研究論文
水素吸入による熱中症死亡率の改善

水素吸入による熱中症死亡率の改善

一言まとめ

熱中症の特徴である過剰な酸化ストレスと炎症は、血管内皮グリコカリックスの破壊と熱中症死亡率に関与する。2%水素ガス吸入は、抗酸化作用と抗炎症作用によってグリコカリックスの保持と死亡率の改善に寄与した。

3分で読める詳細解説

結論

2%水素ガスを吸入することで血管内皮グリコカリックスが保持され、熱中症死亡率が改善した。

研究の背景と目的

熱中症は深部体温が40℃以上に上昇し中枢神経系の異常を来すもので、集中治療を行っても死亡率は63.6%と非常に高い。その病態生理には過剰な活性酸素種(ROS)の産生や炎症反応が関与し、血管内皮グリコカリックス(EGCX)の脱落を引き起こす。EGCXの脱落は炎症の増幅や凝固亢進を招き、臓器障害や死亡率上昇につながる。

一方、分子状水素は選択的にROSを除去し、抗炎症作用も有する医療用ガスとして注目されている。そこで本研究は、ラットの熱中症モデルに対する水素吸入の効果を、生存率とEGCXの観点から検証することを目的とした。

研究方法

98匹の雄性Wistarラットを、正常体温群、正常体温+2%水素群、熱中症群、熱中症+2%水素群、熱中症+4%水素群の5群に無作為に割り付けた。

40℃・湿度60%の環境下で全身麻酔下のラットを加温し、熱中症を誘発。水素吸入群には0%、2%、4%の水素ガスを吸入させた。

生存率の評価に加え、血清および心臓組織を採取し、EGCXの厚さや関連バイオマーカー(エンドトキシン、シンデカン-1、マロンジアルデヒド、スーパーオキシドジスムターゼ、TNF-α)を測定した。

研究結果

  • 2%水素吸入群の生存率は71.4%で、4%水素群(14.3%)、熱中症群(0%)より有意に高かった。
  • 電子顕微鏡で観察した心臓毛細血管のEGCX厚は、熱中症により有意に減少したが、2%水素吸入により部分的に保たれた。
  • 2%水素吸入群では、熱中症群と比べ血清エンドトキシン、シンデカン-1、マロンジアルデヒド、TNF-αが減少し、スーパーオキシドジスムターゼは増加した。
  • 2%水素吸入は、腸管バリア機能の指標であるFITC-デキストランの漏出量を抑制し、血清エンドトキシンレベルも低下させた。
  • 熱中症+4%水素吸入群では、SOD2活性の上昇傾向と、エンドトキシン、MDA、TNF-αレベルの低下傾向が見られたものの、EGCXの保護と生存率改善効果は2%水素吸入群ほど顕著ではなかった。
  • 以上より、2%濃度の水素ガス吸入は、抗酸化・抗炎症作用を介してEGCXの脱落を軽減し、熱中症ラットの生存率を改善することが示された。

Appendix(用語解説)

  • 血管内皮グリコカリックス(EGCX):血管内腔面を覆う糖タンパク質のゲル状の層。血管の保護や透過性の制御などに関わる。
  • シンデカン-1:EGCXを構成するコア蛋白質の一つ。EGCXの傷害で血中に放出される。
  • マロンジアルデヒド:脂質過酸化の最終産物。酸化ストレスマーカーの一つ。
  • スーパーオキシドジスムターゼ:活性酸素種を分解する抗酸化酵素。
  • SOD2(スーパーオキシドジスムターゼ2):ミトコンドリアに局在するSODアイソザイム。スーパーオキシドアニオンを過酸化水素に変換し解毒する。
  • TNF-α:炎症性サイトカインの一つ。過剰になると組織傷害を引き起こす。

論文情報

タイトル

Inhalation of 2% Hydrogen Improves Survival Rate and Attenuates Shedding of Vascular Endothelial Glycocalyx in Rats with Heat Stroke(2%水素ガスの吸入は、熱中症ラットの生存率を改善し、血管内皮グリコカリックスの脱落を軽減する)

引用元

Truong, S. K., Katoh, T., Mimuro, S., Sato, T., Kobayashi, K., & Nakajima, Y. (2021). Inhalation of 2% Hydrogen Improves Survival Rate and Attenuates Shedding of Vascular Endothelial Glycocalyx in Rats with Heat Stroke. Shock (Augusta, Ga.)56(4), 593–600. https://doi.org/10.1097/SHK.0000000000001797

専門家のコメント

三國ユウジ 先生のアバター

三國ユウジ 先生

この研究は、熱中症治療における水素吸入の可能性を示しています。2%の水素吸入で生存率が大幅に改善し、血管内皮グリコカリックスが保持されたことは注目すべきことです。一方で、やはりヒトを対象としてさらなる研究が必要です。ヒトでの効果はもちろん、4%では効果に乏しかった理由や、吸入時間を含めて適正使用量を検討する必要があります。今後のさらなる研究に期待が高まります。

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