《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
近年、水素ガスには私たちの体に良い効果をもたらすことが明らかになっています。
心停止した患者さんへの水素吸入療法は厚生労働省から先進医療Bにも指定されていた過去もあり、新たな可能性を秘める治療法の一つと考えられています。
特に水素ガスには酸化ストレスを取り除く働きがあるため病気を改善する効果があるのではないかと期待されていますが、糖尿病もその一つです。
今回は、糖尿病と水素ガスの関係について詳しく解説します。
水素ガスは糖尿病の引き金「酸化ストレス」を抑える
水素ガスには、体内で発生した活性酸素を取り除く働きがあります。
活性酸素とは、通常よりも活性化した状態になる酸素こと。
私たちが呼吸で取り入れた酸素の数%は活性酸素に変化すると考えられています1)。
活性酸素は細菌やウイルスなどの病原体を攻撃してくれるといった有益な働きがある一方で、酸化ストレスを引き起こすします。
酸化ストレスは老化や生活習慣病の引き金となることが知られており、糖尿病も酸化ストレスが発症や重症化に関係していると考えられているのです。
活性酸素が糖尿病の引き金となる理由について詳しく見てみましょう。
すい臓にダメージを与える
糖尿病は、血糖値が高い状態が続く病気です。血糖値は食事をすると上昇します。
しかし、ずっと血糖値が高い状態になっているわけではなく、私たちの体にはすい臓のβ細胞から「インスリン」というホルモンが分泌されて元の状態に戻る仕組みが備わっています。
このインスリンの分泌量が減ったり、働きが悪くなったりすることで血糖値を下げることでできなくなる病気が糖尿病です。
インスリンの分泌量や働きに異常が生じる原因はさまざまありますが、活性酸素によってすい臓のβ細胞がダメージを受けることも原因の一つと考えられています2)。
脳から糖尿病を引き起こす
近年のとある研究では、脳に酸化ストレスが蓄積すると血糖値の調節を担う視床下部という部位の神経細胞が減少していくことが分かりました。
その結果、インスリンの働きが低下して糖尿病を引き起こすこと、酸化ストレスを抑えると糖尿病を予防できることが明らかとなっています3)。
この研究結果から、脳の酸化ストレス軽減が糖尿病の新たな予防法や治療法に応用できるのではないかと期待されています。
ミトコンドリアの機能を低下させる
私たちは生きていくために必要なエネルギーの多くを血糖から作り出しています。
血糖をエネルギーに変えるのは、細胞内にあるミトコンドリアと呼ばれる小器官です。
ミトコンドリアの機能が低下すると血糖が消費されにくくなり、血糖値を下げるインスリンを分泌するエネルギーも不足していきます。
近年の研究では、ミトコンドリアの機能が低下すると糖尿病になりやすくなることが明らかになっています4)。
ミトコンドリアは活性酸素によるダメージを受けやすく、ダメージを受けたミトコンドリアはより多くの活性酸素を放出するようになります。
そしてミトコンドリアの機能がどんどん低下していくという悪循環に陥り、それだけ糖尿病になるリスクが高まると考えられています。
水素吸入療法は糖尿病の合併症も予防する
糖尿病は早期段階では自覚症状がほとんどありません。
健康診断などで血液検査を受けて血糖値が高いことを指摘され、初めて診断を受けるケースがほとんどです。
しかし、血糖値が高い状態が続くと血管の壁にダメージを与え続け、長い時間をかけて動脈硬化を引き起こします
動脈硬化は心筋梗塞や脳卒中など命に関わる病気の引き金になるばかりでなく、網膜症、腎症、神経障害などの合併症の原因となります。
近年の研究により水素水(水素ガスを溶かした水)には動脈硬化の進行を促す悪玉コレステロールを減少させる効果があることも明らかになりました5)。
そのため、水素吸入療法(水素ガス)は糖尿病の合併症を予防する効果もあると考えられるのです。
水素吸入療法は糖尿病の発症や重症化予防に役立つ
水素吸入療法の人体への効果はまだまだ不明な点も多い段階ですが、近年さまざまな研究により私たちの健康や美容に有益な効果をもたらす可能性が示唆されています。
特に糖尿病は発症や重症化に酸化ストレスが大きく関わっており、活性酸素を取り除くことができる水素ガスは発症や重症化を予防するのに役立つと考えられているのです。
もちろん、水素ガスの吸入だけで糖尿病の治療ができるわけではありませんが、今後の糖尿病治療への応用が期待されています。
【私はこう考える】水素吸入療法と糖尿病
水素ガスの吸入は私たちの体に悪影響を及ぼす活性酸素を除去してくれる効果があります。
活性酸素が増えることで引き起こされる健康や美容の問題はたくさんありますが、糖尿病はすい臓へのダメージなど活性酸素の影響を受けやすい病気の一つです。
糖尿病は環境的要因、遺伝的要因などが重なって引き起こされる病気であるため、活性酸素だけが原因となることはありません。
しかし、水素ガスの吸入で活性酸素を除去することが発症や重症化の予防に役立つ可能性は大いにあるでしょう。
ただし、糖尿病や糖尿病予備軍と診断を受けている方は医師の指示に従った食事・運動療法、薬物療法などを行うのが大前提です。
酸素ガス吸入を取り入れる場合でも適切な予防や治療は必ず継続してください。
参考文献
- 厚生労働省「活性酸素と酸化ストレス」
- Diabetes AUGUST 21 2020「VMAT2 Safeguards β-Cells Against Dopamine Cytotoxicity Under High-Fat Diet–Induced Stress」https://diabetesjournals.org/diabetes/article/69/11/2377/39677/VMAT2-Safeguards-Cells-Against-Dopamine
- Cell Rep. 2017 Feb 21;18(8):2030-2044「Nrf2 Improves Leptin and Insulin Resistance Provoked by Hypothalamic Oxidative Stress」https://www.cell.com/cell-reports/fulltext/S2211-1247(17)30134-1?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS2211124717301341%3Fshowall%3Dtrue
- 糖尿病ネットワーク「膵β細胞のミトコンドリア機能低下が糖尿病の原因」https://dm-net.co.jp/calendar/2014/021398.php
- Nutrition Research Volume 28, Issue 3, March 2008, Pages 137-143「Supplementation of hydrogen-rich water improves lipid and glucose metabolism in patients with type 2 diabetes or impaired glucose tolerance」https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0271531708000237?via%3Dihub