Renal replacement strategies: dual benefits of hydrogen gas inhalation and hydrogen-enriched dialysate（腎代替療法における戦略：水素吸入と水素豊富透析液の二重の便益）

水素吸入と水素透析液の併用は透析患者のQOLを高める

2025.10.24

一言まとめ

血液透析患者において、水素吸入と水素を豊富に含んだ透析液を併用する治療法を検証し、酸化ストレスの軽減と生活の質（QOL）の向上に有効であることを示した。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入と水素豊富透析液の併用は、透析患者の酸化ストレスを減らしQOLを高める。

研究の背景と目的

長期間にわたり透析治療を受けている患者は、体内に「酸化ストレス」が蓄積しやすく、これが慢性的な炎症を引き起こすことで、心血管疾患のリスクが高まるという課題を抱えている。そこで注目されているのが「水素分子（H₂）」である。水素分子は、体内の有害な活性酸素を選択的に除去する働きを持つ、優れた抗酸化物質として知られる。
この研究は、透析治療に「水素豊富透析液の使用」と「水素吸入」を組み合わせることで、透析患者の酸化ストレスや炎症を効果的に軽減し、より良い治療成果に繋げられるかを明らかにすることを目的としている。

研究方法

対象者: 論文内に、研究全体の対象者数やその属性に関する明確な記述はない。ただし、図中のデータには測定ごとのサンプル数が記載されている (例: n=11, 5, 5, 4, 9, 6, 13) 。
介入方法:
- 水素吸入: 2.5%濃度の水素ガスを、鼻から吸入するためのチューブ（鼻カニューレ）を用いて吸入。流量は毎分250mLで、週3回の透析セッション中（1回4〜5時間）に実施された。
- 水素豊富透析液: 電解水を用いて作製した、平均300ppbの水素分子を含む透析液を使用した。
対照群の設定: 水素を用いない従来の血液透析（HD）など、複数の腎代替療法モダリティと比較された。
評価方法: 酸化ストレスの指標である「酸化還元電位（ORP）」、血中の酸素分圧や水素濃度、そして患者自身が評価する生活の質（EQ-VAS）などを測定し、治療効果を評価した。

研究結果

主要な結果:
- 生活の質（QOL）の改善: 水素吸入と水素豊富透析液（電解水オンライン血液透析濾過）を併用したケースで、EQ-VASスコアが最も大きく改善し、100（最高の健康状態）に近づいた。
- 酸化ストレスの低減: 水素を用いた透析（EW-HD, EW-OL-HDF）では、水素を用いない従来の透析と比較して、血漿の酸化還元電位（ORP）が有意に低下した（p < 0.001）。これは体内の酸化ストレスが軽減されたことを示す。
- 血中酸素分圧の安定: 従来の透析では動脈血の酸素分圧が120 mmHg以上に上昇したが、水素を用いた電解水透析では、その値が有意に低く抑えられた。
考察: 水素吸入と水素豊富透析液を組み合わせることで、それぞれの抗酸化作用が相乗効果を生み出し、酸化ストレスの軽減と患者のQOL向上に繋がった可能性がある。
研究の限界: この治療法における副作用に関する詳細なデータや、治療効果を最大化するための最適な水素濃度については、まだ情報が不十分であり、今後のさらなる研究が必要であると述べられている。

Appendix（用語解説）

腎代替療法（RRT）: 腎臓の機能が著しく低下した際に、その働きを代替する治療法の総称。血液透析、腹膜透析、腎移植などがある。
酸化ストレス: 体内で作られる活性酸素が過剰になり、細胞を傷つけてしまう状態のこと。老化やさまざまな病気の原因の一つと考えられている。
酸化還元電位（ORP）: その物質が他の物質を酸化させる（電子を奪う）力、または還元させる（電子を与える）力を持つ度合いを示す指標。この値が低いほど、還元力、つまり抗酸化力が強いことを意味する。
血液透析濾過（HDF）: 血液透析（HD）に「濾過」のプロセスを加え、通常の透析では除去しきれない比較的大きな老廃物まで取り除くことができる、より効率的な治療法。
EQ-VAS（Euro-Qol Visual Analog Scale）: 患者が自身のその日の健康状態を、0（想像できる最悪の健康状態）から100（想像できる最高の健康状態）までの目盛りの上に印をつけることで評価する、生活の質（QOL）を測るための指標。