水素は有害な活性酸素だけを除去する新しい抗酸化物質

結論
水素は、体内で最も有害なヒドロキシラジカル(悪玉活性酸素)を選択的に除去する新しい抗酸化物質である。2007年の報告から約3年半で70以上の論文が発表され、38以上の疾患モデルで保護効果が確認された。
水素は抗酸化だけでなく、抗炎症・抗アレルギー作用も持つことが明らかになった。ミトコンドリア病を含む臨床応用への道が開かれつつあるが、分子レベルのメカニズム解明はまだ途上にある。
研究の背景と目的
ミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)は、エネルギーを作る過程で活性酸素種(ROS)を発生させる。過剰な活性酸素は細胞を傷つけ、がん・老化・生活習慣病など多くの疾患に関与しているが、ビタミンCやEなどの抗酸化物質は臨床試験でほとんど成果を上げられなかった。
太田成男教授(日本医科大学)のグループは2007年、水素がヒドロキシラジカルを選択的に除去する新しい抗酸化物質であることをNature Medicineに報告した。本レビューは、その発表から約3年半のあいだに蓄積された70以上の研究論文を体系的に整理し、水素の治療・予防の可能性を包括的にまとめたものである。
本レビューの概要
太田教授のグループを中心に発表された、水素に関する基礎研究・前臨床研究・臨床試験を以下の範囲でレビューしている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 著者 | 太田成男(日本医科大学・生化学教室) |
| 対象論文数 | 70以上(2007〜2011年) |
| 対象疾患 | 38以上の疾患・生理学的状態 |
| 対象範囲 | 作用メカニズム、摂取方法、 疾患モデルでの効果、臨床試験 |
| 掲載誌 | Biochimica et Biophysica Acta (特集号「ミトコンドリアの生化学」) |
主な知見
本レビューから、以下の4点を取り上げる。
- ① 水素は有害な活性酸素だけを選んで除去する
- ② 水素にはさまざまな摂取方法がある
- ③ 38以上の疾患モデルで保護効果が確認された
- ④ ヒトの臨床試験でも初期的な成果が出ている
① 水素は有害な活性酸素だけを選んで除去する
培養細胞を用いた実験で、水素がどの活性酸素種に作用するかを検証した。
| 活性酸素の種類 | 役割 | 水素の効果 |
|---|---|---|
| ヒドロキシラジカル(・OH) | 最も毒性が高い DNA・タンパク質を攻撃 | 顕著に減少 |
| スーパーオキシド(・O₂⁻) | シグナル伝達にも関与 | 変化なし |
| 過酸化水素(H₂O₂) | シグナル伝達にも関与 | 変化なし |
| 一酸化窒素(NO) | 血管拡張などに必要 | 変化なし |
水素は最も毒性の高いヒドロキシラジカルだけを除去し、細胞の情報伝達に必要な他の活性酸素種には影響しなかった。この選択的な除去は細胞質だけでなく核内でも確認されている。
つまり、水素は「悪玉の活性酸素」だけを狙い撃ちし、「善玉の活性酸素」は残すという、従来の抗酸化物質にはない選択性を持っている。ビタミンCやEなどの汎用的な抗酸化物質が臨床で成果を上げられなかった理由の一つは、有益なシグナル分子まで消してしまうことにあった。水素はこの問題を回避できる可能性がある。
② 水素にはさまざまな摂取方法がある
水素は宇宙で最も軽い分子であり、細胞膜や血液脳関門を自由に通り抜ける。この特性を活かして、複数の摂取方法が開発されている。
| 摂取方法 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 水素ガス吸入 | ・即効性が高い ・全身に届きやすい | 急性期の治療 |
| 水素水の飲用 | ・手軽で続けやすい ・常温常圧で約0.8 mM溶解 | 日常の予防・健康管理 |
| 水素生理食塩水の注射 | 濃度を正確に制御可能 | 動物実験・臨床応用 |
| 水素風呂 | ・皮膚から吸収 ・10分で全身に行き渡る | 日常的な取り入れ |
| 腸内細菌による産生 | 食物繊維の発酵で自然に発生 | 間接的な水素供給 |
吸入は即効性を重視する急性期に、水素水は手軽に続けられる日常の予防に、それぞれ適している。いずれの方法でも、水素は速やかに体内を拡散し、ミトコンドリアや核にまで到達する。この分布特性は、従来の抗酸化物質にはない大きな利点とされている。
③ 38以上の疾患モデルで保護効果が確認された
本レビューで報告されている主な疾患モデルと効果を以下にまとめる。
| 疾患モデル | 動物種 | 投与法 | 主な効果 |
|---|---|---|---|
| 脳の虚血再灌流障害 | ラット | 吸入(2%) | 梗塞体積が顕著に縮小 |
| 心筋梗塞 | ラット | 吸入(2%) | 梗塞サイズ・酸化ストレスを軽減 |
| パーキンソン病 | ラット | 水素水 | 黒質線条体の変性を防止 |
| 動脈硬化 | マウス | 水素水 | 大動脈のプラーク形成を抑制 |
| メタボリックシンドローム | マウス | 水素水 | 体脂肪・血糖・中性脂肪が低下 |
| 即時型アレルギー | マウス | 水素水 | FcεRI経路のシグナルを抑制 |
| 敗血症 | マウス | 吸入 | 生存率・臓器ダメージを改善 |
以下に、脳の虚血再灌流障害に対する水素吸入の効果を示す。

