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研究報告

水素分子の抗炎症作用が大腸炎の発症予防につながる

Hydrogen mediates suppression of colon inflammation induced by dextran sodium sulfate(水素はデキストラン硫酸ナトリウムにより誘発される大腸炎症を抑制する)
大腸炎マウスに水素水を投与したところ、大腸の炎症や組織破壊が抑制され、炎症を引き起こすサイトカインの産生も低下したことが報告された。
  1. 1結論
  2. 2研究の背景と目的
  3. 3研究方法
  4. 4研究の主な結果
  5. 5考察と今後の課題
  6. 6すいかつねっと編集部の感想
  7. 7用語解説
  8. 8論文情報

結論

マウスのDSS誘発性大腸炎モデルにおいて、水素水の経口投与が臨床症状(体重減少・大腸炎スコア・大腸短縮)を有意に抑制し、その効果は炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-12、TNF-α)の産生低下とマクロファージ浸潤の抑制を介していることが示された。

研究の背景と目的

水素分子(H₂)の抗酸化作用については、脳・肝臓・心臓における虚血再灌流障害の軽減効果がすでに報告されていた。しかし、虚血再灌流以外のメカニズムで起こる炎症に対して水素が有効かどうかは明らかになっていなかった。そこで本研究では、水素を溶かした水(水素水)の経口投与が大腸炎の発症を予防できるかを検証した。

研究方法

BALB/cマウス(8〜10週齢オス、各群6匹)を以下の4群に分け、それぞれの飲水を7日間自由摂取させた。

群飲水内容目的
Control群通常の蒸留水正常対照
H₂群水素飽和水(0.78 mM)水素単独の影響確認
DSS群5% DSS水溶液大腸炎モデル
H₂ + DSS群5% DSS+水素飽和水水素の予防効果検証

水素水は飽和濃度0.78 mM(ORP:−511 mV、pH 7.67)で調製し、毎日新鮮なものに交換した。

主な評価項目は、体重変化、大腸炎スコア(体重減少・便の性状・出血の3項目を統合した指標、0〜4点)、大腸の長さ、組織学的スコア、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-12、TNF-α)であり、群間の差は統計的に検定した。

研究の主な結果

本研究の結果から、以下の3点を取り上げる。

  • ① 臨床症状の変化(体重・大腸炎スコア・大腸の長さ)
  • ② 大腸組織の病理学的変化
  • ③ 炎症性サイトカインの変化

① 臨床症状の変化

DSS投与7日間における体重変化、大腸炎スコア、7日目の大腸の長さを群間で比較した。

指標DSS群H₂ + DSS群統計的有意差
体重変化
(7日目)
約−10〜12%ほぼ変化なしp < 0.01
大腸炎スコア
(7日目)
約3.0約1.0p < 0.01
大腸の長さ約8 cm約10.5 cmp < 0.01
※数値はグラフ(Fig.1C, 1D, 2B)からの読み取り値

Kajiya et al., 2009, Fig.2A
7日目に摘出した各群の大腸の比較。上から順に、通常の水(Control)、水素水(H₂)、DSS水(DSS)、DSS+水素水(H₂ + DSS)。DSS群では大腸が明らかに短縮しているのに対し、DSS+水素水群ではほぼ正常な長さを維持している。(Kajiya et al., 2009, Fig.2Aより引用)

DSS単独群では5日目以降に顕著な体重減少が始まり、大腸炎スコアも日を追うごとに上昇した。一方、水素水を加えたDSS群ではこれらの症状がほぼ完全に抑えられた。大腸の長さについても、DSS群で見られた明らかな短縮がH₂添加により有意に防がれており、水素水が大腸炎の臨床症状全般を予防することが示された。

② 大腸組織の病理学的変化

大腸の組織切片をH&E染色し、炎症の程度・深さ・クリプト(陰窩)の損傷度を点数化した組織学的スコアで評価した。

群組織学的スコア
Control群約0.5
DSS群約8.5
H₂ + DSS群約2.0
DSS群 vs H₂+DSS群p < 0.01
※数値はグラフ(Fig.3G)からの読み取り値

Kajiya et al., 2009, Fig.3D~F
大腸粘膜の組織切片(×200)。左から通常水群、DSS群、DSS+水素水群。DSS群(中央)では粘膜の構造が大きく破壊され、炎症細胞の浸潤が見られる。一方、DSS+水素水群(右)では粘膜構造がおおむね保たれている。(Kajiya et al., 2009, Fig.3D-Fより引用)

DSS群では粘膜上皮やクリプト構造が広範に破壊され、炎症細胞の浸潤が顕著であった。一方、水素水併用群ではこれらの変化が大幅に軽減され、粘膜構造がおおむね保たれていた。また、免疫蛍光染色の結果、DSS群で増加していたF4/80陽性マクロファージの浸潤も、水素水の併用により抑制されていた。

