《この記事の執筆者》
理学療法士から再受験して医学部を卒業。市中病院で初期研修後、現在はリハビリテーション科医師として病院勤務。医師、理学療法士の両方の視点を活かしながら、企業などのオウンドメディアを中心にエビデンスに基づいた医療・健康に関する記事を執筆。
骨折はただの「骨が折れる」事態を超え、日常生活や健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
外からの物理的圧力だけでなく、病的要因による骨折もあり得るので、予防と適切な治療が重要です。
最近の研究では、水素療法が骨の健康を守り、骨折のリスクを減少させる新たな希望として注目されています。
本記事では、水素吸入療法が骨折の予防や回復に役立つのかについて研究データをもとに解説していきます。
骨折ってどういう状態?
骨折とは文字通り「骨」が「折れた」状態です。
きっと自分や家族が経験したことがある人も多いでしょう。
健康な骨は非常に固く、骨折するためには大きな外力が必要です。
しかし、骨粗鬆症やがんの骨転移などがあると軽微な力で骨折してしまうこともあり、病的骨折と呼びます。
健康な骨に軽微な力がかかる場合でも、同じ部位に長い期間の負荷がかかると疲労骨折を起こすことがあります。
骨折の治療
治療は手術療法と手術を行わない保存療法に分けられます。
年齢や骨折した部位、どのような骨折か、骨折による合併症はないかなどにより選択されます。
骨折の原因
骨折の原因には、外傷(転倒、スポーツ、交通事故など)、慢性疲労、悪性腫瘍の転移(病的骨折)などがあります。
高齢化社会で転倒する人が増えています。
1年間のうちに転倒の経験がある人は10-25%、転倒により怪我をする人は50%程度と言われています1)。
転倒は足腰が弱くなるだけでなく、失神やめまい、熱で朦朧とするなどの要因も受けます。
骨折の予防
骨折の予防は何よりも外傷に備えることでしょう。
具体的には、危険な動作をしない、疲労に気をつけるなどが有効です。
高齢者であれば、転倒しないための体作り・環境整備も良いです。
今では医学の発展により、骨粗鬆症に対する効果の高い薬も出ています。
骨粗鬆症の早期発見・早期治療も骨折を予防するには有用です。
骨折の予防に水素吸入は有効か?
水素吸入が、直接的に骨折を減らすことができるかの研究はまだ行われていません。
以下の2つの研究は、骨に不利な状況でも水素療法により骨の量を維持することができたことを示しています。
良い骨を持つことは骨折を予防できる可能性があります。
水素水が無重力の中で骨の維持に貢献
骨の強さを維持するには適切な負荷(重力や運動)が必要です。
痩せや寝たきり・安静時間が長い人は骨が弱りやすく、骨折のリスクが高いといえます。
動物実験で足に重力がかからない状態での水素水の効果を調べた研究があります2)。
この研究では重力がかからない足では骨が減少することが予想されました。
しかし、水素水投与で大腿骨の脆弱化を軽減し、硬さも維持したと報告しています。
水素水が糖尿病ラットの骨を維持する
意外に思われる人もいるかもしれませんが、糖尿病は骨折の大きなリスクです。
高血糖による酸化ストレスなどにより骨がもろくなることに加え、神経障害で力やバランスが低下し転倒もしやすくなるからです。
水素療法が糖尿病ラットの骨にどのような恩恵があるかを調べた研究があります3)。
水素が多い生理食塩水を投与したラットでは、投与しない場合と比較して、骨の密度や体積や硬さの低下が少なかったという結果でした。
骨だけでなく血糖も改善したことにも注目です。
骨折の治療に水素吸入は有効か?
骨折の治療は手術療法か保存療法です。
しかし、手術をした瞬間に完全に骨がつくわけではないですし、保存療法の場合も時間がかかります。
骨の修復そのものを早める治療も求められているのです。
水素療法は骨芽細胞(骨を吸収する細胞)に細胞が分化するのを抑制します4)。
通常時の骨は形成(骨を作る)と吸収(骨を壊す)が同程度ですが、骨折が治癒するためには形成が上回らないといけません。
骨芽細胞を抑制する水素療法は、骨折の治療に有効な可能性があります。
また、骨折は初期段階で酸化ストレスが大きくなります5)。
水素水は酸化ストレスを軽減するので、骨折の治療への有効性も期待されています。
水素水がラットの骨折の治癒を促進
人の骨折に対して水素療法を行った研究はまだありません。
しかし、骨粗鬆症状態での骨折を再現したラットでの実験では、水素水の投与により画像上の骨折治癒スコアを改善することが分かっています5)。
また、骨の組織や生体力学(硬さやしなり)のパラメータも改善しました。
動物実験ではありますが、水素療法で骨折の治癒の速度や骨の質を高めることができた研究と言えます。
【私はこう考える】水素吸入と骨折
骨折は誰にでも起こりうる怪我です。
骨折してしまうと若い人はスポーツや学業、仕事に影響が出る可能性があります。
高齢者では、寝たきりもしくは介護が必要な状態になってしまうこともあります。
よって、まずは予防を行いつつ、適切な治療が行われる必要があります。
水素療法は骨折の予防、骨折の治療のいずれにも効果が期待されます。
他の治療に併用できる点、有害事象も報告されていない点、骨折だけでなく他の治療にもなり得る点も心強いです。
今は動物実験での研究が主ですが、今後人体への応用も考えられるでしょう。
まずは骨折しないための体作りや環境の調整を行いながら、水素療法も選択肢に上がるようになるとよいですね。
参考文献
- Aoyagi K, Ross PD,et al. Falls among community-dwelling elderly in Japan. J Bone Miner Res. 1998 Sep;13(9):1468-74.
- Sun Y, Shuang F, et al. Treatment of hydrogen molecule abates oxidative stress and alleviates bone loss induced by modeled microgravity in rats. Osteoporos Int. 2013 Mar;24(3):969-78.
- Guo J, Dong W, et al. Hydrogen-rich saline prevents bone loss in diabetic rats induced by streptozotocin. Int Orthop. 2017 Oct;41(10):2119-2128.
- Liu Y, Wang DL,et al. Hydrogen inhibits the osteoclastogenesis of mouse bone marrow mononuclear cells. Mater Sci Eng C Mater Biol Appl. 2020 May;110:110640.
- Guo J, Tian S,et al. Hydrogen saline water accelerates fracture healing by suppressing autophagy in ovariectomized rats. Front Endocrinol (Lausanne). 2022 Sep 2;13:962303.
- Tarnava, A. (2021). Supersaturated Hydrogen-Rich Water Hydrotherapy for Recovery of Acute Injury to the Proximal Phalanges on the 5th Toe: A Case Report. Journal of Science and Medicine; 3(1).