脳だけでなく、心臓・肝臓でも虚血再灌流障害に対する保護効果が確認されている。特にメタボリックシンドロームのモデルでは、水素水の長期飲用だけで体脂肪や血糖値が低下しており、日常的な予防手段としての可能性が示唆された。
また、動脈硬化モデルでも水素水の効果が画像で確認されている。

④ ヒトの臨床試験でも初期的な成果が出ている
レビュー時点で報告されていた主な臨床試験は以下の通りである。
| 対象疾患 | 対象者 | 投与法 | 主な結果 |
|---|---|---|---|
| 2型糖尿病 | 患者 | 水素水の飲用 | ・酸化ストレスマーカーが低下 ・糖代謝(血糖)に影響 |
| メタボリックシンドローム 候補 | リスク保有者 | 水素水の飲用 | ・抗酸化状態が改善 ・コレステロール代謝に影響 |
| ミトコンドリア病など | 患者10名 | 水素水 1 L/日 12週間 | 血中乳酸値が有意に低下 |
特に注目されるのは、ミトコンドリア病(MELAS)への効果である。33歳女性のMELAS患者が18か月間水素水を飲み続けたところ、反復性脳虚血の頻度が減少し、血中乳酸・ピルビン酸濃度が改善した。HbA1cや尿タンパクの値にも改善が見られた。
別の臨床試験(オープンラベル)でも、4名のMELAS患者を含む10名で血清マーカーの改善が確認された。ただし、続いて行われた二重盲検クロスオーバー試験では乳酸値以外に有意差は見られなかった。水素水の量が半分だったこと(1日0.5 L)や、観察期間の短さが影響した可能性が指摘されている。
安全性
水素は4%以下の濃度では燃焼の危険がなく、深海潜水では49%水素を含む混合ガス(ハイドレリオックス)が実際に使用されている。培養細胞に対する細胞毒性は報告されておらず、高濃度でも有害な影響は確認されていない。
考察と今後の課題
水素の効果が悪玉活性酸素の除去だけでは説明できない点は、著者自身が認めている。口から摂った水素は体内にとどまる時間が短く、量も限られる。そのため、絶えず生まれる大量のヒドロキシラジカルをすべて除去するには不十分と考えられる。近年の研究では、水素が遺伝子の働きやタンパク質の活性化にも影響を与えることが示唆されており、抗酸化以外のメカニズムの解明が今後の重要課題となる。
興味深いことに、ミトコンドリアの祖先にあたる古代の細菌は水素を産生し、それを共生細菌にエネルギー源として提供していたとされる。この進化的な背景を踏まえると、現在のミトコンドリア内にも水素を利用する何らかのシステムが維持されている可能性は理にかなった仮説である。今後は、水素の分子標的の特定と、大規模なランダム化比較試験による臨床効果の検証が求められる。
すいかつねっと編集部の感想
本論文は、2007年のNature Medicine掲載論文で水素医学を提唱した太田成男教授自身による、最初の包括的レビューです。わずか3年半で38以上の疾患モデル、70以上の論文が蓄積されたという事実は、水素研究の急速な広がりを物語っています。
特に重要なのは、水素が従来の抗酸化物質とは根本的に異なる「選択的」な作用を持つという指摘です。ビタミンCやEが臨床試験で期待通りの結果を出せなかった背景には、有益なシグナル分子まで除去してしまう問題がありました。水素はこの問題を回避できる可能性があり、それが多様な疾患モデルで効果を示せた理由の一つと考えられます。
ただし、本レビュー時点(2011年)では大規模な臨床試験のエビデンスはまだ限られており、動物実験が中心です。2012年以降の研究の発展については、水素分子に関する321本の論文レビューで体系的に整理されています。また、本論文で示されたミトコンドリアとの関係は、ミトコンドリアを標的とする物質としての水素の可能性でさらに掘り下げられています。
用語解説
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| ミトコンドリア | 細胞内のエネルギー工場。酸素を使ってATP(エネルギー通貨)を作るが、その過程で活性酸素も発生させる |
| 活性酸素種(ROS) | 通常の酸素よりも反応性が高い物質の総称。少量は細胞のシグナル伝達に必要だが、過剰になると細胞を傷つける |
| ヒドロキシラジカル(・OH) | 活性酸素の中で最も毒性が強い種類。DNA・タンパク質・脂質を直接攻撃し、細胞を損傷させる |
| 酸化ストレス | 体内で活性酸素の産生が抗酸化防御を上回った状態。多くの疾患の共通基盤とされる |
| 虚血再灌流障害 | 血流が途絶えた後に再開する際、大量の活性酸素が発生して組織が傷つく現象。脳梗塞や心筋梗塞で問題となる |
| MELAS | ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作の略。ミトコンドリアの遺伝子異常で起こる難病 |
| ApoE欠損マウス | コレステロール代謝に関わるApoE遺伝子を持たないマウス。動脈硬化を自然に発症するため研究モデルとして使われる |
| ハイドレリオックス | 水素49%+ヘリウム50%+酸素1%の混合ガス。深海潜水で減圧症と窒素酔いを防ぐために使われる |
論文情報
論文タイトル
Molecular hydrogen is a novel antioxidant to efficiently reduce oxidative stress with potential for the improvement of mitochondrial diseases(水素分子は酸化ストレスを効率的に軽減する新しい抗酸化物質であり、ミトコンドリア病の改善にも期待される)
引用元

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