研究論文
水素吸入は出血性ショック後の血管内皮機能不全を軽減する

水素吸入は出血性ショック後の血管内皮機能不全を軽減する

一言まとめ

ラットの出血性ショックモデルにおいて、ショック後の水素吸入が血行動態を安定化させ、短期生存率を改善した。この効果は、キサンチンオキシダーゼ阻害とは独立しており、TNF-αの産生抑制を介した内皮グリコカリックスの分解抑制によるものであった。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は、出血性ショック後の血管内皮機能不全を軽減し、臓器障害の悪化を防ぐ有望な治療法となり得る。

研究の背景と目的

出血性ショックは、大量出血による循環血液量の低下により引き起こされる致死的な病態である。輸液蘇生により失われた血液量を回復させても、血管機能不全が進行し、多臓器不全に至ることが多い。本研究では、出血性ショックラットモデルにおいて、ショック後の水素吸入の効果を検証し、そのメカニズムを解明することを目的とした。

研究方法

ラットを用いて、60分間の出血性ショック(平均動脈圧35mmHg)の後、3倍量の乳酸リンゲル液で輸液蘇生を行った。ショック後30分から水素ガス(1.3%)吸入を開始し、その効果をキサンチンオキシダーゼ阻害薬(XOR-I)投与群や抗TNF-α抗体投与群と比較した。蘇生2時間後の血行動態、生存率、血漿中サイトカイン濃度、グリコカリックス分解マーカー(シンデカン-1)などを評価した。

研究結果

  • 水素吸入とXOR-I投与は、ともに蘇生後の平均動脈圧を有意に改善し、6時間生存率を向上させた(コントロール群20%、水素群80%、XOR-I群83%)。
  • 水素吸入はXOR活性や尿酸産生には影響せず、XOR-Iとの併用効果が認められたことから、水素の作用機序はXOR阻害とは異なると考えられた。
  • 水素吸入は、血漿中TNF-α濃度を低下させ、グリコカリックス分解マーカーであるシンデカン-1の上昇を抑制した。XOR-Iにはこの効果はなかった。
  • 抗TNF-α抗体の前投与により、水素吸入の血行動態改善効果とグリコカリックス保護効果が消失した。
  • 以上より、水素吸入は、TNF-α産生抑制を介してグリコカリックス分解を抑制することで、出血性ショック後の血管内皮機能不全を軽減すると考えられた。

Appendix(用語解説)

  • 出血性ショック:大量出血により循環血液量が急激に減少し、全身の臓器に重篤な障害をきたす病態。
  • 輸液蘇生:失われた循環血液量を補充するために、乳酸リンゲル液などの輸液を急速に投与すること。
  • キサンチンオキシダーゼ(XOR):虚血再灌流障害の際に活性酸素を産生する酵素。
  • グリコカリックス:血管内皮細胞表面を覆う糖タンパク質層。血管透過性の制御や白血球接着の抑制などの役割を担う。
  • シンデカン-1:グリコカリックスの主要構成成分。その血中濃度はグリコカリックス分解の指標となる。

論文情報

タイトル

Hydrogen Gas Inhalation Attenuates Endothelial Glycocalyx Damage and Stabilizes Hemodynamics in a Rat Hemorrhagic Shock Model(出血性ショックラットモデルにおける水素ガス吸入による血行動態の安定化と内皮グリコカリックス障害の軽減)

引用元

Tamura, T., Sano, M., Matsuoka, T., Yoshizawa, J., Yamamoto, R., Katsumata, Y., Endo, J., Homma, K., Kajimura, M., Suzuki, M., Kobayashi, E., & Sasaki, J. (2020). Hydrogen Gas Inhalation Attenuates Endothelial Glycocalyx Damage and Stabilizes Hemodynamics in a Rat Hemorrhagic Shock Model. Shock (Augusta, Ga.)54(3), 377–385. https://doi.org/10.1097/SHK.0000000000001459

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