一言まとめ
2%濃度の水素吸入によって、敗血症マウスの脳障害が緩和された。タンパク質のリン酸化状態を網羅的に解析すると、PI3K-Aktシグナル経路の分子群が重要な役割を果たしていた。
3分で読める詳細解説
結論
2%濃度の水素吸入は、敗血症性脳障害を緩和するうえでPI3K-Aktシグナル経路をリン酸化レベルで制御している。
研究の背景と目的
敗血症は全身性の炎症反応によって多臓器不全を引き起こしやすく、その中でも脳障害(敗血症性脳症)は重篤な後遺症や高い死亡率に直結する。本研究グループは、これまでに2%濃度の水素吸入が敗血症による脳障害を軽減することを報告してきたが、その治療メカニズムには不明点が残されていた。そこで本研究では、「タンパク質のリン酸化状態の変化」に着目して水素吸入による敗血症性脳障害軽減の仕組みを詳しく調べることを目的とした。
研究方法
研究結果
Appendix(用語解説)
- 敗血症(Sepsis):感染症が原因で全身に重度の炎症反応が生じ、臓器不全を引き起こす危険な状態。
- CLP(盲腸結紮穿刺):マウスなどで敗血症モデルを作るときに行う手術法。盲腸の一部を結紮して穿刺し、腸内容物を体腔内に漏出させる。
- リン酸化(Phosphorylation):タンパク質の特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシンなど)にリン酸基が付加される修飾。細胞シグナル伝達や機能調整に重要。
- PI3K-Aktシグナル経路:細胞増殖・生存・代謝調節など幅広い生理機能を司るシグナル伝達経路。PtenやmTORなどの分子も含め、多くの疾病のメカニズムに関わる。
- TUNELアッセイ:アポトーシス(プログラムされた細胞死)を可視化する手法。DNA断片化を染色することで、アポトーシス細胞を検出する。
- TMT-IMAC-LC-MS/MS
- TMT:サンプル間のタンパク質を同時分析するための質量タグ。
- IMAC:リン酸化ペプチドを特異的に捕捉する方法(Immobilized Metal Affinity Chromatography)。
- LC-MS/MS:液体クロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせてタンパク質を同定・定量する手法。
論文情報
タイトル
Phosphorylation-mediated PI3K-Art signalling pathway as a therapeutic mechanism in the hydrogen-induced alleviation of brain injury in septic mice(リン酸化調節によるPI3K-Aktシグナル伝達経路が水素吸入で敗血症性脳障害を緩和する治療メカニズムとなり得るマウスモデル研究)
引用元
Bai, Y., Li, L., Dong, B., Ma, W., Chen, H., & Yu, Y. (2022). Phosphorylation-mediated PI3K-Art signalling pathway as a therapeutic mechanism in the hydrogen-induced alleviation of brain injury in septic mice. Journal of cellular and molecular medicine, 26(22), 5713–5727. https://doi.org/10.1111/jcmm.17568
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