研究論文
The effects of inhaling hydrogen gas on macrophage polarization, fibrosis, and lung function in mice with bleomycin-induced lung injury(ブレオマイシン誘発肺障害モデルマウスにおける水素ガス吸入のマクロファージ極性、線維化、肺機能に対する効果)

水素吸入は肺障害に伴う肺線維化と呼吸機能の低下を抑制

一言まとめ

ブレオマイシン誘発肺障害モデルマウスに1日6時間、21日間の水素吸入療法を実施したところ、肺の線維化が抑制され、呼吸機能が改善し、その効果はM2マクロファージの減少とIL-6などの炎症性サイトカイン抑制と関連していた。

3分で読める詳細解説

結論

水素吸入は肺障害に伴う肺線維化と呼吸機能の低下を抑制する。

研究の背景と目的

肺障害(ALI)や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、激しい炎症により肺組織が破壊され、進行すると肺が線維化して呼吸困難が持続する深刻な病態である。特に長引く炎症が肺線維化を引き起こし、治療が困難になるため、炎症を抑える新しい治療法が求められている。本研究では、水素が炎症を抑える可能性に着目し、肺障害に伴う炎症や線維化、呼吸機能の低下を抑える効果があるかを明らかにすることを目的とした。

研究方法

  • 対象:8週齢のC57BL/6雄性マウス(21-23g)
    • 肺障害モデル:ブレオマイシン(1.0 mg/kg)の気管内投与により作成
  • 実験群の設定:
    • 生理食塩水投与・空気吸入群(SA群)
    • 生理食塩水投与・水素吸入群(SH群)
    • ブレオマイシン投与・空気吸入群(BA群)
    • ブレオマイシン投与・水素吸入群(BH群)
  • 水素投与法:3.2%水素ガス(空気中)を1日6時間、7日間または21日間吸入
  • 評価項目:
    • 呼吸生理学的検査(静的コンプライアンス、静的弾性率など)
    • 組織病理学的検査(HE染色、Elastica Masson染色)
    • 炎症マーカー(IL-6、IL-4、IL-13などのサイトカイン)
    • マクロファージ表現型(抗Iba-1抗体でマクロファージ全体を、抗CD163抗体でM2マクロファージを検出)

研究結果

  • 主な結果
    • 呼吸生理機能の改善:
      • 肺障害マウスで21日間水素吸入を行った群(BH群)は、空気吸入のみの群(BA群)と比べて、肺の静的コンプライアンスが有意に改善(BH群 0.056 vs. BA群 0.042 mL/cmH₂O、p=0.02)
      • 肺の弾性率が有意に低下(肺が柔らかくなった)した(BH群 18.8 vs. BA群 26.7 cmH₂O/mL、p=0.02)。
    • CT画像評価による肺容量:
      • BH群はBA群より空気を含む肺容量が有意に多かった(BH群 269 µL vs. BA群 193 µL、p=0.02)。
    • 組織病理学的解析(線維化評価):
      • 肺の線維化(Ashcroftスコア)が水素吸入により有意に軽減された。
    • 炎症性サイトカイン解析:
      • IL-6、IL-4、IL-13の発現が水素吸入により有意に抑制された(7日目)。
      • TGF-β1陽性細胞(線維化に関与する)が水素吸入で減少した。
    • マクロファージ極性化:
      • 線維化を促進するM2マクロファージが水素吸入により有意に減少した(BA群 3.1% vs. BH群 1.1%、p=0.008)。
  • 研究の考察と限界
  • 水素吸入は炎症を引き起こすIL-6、IL-4、IL-13の発現を抑え、それらによって誘導される線維化促進型(M2)のマクロファージを減少させたことが肺線維化を軽減した主なメカニズムと考えられた。
  • 水素吸入は肺機能の改善に貢献し、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者への臨床応用が期待される。
  • ブレオマイシンモデルは肺障害の一部しか再現できないため、臨床における多様な肺障害の病態に完全に対応できない。
  • 最適な水素吸入のタイミングや濃度、頻度などは更なる研究が必要である。

Appendix(用語解説)

  • ブレオマイシン: がん治療に用いられる抗がん剤だが、副作用として肺に炎症や線維化を引き起こすことがあるため、肺障害の研究モデルに用いられる。
  • 肺線維化: 肺が炎症後に硬くなり、呼吸が困難になる病態。
  • 肺コンプライアンス(静的コンプライアンス): 肺がどれだけ柔軟に膨らむかを示す指標。値が高いほど肺が柔らかく機能的であることを示す。
  • マクロファージ: 免疫システムの一部として病原体や細胞の破片を取り込んで分解する細胞。M1型は炎症促進型、M2型は組織修復を促すが過剰だと線維化を促進する。

論文情報

タイトル

The effects of inhaling hydrogen gas on macrophage polarization, fibrosis, and lung function in mice with bleomycin-induced lung injury(ブレオマイシン誘発肺障害モデルマウスにおける水素ガス吸入のマクロファージ極性、線維化、肺機能に対する効果)

引用元

Aokage, T., Seya, M., Hirayama, T., Nojima, T., Iketani, M., Ishikawa, M., Terasaki, Y., Taniguchi, A., Miyahara, N., Nakao, A., Ohsawa, I., & Naito, H. (2021). The effects of inhaling hydrogen gas on macrophage polarization, fibrosis, and lung function in mice with bleomycin-induced lung injury. BMC pulmonary medicine21(1), 339. https://doi.org/10.1186/s12890-021-01712-2

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