研究論文
Hydrogen Treatment Protects Mice Against Chronic Pancreatitis by Restoring Regulatory T Cells Loss(慢性膵炎に対する水素治療の保護効果:制御性T細胞(Tregs)の減少回復を介したメカニズム)

慢性膵炎に対する水素吸入の保護効果

一言まとめ

L-アルギニン投与による慢性膵炎モデルマウスに2%水素吸入を行ったところ、膵炎の炎症と線維化が軽減され、失われていたTregsが回復した。Tregsを枯渇させると水素の保護効果は消失し、水素はTregsの生存をROS抑制を通じて促進すると考えられる。

3分で読める詳細解説

結論

慢性膵炎モデルマウスで減少したTregsを回復させることで、水素吸入が膵組織の損傷と線維化を軽減する。

研究の背景と目的

慢性膵炎は、膵臓で持続する炎症と線維化が進行し、膵の構造と機能が不可逆的に破壊される疾患だ。従来より、免疫細胞の異常活性化が膵炎の発症と進行に寄与すると考えられてきた。特に、制御性T細胞(Tregs)の減少は炎症の制御不全をもたらす可能性がある。本研究では、活性酸素種(ROS)を選択的に除去する性質が報告されている水素が慢性膵炎モデルにどのような影響を与えるかを検証し、特にTregsとの関連に注目した。

研究方法

  • 対象者(モデル動物)
    • マウス(C57BL/6J、オス、18–20 g)45匹を3群(各15匹)に無作為に分割
    • 正常対照群
    • 慢性膵炎モデル群(L-アルギニン10 mg/kgを28日間腹腔内投与)
    • 慢性膵炎モデル+2%水素吸入群
  • 介入方法
    • L-アルギニン投与により慢性膵炎を誘導後、2%水素を1日1回、1時間吸入。
    • 水素の濃度:2%
      • 頻度・期間:1日1回、28日間
      • 研究内では、水素水の投与も細胞実験(in vitro)で使用。
  • 対照群の設定
    • 正常対照群:L-アルギニン非投与
    • 慢性膵炎モデル群:L-アルギニン投与のみ
  • 評価方法
    • 膵組織の重量や組織学的所見(HE染色、TUNEL染色、MPO染色、シリウスレッド染色)
    • 酸化ストレス指標(SOD活性、MDA量)
    • 血清酵素(アミラーゼ、リパーゼ)
    • 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-10)
    • T細胞亜群(CD4^+^/CD8^+^比、CD4^+^CD25^+^Foxp3^+^ Tregsの割合)をフローサイトメトリーで解析
    • in vitro 実験でのTregs生存率、ROS産生、細胞アポトーシス(Annexin V/PI染色)

研究結果

  • 主要な数値および変化量(箇条書き)
    • 膵組織の水腫・炎症・線維化スコアが、2%水素吸入群で有意に低下(p<0.05またはp<0.01)
    • 酸化ストレス指標であるSOD活性はモデル群で低下したが、水素吸入群では有意に上昇(p<0.01)
    • MDA量はモデル群で増加したが、水素吸入群で減少(p<0.01)
    • 血清アミラーゼ・リパーゼ活性も水素吸入により有意に低下(p<0.01)
    • Tregs(CD4^+^CD25^+^Foxp3^+^)はモデル群で減少していたが、水素吸入群では対照レベルに回復
    • Tregsの枯渇(CD25中和抗体投与)により、水素の膵保護効果は消失
  • 考察の要約
    • 水素の抗酸化作用は、慢性膵炎における炎症や細胞傷害を軽減するだけでなく、免疫調節作用を通じてTregsの回復を促すと考えられる。
    • Tregsが増加することで炎症性サイトカインが抑制され、膵組織の損傷と線維化進行が防がれる可能性が示唆された。
  • 研究の限界
    • 本研究はマウスモデルを用いた実験であり、ヒトの慢性膵炎への適用にはさらなる臨床研究が必要。水素の吸入量や期間の最適化、安全性評価なども今後の課題となる。

Appendix(用語解説)

  • Tregs(制御性T細胞):免疫系が過剰に働くのを抑える機能をもつT細胞の一種。自己免疫疾患や炎症の制御に重要な役割を果たす。
  • SOD(スーパーオキシドジスムターゼ):活性酸素種を分解する酵素の一種。SOD活性が高いほど酸化ストレス防御力が高いとみなされる。
  • MDA(マロンジアルデヒド):脂質過酸化反応の指標となる物質。MDA量が増加すると、細胞膜損傷などが進みやすい。
  • TUNEL染色:アポトーシス(プログラム細胞死)を起こしている細胞を検出する手法。膵組織の傷害評価に用いられる。
  • Foxp3:Tregsを特徴づける転写因子。Foxp3を高発現している細胞がTregsとして機能する。

論文情報

タイトル

Hydrogen Treatment Protects Mice Against Chronic Pancreatitis by Restoring Regulatory T Cells Loss(慢性膵炎に対する水素治療の保護効果:制御性T細胞(Tregs)の減少回復を介したメカニズム)

引用元

Chen, L., Ma, C., Bian, Y., Li, J., Wang, T., Su, L., & Lu, J. (2018). Hydrogen treatment protects mice against chronic pancreatitis by restoring regulatory T cells loss. Cellular Physiology and Biochemistry, 44(5), 2005-2016. https://doi.org/10.1159/000485906

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