③ 炎症性サイトカインの変化

大腸炎の組織破壊に関与する炎症性サイトカイン3種(IL-1β、IL-12、TNF-α)を、大腸組織のホモジネートからELISA法で定量した。

サイトカインDSS群H₂ + DSS群統計的有意差
IL-1β約900約700p < 0.078(有意傾向)
IL-12約350約230p < 0.05
TNF-α約45約20p < 0.01
※数値はグラフ(Fig.4A-C)からの読み取り値。単位はpg/100mg

DSS投与により大幅に上昇した3種の炎症性サイトカインは、水素水の併用によりいずれも抑制された。特にTNF-αとIL-12では統計的に有意な低下が確認され、IL-1βも有意傾向(p < 0.078)を示した。なお、水素水のみを投与した群ではいずれのサイトカインも通常水群と差がなく、水素水が正常な免疫機能に影響しないことも確認された。

補足:安全性について

水素水のみを投与したH₂群では、体重・大腸炎スコア・大腸の長さ・組織学的スコア・サイトカインレベルのいずれにおいても通常水群との差は認められず、水素水による有害な影響は観察されなかった。

考察と今後の課題

本研究の結果から、水素はIL-1β、IL-12、TNF-αといった炎症性サイトカインの産生を抑制し、マクロファージの浸潤を抑えることで大腸炎を予防したと考えられる。炎症と酸化ストレスはROSやNF-κBを介して相互に増幅し合う関係にあり、水素の抗酸化作用がこの悪循環を断ち切っている可能性がある。

なお、水素をDSSとは別の経路(腹腔内注射)で投与しても同様の効果が確認されており、水素がDSSの化学的性質を変えたのではなく、体内の組織や細胞に直接作用していると考えられる。ただし、本研究はマウスを用いた「予防」モデルであり、ヒトの潰瘍性大腸炎への応用や、すでに発症した大腸炎に対する「治療」効果の検証には、今後の研究が必要である。

すいかつねっと編集部の感想

本研究は2009年に発表されたもので、水素水が大腸の炎症を抑えることを示した初期の重要な研究です。臨床症状・組織変化・サイトカインという3つのレベルでエビデンスが揃っている点は評価できます。ただし、マウスで「大腸炎になる前から水素水を飲ませた」という予防モデルであり、すでに症状のある潰瘍性大腸炎患者に効くかどうかは別の問題です。

この論文以降、水素と大腸炎に関する研究は着実に進展しています。2024年には潰瘍性大腸炎に対する水素の効果を包括的にまとめたレビュー論文が発表され、2025年には実際の潰瘍性大腸炎患者に対する潰瘍性大腸炎患者に対する水素吸入の臨床試験も報告されています。本研究はそうした流れの出発点として、いまなお参照される基盤的な成果といえます。

用語解説

用語解説
DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)大腸の粘膜バリアを破壊する多糖類。マウスに飲ませると潰瘍性大腸炎に似た症状を起こすため、研究モデルとして広く使われる
炎症性サイトカイン免疫細胞が産生するタンパク質で、炎症反応を促進する。IL-1β、IL-12、TNF-αなどが代表的
マクロファージ体内に侵入した異物を食べて除去する免疫細胞。炎症部位に集まり、炎症性サイトカインを放出する
クリプト(陰窩)大腸の粘膜表面にある管状のくぼみ。腸の細胞が新しく作られる場所で、大腸炎ではこの構造が破壊される
ELISA特定のタンパク質の量を測定する実験手法。抗体を使って目的の物質を捕まえ、その量を数値化する
組織学的スコア組織切片を顕微鏡で観察し、炎症の程度・深さ・組織の破壊度を点数化したもの。点数が高いほど重症
ORP(酸化還元電位)液体が酸化させる力と還元(酸化の逆)させる力のバランスを示す値。マイナスの値が大きいほど還元力が強い

論文情報

論文タイトル

Hydrogen mediates suppression of colon inflammation induced by dextran sodium sulfate(水素はデキストラン硫酸ナトリウムにより誘発される大腸炎症を抑制する)

引用元

Kajiya, M., Silva, M. J. B., Sato, K., Ouhara, K., & Kawai, T. (2009). Hydrogen mediates suppression of colon inflammation induced by dextran sodium sulfate. Biochemical and Biophysical Research Communications. https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2009.05.117

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公開日:2026/02/10
目次
  1. 結論
  2. 研究の背景と目的
  3. 研究方法
  4. 研究の主な結果
    1. ① 臨床症状の変化
    2. ② 大腸組織の病理学的変化
    3. ③ 炎症性サイトカインの変化
  5. 考察と今後の課題
  6. すいかつねっと編集部の感想
  7. 用語解説
  8. 論文情報
    1. 論文タイトル
    2. 引用元

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公開日:2026/02/10
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