が示されているが、肺挫傷に対する効果は不明。そこで本研究は、マウスの肺挫傷モデルを用いて、外傷後の水素吸入が肺の炎症と急性肺損傷を軽減するという仮説を検証した。

研究方法

C57BL/6雄性マウスを3群に無作為に分けた：偽手術＋空気吸入群、肺挫傷＋空気吸入群、肺挫傷＋1.3%水素吸入群。特製の装置を用いて再現性の高い肺挫傷モデルを作製。肺挫傷誘導直後から、1.3%水素ガスを含む空気にマウスを6時間曝露。外傷6時間後に、肺組織の病理学的解析、炎症性サイトカインのmRNA発現解析、動脈血ガス分析を行った。

研究結果

• 肺挫傷群の肺組織では、血管周囲・肺胞内出血、血管周囲・間質への白血球浸潤、間質・肺胞内浮腫が見られたが、水素吸入によりこれらの病理学的変化が有意に軽減された。
• 水素吸入により、CTで評価した肺挫傷の範囲も有意に縮小した。
• 水素吸入は、肺挫傷後に上昇する炎症性サイトカイン（IL-6、IL-1β）やケモカイン（CXCL2）のmRNA発現を有意に抑制し、酸素化を改善した（PaO2が115.7から145.3 Torrに上昇）。
• 肺挫傷後に増加する好中球浸潤と肺胞上皮細胞のアポトーシスも、水素吸入により有意に抑制された。
• 一方、TNF-α、CCL2、IL-10のmRNA発現には水素吸入の効果は見られなかった。

Appendix（用語解説）

• 急性呼吸促迫症候群（ARDS）：肺の炎症により両側肺に非心原性の浮腫が生じ、低酸素血症を来す疾患。重症例では人工呼吸管理を要する。
• PaO2：動脈血酸素分圧。肺でのガス交換機能の指標となる。正常値は80-100 Torr程度。

論文情報

タイトル

Hydrogen inhalation attenuates lung contusion after blunt chest trauma in mice（マウスにおける鈍的胸部外傷後の肺挫傷に対する水素吸入の軽減効果）

引用元

Ageta, K., Hirayama, T., Aokage, T., Seya, M., Meng, Y., Nojima, T., Yamamoto, H., Obara, T., Nakao, A., Yumoto, T., Tsukahara, K., & Naito, H. (2023). Hydrogen inhalation attenuates lung contusion after blunt chest trauma in mice. Surgery, 174(2), 343–349. https://doi.org/10.1016/j.surg.2023.04.029

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