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研究報告

予防・治療用医療ガスとしての水素分子

更新日:2026/02/11
Molecular hydrogen as a preventive and therapeutic medical gas: initiation, development and potential of hydrogen medicine(予防・治療用医療ガスとしての水素分子:水素医学の始まり、発展、そして可能性)
本論文は、2007年の発見から2014年までに出版された300報以上の研究 をまとめた総説(レビュー)であり、水素分子が有害な活性酸素を選択的に除去することで、多様な疾患モデルや臨床試験において抗酸化、抗炎症、抗アポトーシスなどの広範な効果 を示すことを概説している。
  1. 13分で読める詳細解説
    1. 結論
    2. 研究の背景と目的
    3. 研究方法
    4. 研究結果
    5. 論文情報
  2. 2専門家のコメント

3分で読める詳細解説

結論

水素分子は、優れた効果と副作用のなさから、多くの疾患に対する臨床応用の高い可能性を秘めている。

研究の背景と目的

従来、水素分子は体内で機能しない不活性ガスと見なされてきた。一方で、私たちの体内では過剰な「酸化ストレス」(特に強力な活性酸素)が発生すると、それが細胞を傷つけ、がん、糖尿病、動脈硬化、神経変性疾患など多くの病気や老化の原因となる。これまでの抗酸化サプリメントは、病気の予防効果が限定的であるだけでなく、かえって死亡率を高める可能性も報告されていた。これは、従来の抗酸化物質が、体に有害な活性酸素(例:ヒドロキシルラジカル)だけでなく、細胞のシグナル伝達に必要な活性酸素(例:過酸化水素)まで無差別に除去してしまうためと考えられた。
そこで、体に有害な「ヒドロキシルラジカル」や「ペルオキシナイトライト」を選択的に中和し、かつ体に必要な活性酸素には影響を与えない「理想的な抗酸化物質」が求められていた。2007年、著者のグループは水素分子がまさにその理想的な特性を持つことを発見した。本論文の目的は、この2007年の発見以降に蓄積された動物実験や臨床試験の知見を網羅的にレビューし、水素分子の多様な作用メカニズムと、医療応用への将来的な可能性を明らかにすることである。

研究方法

これは特定の新しい臨床試験を行った研究ではなく、既存の研究(2013年までに発表された300報以上の論文、うち10報以上の臨床試験を含む)を収集・要約したレビュー論文である。

本レビューで取り上げられた研究で用いられた、主な水素の摂取方法は以下の通りである。

  • 水素吸入: 1〜4%の水素分子を含むガスを吸入する。
  • 水素水の飲用: 水素分子を水に溶かしたもの(室温・1気圧で最大0.8 mM、1.6 mg/L)を飲む。
  • 水素生理食塩水の注射: 水素分子を溶かした生理食塩水を静脈注射などで投与する。
  • その他: 水素分子を溶かした点眼薬、水素入浴剤(水素風呂)など。

