研究論文
水素吸入は脳出血後の脳損傷を改善する

水素吸入は脳出血後の脳損傷を改善する

一言まとめ

マウスの脳出血モデルにおいて、水素吸入は肥満細胞の活性化を抑制し、酸化ストレスを軽減することで、血液脳関門の破綻や脳浮腫、神経症状を改善した。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は肥満細胞の活性化を抑制し、酸化ストレスを軽減することで、脳出血後の二次的脳損傷を改善する。

研究の背景と目的

脳出血は脳卒中の10-15%を占め、死亡率は40%以上と高い。生存者の多くは後遺症に苦しむ。脳出血後には活性酸素種(ROS)や活性窒素種(RNS)の産生増加が見られ、血液脳関門の破綻や脳浮腫を引き起こす。水素は様々な脳損傷モデルでROSを中和し酸化ストレスを軽減することが知られているが、そのメカニズムは不明な点が多い。本研究では、マウスの脳出血モデルを用いて、水素吸入の神経血管保護作用、特に肥満細胞の活性化に対する効果を調べることを目的とした。

研究方法

  • 8週齢の雄性CD-1マウス171匹を使用。
  • コラゲナーゼ誘発脳出血モデルを作成。
  • 水素は自発的吸入により投与。濃度は2.9%、流量は8L/分。
  • 24時間後と72時間後に血液脳関門の透過性と神経症状を評価。
  • ウェスタンブロットと免疫染色により肥満細胞の活性化を評価。
  • 自家血注入脳出血モデルでも水素吸入の効果を確認。

研究結果

  • 脳出血24時間後と72時間後に、血液脳関門の破綻、脳浮腫、神経症状が見られ、Lynキナーゼのリン酸化とトリプターゼ放出の増加が伴っていた。
  • 水素吸入はLynキナーゼのリン酸化とトリプターゼ放出を抑制し、肥満細胞の集積と脱顆粒を減少させ、血液脳関門の破綻を軽減し、神経症状を改善した。
  • 自家血注入モデルでも、水素吸入は肥満細胞の活性化を抑制した。
  • 水素吸入は過酸化水素の産生を抑制し、ニトロチロシンの蓄積を減少させた。
  • カタラーゼ阻害剤の前投与は、水素吸入の効果を打ち消した。

Appendix(用語解説)

  • 活性酸素種(ROS):酸素を含む反応性の高い分子の総称。過剰になると酸化ストレスを引き起こす。
  • 活性窒素種(RNS):窒素を含む反応性の高い分子の総称。ROSと同様に酸化ストレスの原因となる。
  • 血液脳関門:脳内への物質の出入りを厳密に制御している脳血管の特殊な構造。
  • 肥満細胞:炎症性メディエーターを含む顆粒を持つ免疫細胞。アレルギーや炎症に関与。
  • ニトロチロシン:タンパク質のチロシン残基がRNSによって修飾を受けたもの。酸化ストレスマーカーとして用いられる。

論文情報

タイトル

Hydrogen inhalation ameliorated mast cell-mediated brain injury after intracerebral hemorrhage in mice(水素吸入はマウスの脳出血後の肥満細胞を介した脳損傷を改善する)

引用元

Manaenko, A., Lekic, T., Ma, Q., Zhang, J. H., & Tang, J. (2013). Hydrogen inhalation ameliorated mast cell-mediated brain injury after intracerebral hemorrhage in mice. Critical care medicine41(5), 1266–1275. https://doi.org/10.1097/CCM.0b013e31827711c9

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