一言まとめ
機械的損傷を受けたマウスの脊髄神経細胞が、用量依存的に水素投与によって保護された。水素投与後には、ROS産生、酸化ストレス関連マーカー、アポトーシス細胞数が大幅に減少した他、損傷された神経細胞のミトコンドリア機能が保たれた。
3分で読める詳細解説
結論
水素吸投与は、用量依存性に、機械的損傷を受けた脊髄神経細胞を保護する。
そのメカニズムとして、水素分子の抗酸化作用、抗アポトーシス作用、ミトコンドリアの保護作用の関与が示唆された。
研究の背景と目的
脊髄損傷の病態では、中枢神経系に対する一時的な機械的損傷に加え、過剰な活性酸素生成による二次的損傷も問題と考えられている。水素は、その抗酸化作用が注目されていることから、脊髄損傷における水素の効果を評価する目的で本研究がなされた。
研究方法
In vitro とin vivoの研究の二つからなる。
まず、in vitro では、機械的損傷を受けた脊髄ニューロンを異なる濃度の水素投与下に体外で培養した。保護効果の判定に蛍光染色と顕微鏡を用いた他、酸化ストレスマーカー、アポトーシス数の評価、ATP産生の評価、ターゲット遺伝子のスクリーニングを行った。
In vivo では、脊髄打撲傷を生じさせたマウスに42日間水素投与(酸素、水素、窒素の混合ガスにおける体積比50%、65%、75%の水素ガス)を行い、BMSと足跡分析で運動機能を評価した他、損傷した脊髄セグメントの蛍光染色によって酸化ストレスを検出した。
研究結果
Appendix(用語解説)
- 活性酸素種:酸素分子から派生した化学的に反応性の高い分子やイオンの総称。過剰なROSは細胞や組織にダメージを与え、様々な疾患の原因となる。
- 酸化ストレス:活性酸素種の産生と除去のバランスが崩れ、細胞や組織が酸化的なダメージを受けた状態。
- アポトーシス:プログラムされた細胞死とも呼ばれ、細胞が自発的に死んでいく過程。
- ミトコンドリア:細胞内の小器官で、エネルギー産生に重要な役割を果たす。
- ATP:生体内のエネルギー通貨とも呼ばれ、細胞内のエネルギー源として重要な役割を果たす。
- 脊髄損傷:外傷や疾患によって脊髄が損傷を受けた状態を指す。
- BMS:マウスの脊髄損傷後の運動機能を評価するための尺度。
- 蛍光染色:蛍光染色は、特定の細胞や組織構造を可視化するための技術。
論文情報
タイトル
Inhalation of Hydrogen of Different Concentrations Ameliorates Spinal Cord Injury in Mice by Protecting Spinal Cord Neurons from Apoptosis, Oxidative Injury and Mitochondrial Structure Damages(異なる濃度の水素吸入によって、脊髄ニューロンがアポトーシス、酸化ストレス、ミトコンドリアの構造的傷害から保護されることで、マウスの脊損が改善する)
引用元
Chen, X., Cui, J., Zhai, X., Zhang, J., Gu, Z., Zhi, X., Weng, W., Pan, P., Cao, L., Ji, F., Wang, Z., & Su, J. (2018). Inhalation of Hydrogen of Different Concentrations Ameliorates Spinal Cord Injury in Mice by Protecting Spinal Cord Neurons from Apoptosis, Oxidative Injury and Mitochondrial Structure Damages. Cellular physiology and biochemistry : international journal of experimental cellular physiology, biochemistry, and pharmacology, 47(1), 176–190. https://doi.org/10.1159/000489764