研究結果

レビューの結果、水素分子には以下のような特徴と効果があることが示された。

  • 安全性: 水素分子は高濃度(例:深海潜水用の49%混合ガス)でも人体に毒性がなく、治療で用いる低濃度(1-4%)では引火の危険もない、極めて安全性の高い医療用ガスである。
  • 体内動態: 水素分子は極めて小さいため、細胞膜を容易に通過し、核やミトコンドリアなど細胞の隅々まですばやく拡散する。また、多くの薬剤が通過できない「血液脳関門」も通過できる。
  • 作用メカニズム(仮説を含む):
    • 直接的な抗酸化作用: 細胞毒性が最も強い活性酸素であるヒドロキシルラジカル(•OH)とペルオキシナイトライト(ONOO⁻)を選択的に中和する。
    • 間接的な調節作用:
      • 体が本来持つ抗酸化システム(Nrf2経路など)を活性化させ、抗酸化酵素(HO-1など)の産生を促す。
      • 炎症を引き起こす物質(炎症性サイトカイン)の産生を抑制し、抗炎症作用を示す。
      • エネルギー代謝を促進するホルモン(FGF21)や、神経保護に関わるホルモン(グレリン)の産生を高める。
  • 主な臨床試験の結果(論文で引用されたもの):
  • パーキンソン病: 48週間の水素水飲用(1L/日)により、プラセボ群(偽の水)と比較してUPDRSスコア(症状の重症度)の悪化が有意に抑制された(P<.05)。
  • 2型糖尿病・耐糖能異常: 8週間の水素水飲用(900mL/日)により、複数の悪玉コレステロール指標や酸化ストレスマーカー(8-イソプロスタン)が改善した。
  • メタボリックシンドローム予備群: 10週間の水素水飲用(0.9-1.0 L/日)により、総コレステロールとLDL(悪玉)コレステロールが低下し、HDL(善玉)コレステロールの機能が改善した。
  • 関節リウマチ: 4週間の高濃度水素水飲用(0.5 L/日)により、酸化ストレスマーカー(8-OHdG)が有意に14.3%減少し $(P<0.01)$、疾患活動性スコア(DAS28)も有意に改善した(P<0.01)。
  • がん放射線治療の副作用: 6週間の水素水飲用(1.5-2.0 L/日)により、生活の質(QOL)スコアが改善し、特に食欲不振が予防された。腫瘍への治療効果はプラセボ群と差がなかった。
  • 運動による疲労: 水素水の摂取により、激しい運動後の血中乳酸値の上昇が抑制され、筋肉疲労(ピークトルクの低下)が軽減された。
  • 考察と今後の課題:
    • 水素分子は、特定の標的にのみ作用する従来の医薬品とは異なり、酸化ストレスや炎症が関わるほぼ全ての病態に対して広範な効果を示す可能性がある。
    • 一方で、水素分子がどのようにして遺伝子発現やシグナル伝達を調節しているのか、その「最初の標的(プライマリーターゲット)」が何であるかは未だ解明されておらず、今後の研究課題である。

Appendix(用語解説)

  • 酸化ストレス: 体内で活性酸素が過剰に発生し、細胞を傷つけてしまう状態。老化や多くの病気の原因とされる。
  • 活性酸素 (ROS): 呼吸によって取り入れた酸素の一部が、通常より活性化された状態になったもの。酸化力が強く、過剰になると細胞を傷つける。
  • ヒドロキシルラジカル (•OH): 活性酸素の中でも特に酸化力が非常に強く、細胞にとって最も有害とされる物質。
  • ペルオキシナイトライト (ONOO⁻): 強力な酸化力を持つ活性窒素種(RNS)の一つ。
  • シグナル伝達: 細胞が外部からの刺激を受け取り、それを細胞内部に伝えて特定の反応を引き起こす仕組み。一部の活性酸素(過酸化水素 $H_2O_2$ など)もこの役割を担う。
  • Nrf2 (ナーフツー): 細胞が酸化ストレスや有害物質から身を守るための「防御システム」の司令塔となるタンパク質。
  • サイトカイン: 細胞から放出されるタンパク質で、細胞間の情報伝達を担う。炎症を引き起こす「炎症性サイトカイン」などがある。
  • プラセボ: 偽薬(ぎやく)。見た目や味は本物の薬と同じだが、有効成分が含まれていないもの。薬の本当の効果を科学的に確かめる臨床試験で使われる。
  • 血液脳関門: 脳の血管に存在するバリア機能。血液中の物質が自由に脳内に入らないように制限し、脳を保護する役割を持つ。
  • ミトコンドリア: 細胞内にある小器官で、エネルギー(ATP)を作り出す「エネルギー工場」の役割を担う。
  • アポトーシス: 細胞が自ら死を選ぶようにプログラムされた「細胞の自殺」のこと。水素分子は、病的な状態での不要なアポトーシスを抑制する働きがある。
  • UPDRSスコア: パーキンソン病の重症度を評価するための統一スケール。
  • 総説 (レビュー論文): あるテーマに関して、過去に発表された多数の研究論文を集め、それらの知見を整理・要約し、総合的に評価・考察する論文のこと。

論文情報

タイトル

Molecular hydrogen as a preventive and therapeutic medical gas: initiation, development and potential of hydrogen medicine(予防・治療用医療ガスとしての水素分子:水素医学の始まり、発展、そして可能性)

引用元

Ohta S. (2014). Molecular hydrogen as a preventive and therapeutic medical gas: initiation, development and potential of hydrogen medicine. Pharmacology & therapeutics, 144(1), 1–11. https://doi.org/10.1016/j.pharmthera.2014.04.006

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公開日:2025/11/02
最終更新日:2026/02/11
目次
  1. 3分で読める詳細解説
    1. 結論
    2. 研究の背景と目的
    3. 研究方法
    4. 研究結果
    5. 論文情報
  2. 専門家のコメント

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公開日:2025/11/02
最終更新日:2026/02/11
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