研究論文
Phosphorylation-mediated PI3K-Art signalling pathway as a therapeutic mechanism in the hydrogen-induced alleviation of brain injury in septic mice(リン酸化調節によるPI3K-Aktシグナル伝達経路が水素吸入で敗血症性脳障害を緩和する治療メカニズムとなり得るマウスモデル研究)

水素吸入で敗血症性脳障害を緩和する治療メカニズム

一言まとめ

2%濃度の水素吸入によって、敗血症マウスの脳障害が緩和された。タンパク質のリン酸化状態を網羅的に解析すると、PI3K-Aktシグナル経路の分子群が重要な役割を果たしていた。

3分で読める詳細解説

結論

2%濃度の水素吸入は、敗血症性脳障害を緩和するうえでPI3K-Aktシグナル経路をリン酸化レベルで制御している。

研究の背景と目的

敗血症は全身性の炎症反応によって多臓器不全を引き起こしやすく、その中でも脳障害(敗血症性脳症)は重篤な後遺症や高い死亡率に直結する。本研究グループは、これまでに2%濃度の水素吸入が敗血症による脳障害を軽減することを報告してきたが、その治療メカニズムには不明点が残されていた。そこで本研究では、「タンパク質のリン酸化状態の変化」に着目して水素吸入による敗血症性脳障害軽減の仕組みを詳しく調べることを目的とした。

研究方法

  • 対象者(動物モデル)
    • 8週齢のオスC57BL/6Jマウス(体重23–26g)80匹を使用。シャム手術群・シャム+水素群・敗血症群(CLP)・敗血症+水素群にランダムに分けた。
  • 介入方法(水素の濃度、吸入量、頻度など)
    • 敗血症モデルは盲腸結紮穿刺(CLP)法で作製。
    • CLP後1時間と6時間後に、濃度2%の水素吸入を1回60分間行った(1日2回)。
    • シャム群は同様の条件で手術のみを行い、シャム+水素群は水素吸入を追加。
  • 対照群の設定
    • シャム群・シャム+水素群を対照とし、敗血症モデル群との比較を行った。
  • 評価方法
    • 7日間の生存率
    • 脳組織の病理学的評価(HE染色、Nissl染色、TUNELアッセイ)
    • 脳組織の網羅的プロテオーム・ホスホプロテオーム解析(TMT-IMAC-LC-MS/MS)
    • ウエスタンブロットによるリン酸化タンパク質の検証

研究結果

  • 主要な結果(具体的数値)
    • 7日生存率
      • 敗血症群(CLP):生存率40%
      • 敗血症+水素群(CLP+H2):生存率60%(p<0.05で有意に上昇)
    • 脳組織ダメージ
      • 敗血症モデルの脳(特に海馬)の神経細胞障害が、2%水素吸入によって大幅に緩和され、TUNEL陽性細胞(アポトーシス細胞)が減少。
    • リン酸化プロテオーム解析
      • 敗血症+水素群では、敗血症単独群と比べてタンパク質リン酸化に大きな変化(約268種のリン酸化タンパク質が変動)。
      • PI3K-Aktシグナル伝達経路(特にRps6, Pten, Pkn2, mTORなどのリン酸化状態)が重要と判明。
  • 主要な結果に関連する考察
    • 敗血症による脳障害には炎症、アポトーシス、代謝異常など複合的な要因が絡むが、水素吸入はPI3K-Akt経路をリン酸化レベルで調整し、細胞保護や代謝改善に寄与している可能性がある。
    • mTORなどの分子のリン酸化を調節することで、オートファジーや細胞死の抑制に働いていると推察される。
  • 研究の限界
    • 本研究は動物モデルによるデータであり、ヒトへの臨床応用にはさらなる研究が必要。
    • 水素吸入の最適な投与スケジュールや濃度の検討も今後の課題。

Appendix(用語解説)

  • 敗血症(Sepsis):感染症が原因で全身に重度の炎症反応が生じ、臓器不全を引き起こす危険な状態。
  • CLP(盲腸結紮穿刺):マウスなどで敗血症モデルを作るときに行う手術法。盲腸の一部を結紮して穿刺し、腸内容物を体腔内に漏出させる。
  • リン酸化(Phosphorylation):タンパク質の特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシンなど)にリン酸基が付加される修飾。細胞シグナル伝達や機能調整に重要。
  • PI3K-Aktシグナル経路:細胞増殖・生存・代謝調節など幅広い生理機能を司るシグナル伝達経路。PtenやmTORなどの分子も含め、多くの疾病のメカニズムに関わる。
  • TUNELアッセイ:アポトーシス(プログラムされた細胞死)を可視化する手法。DNA断片化を染色することで、アポトーシス細胞を検出する。
  • TMT-IMAC-LC-MS/MS
    • TMT:サンプル間のタンパク質を同時分析するための質量タグ。
    • IMAC:リン酸化ペプチドを特異的に捕捉する方法(Immobilized Metal Affinity Chromatography)。
    • LC-MS/MS:液体クロマトグラフィーと質量分析計を組み合わせてタンパク質を同定・定量する手法。

論文情報

タイトル

Phosphorylation-mediated PI3K-Art signalling pathway as a therapeutic mechanism in the hydrogen-induced alleviation of brain injury in septic mice(リン酸化調節によるPI3K-Aktシグナル伝達経路が水素吸入で敗血症性脳障害を緩和する治療メカニズムとなり得るマウスモデル研究)

引用元

Bai, Y., Li, L., Dong, B., Ma, W., Chen, H., & Yu, Y. (2022). Phosphorylation-mediated PI3K-Art signalling pathway as a therapeutic mechanism in the hydrogen-induced alleviation of brain injury in septic mice. Journal of cellular and molecular medicine26(22), 5713–5727. https://doi.org/10.1111/jcmm.17568

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