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研究報告

水素はシグナル伝達経路を介して術後疼痛を軽減する

Hydrogen attenuates postoperative pain through Trx1/ASK1/MMP9 signaling pathway(水素はTrx1/ASK1/MMP9シグナル伝達経路を介して術後疼痛を軽減する)
マウスの足底切開による術後疼痛モデルにおいて、水素分子の投与が脊髄内のTrx1発現を増加させ、ASK1/MMP9シグナル伝達経路を抑制することで、神経炎症を軽減し、術後痛を有意に緩和することが明らかとなった。
  1. 13分で読める詳細解説
    1. 結論
    2. 研究の背景と目的
    3. 研究方法
    4. 研究結果
    5. 論文情報
  2. 2専門家のコメント

3分で読める詳細解説

結論

水素分子は神経炎症を抑制するシグナル伝達経路(Trx1/ASK1/MMP9経路)を介して術後疼痛を軽減し、副作用が少ない治療選択肢となる可能性がある。

研究の背景と目的

術後痛は手術後の組織および神経損傷により引き起こされる一般的な健康問題である。手術後の急性痛は患者の約80%が経験し、20%以上の患者ではその後重度の慢性痛に進行する。しかし、効果的な術後痛治療法はまだ不足している。術後痛の発生メカニズムには、ミクログリアなどのグリア細胞が媒介する神経炎症が重要な役割を果たしている。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、特にMMP-9が術後痛の発生と維持に関与することが知られているが、その上流の調節機構は十分に解明されていない。本研究は、抗酸化作用を持つ水素分子(H2)が神経炎症を軽減し、Trx1/ASK1シグナル伝達経路を介して術後痛を緩和する可能性を検証することを目的とした。

研究方法

  • 対象者:雄性マウス(野生型とMMP-9ノックアウト、6〜8週齢)
  • 介入方法:
    • 足底切開手術による術後痛モデルの確立
    • 水素水(HRS)の腹腔内投与(5 mL/kg、1日2回)
    • ASK1阻害剤(NQDI-1)の髄腔内投与(5 μg/10 μl、1日1回)
    • Trx1阻害剤(PX12)の髄腔内投与(12 μg/10 μl)
  • 対照群:生理食塩水投与群
  • 評価方法:
    • von Freyテストによる機械的痛覚過敏の測定
    • ゼラチンザイモグラフィーによるMMP-9活性測定
    • ウェスタンブロット法によるタンパク質発現分析
    • 免疫組織化学および免疫蛍光染色による分子局在の評価
    • BV-2マイクログリア細胞を用いたin vitro実験

研究結果

  • 足底切開手術は脊髄内のMMP-9活性とASK1リン酸化を増加させ、術後疼痛を引き起こした
  • MMP-9ノックアウトマウスおよびASK1阻害剤投与により術後痛が軽減された
  • 水素水(HRS)投与は以下の効果を示した:
    • 脊髄およびBV-2細胞内のTrx1発現を増加させた
    • ASK1、p38、JNKのリン酸化を減少させた
    • MMP-9活性を低下させた
    • IL-1β、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を抑制した
    • 脊髄内のミクログリア活性化(IBA-1発現)を減少させた
    • 機械的痛覚過敏を有意に軽減した
  • Trx1阻害剤(PX12)の投与により、水素の保護効果が打ち消された
  • in vitro実験でも、水素はTrx1/ASK1/MMP9経路を介してマイクログリア細胞の活性化を抑制した
  • これらの結果から、水素分子はTrx1の発現を介してASK1の活性化を抑制し、その下流にあるMMP-9の活性化を抑えることで、神経炎症とそれに伴う術後疼痛を軽減する可能性が示された。MMP-9とASK1が術後疼痛緩和の標的分子となりうることが示唆される。

Appendix(用語解説)

  • Trx1(チオレドキシン1):細胞内の酸化還元状態を調節する12kDaのタンパク質で、酸化ストレスから細胞を保護する。ASK1と結合してその活性を抑制する機能を持つ。
  • ASK1(アポトーシスシグナル調節キナーゼ1):ストレス応答性のタンパク質キナーゼで、炎症やアポトーシスのシグナル伝達に関与する。JNKやp38 MAPKの活性化を通じて細胞応答を制御する。
  • MMP-9(マトリックスメタロプロテアーゼ9):細胞外マトリックスを分解する酵素で、組織リモデリングや炎症過程に関与する。神経障害性疼痛の発生に重要な役割を果たす。
  • ミクログリア:中枢神経系の主要な免疫細胞で、脳や脊髄で神経炎症反応を調節する。活性化すると炎症性サイトカインやMMP-9などを放出し、疼痛シグナル伝達を促進する。
  • 神経炎症:神経系における炎症反応で、神経細胞の過敏化や疼痛の増強を引き起こす。ミクログリアやアストロサイトの活性化、炎症性サイトカインの産生などを特徴とする。

論文情報

タイトル

Hydrogen attenuates postoperative pain through Trx1/ASK1/MMP9 signaling pathway(水素はTrx1/ASK1/MMP9シグナル伝達経路を介して術後疼痛を軽減する)

引用元

Li, J., Ruan, S., Jia, J., Li, Q., Jia, R., Wan, L., Yang, X., Teng, P., Peng, Q., Shi, Y. D., Yu, P., Pan, Y., Duan, M. L., Liu, W. T., Zhang, L., & Hu, L. (2023). Hydrogen attenuates postoperative pain through Trx1/ASK1/MMP9 signaling pathway. Journal of neuroinflammation, 20(1), 22. https://doi.org/10.1186/s12974-022-02670-0

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公開日:2025/05/25
最終更新日:2025/06/05
目次
  1. 3分で読める詳細解説
    1. 結論
    2. 研究の背景と目的
    3. 研究方法
    4. 研究結果
    5. 論文情報
  2. 専門家のコメント

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公開日:2025/05/25
最終更新日:2025/06/05
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