《この記事の執筆者》
2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
日本では、10組に1組のカップルが不妊であると言われており、晩婚化などの影響もあって妊娠するための妊活をする人が増えています。
妊娠しない理由としては実に様々な理由がありますが、近年では活性酸素も要因と1つであるとの考えが出てきています。
そこで今回は活性酸素を除去する水素吸入療法が妊活に役立つのかについて、これまでに報告されている研究をもとに考察していきます。
妊活とは?
妊活とは、妊娠しやすい体質づくりのために生活習慣を整えたり、基礎体温を測定したりするなど妊娠に向けての行動のことを指します。
妊活は女性がするものと考える方もいるかも知れません。しかし、妊活は妊娠を望む夫婦2人で同時に行うものです。
妊活にはさまざまな方法がありますが、具体的にはどのようなことをするのでしょうか?詳しく見てみましょう。
妊活が必要な理由とは
現在、10組に1組のカップルは不妊であるとされています。
また、不妊でない場合でも1度の性周期で妊娠できる確率は20代で30%前後です。年齢が上がるごとに妊娠できる確率は低くなります1)。
そのため、妊娠の希望を叶えるため、妊娠に対する正しい知識をつけて生活習慣を見直す「妊活」に取り組む方が増えているのです。
妊活で取り組むべきこととは?
妊活のやり方は多岐に渡りますが、具体的には以下のようなことが推奨されています。
- 生活習慣の見直し
- 妊娠の知識習得
- 基礎体温測定による性周期と妊娠しやすいタイミングの把握
- 不妊検査、治療※
※妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交しているものの、1年以上妊娠しない場合は不妊が疑われます1)
妊活は非常にデリケートな問題であり、長年不妊治療を続けていても妊娠に至らないケースは決して少なくありません。そのため、不妊の原因、予防方法などの研究が今も続けられています。
さまざまな研究の結果、体内の活性酸素も不妊の原因になる可能性が示唆されています。
水素吸入は妊活に効果はある?
妊娠を叶えるには排卵のタイミングで性交をすることも大切ですが、卵子や精子が健康であることも重要な要因となります。
近年の研究では、活性酸素が卵子や精子に影響を与え、妊娠が成立しにくい要因になることを示唆する結果が報告されています。
妊活に対する水素吸入の効果について検討した研究は現在のところ行われていませんが、水素吸入は活性酸素を除去する効果があるため妊活にも何らかの効果が期待できる可能性はあるでしょう。
妊活と活性酸素の関する研究結果について詳しく見てみましょう。
活性酸素は卵子の成熟を妨げる
2007年に、成熟前のマウスの卵子を用いて酸化ストレスがどのような影響を与えるか検討する研究結果が報告されました2)。
この研究では、成熟前の卵子に酸化ストレスを加えた群、酸化ストレスと共に抗酸化作用を持つメラトニンという物質を加えた群で卵子の状態を比較検討しました。
その結果、酸化ストレスのみ加えたマウスの卵子はメラトニンも加えた卵子よりも成熟が有意に阻害されたことが明らかになっています。
この研究から、活性酸素は卵子の成熟を妨げて妊娠しにくい状態に導く働きを持つことが示唆されました。
また、抗酸化作用を持つ物質は卵子を酸化ストレスから守る働きを発揮したため、活性酸素を除去できる水素吸入も卵子によい効果をもたらす可能性があります。
動物実験の段階のため確実な効果があるとは言えませんが、今後のさらなる解明に期待します。
活性酸素は精子の形成にも影響を与える
2021年に、精子への活性酸素の影響を検討した研究結果が報告されました3)。
この研究では、遺伝子を操作してミトコンドリアという細胞内小器官の機能が低下するマウスを用意し、精子形成の状態を検討しました。
その結果、若いときは正常に精子を形成できていたものの、加齢とともに精子が作られにくくなって不妊になったことが明らかにされています。
結果からは、ミトコンドリアの機能低下が精子の形成に異常を及ぼしたことが示唆されました。
ミトコンドリアはエネルギーを作り出す小器官であり、エネルギーを作る過程で活性酸素を産生します。ミトコンドリアは活性酸素にダメージを受けやすい小器官です。
年齢を重ねても正常に精子を形成するにはミトコンドリアの機能を維持することが必要であり、そのためには過剰な活性酸素を除去してミトコンドリアを守ることも大切です。
水素吸入は活性酸素を除去する効果があるため、正常な精子の形成に役立つ可能性があるかも知れません。
今後のさらなる研究が望まれます。
【私はこう考える】水素吸入と妊活
妊活は妊娠に向けて夫婦で取り組むさまざまな行動のことを指します。
晩婚化の影響もあり、不妊に悩む夫婦が増えている中、妊活に取り組む人も以前より多くなっているでしょう。
今回ご紹介した2つの研究では活性酸素が卵子の成熟や精子の形成に影響を与えている可能性が示唆されました。
妊活の方法は多岐に渡りますが、活性酸素の除去が妊娠しやすい体作りにつながる可能性が考えられます。
水素吸入は体への負担なく活性酸素を除去することができます。そのため、妊活に役立つ可能性があると言えます。
また、水素吸入は血行改善や生活習慣病の予防など妊活にうれしい効果がたくさん。
妊活の一つの手段として取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 公益社団法人日本産科婦人科学会『不妊症』
- Tamura, H., Takasaki, A., Miwa, I., Taniguchi, K., Maekawa, R., Asada, H., Taketani, T., Matsuoka, A., Yamagata, Y., Shimamura, K., Morioka, H., Ishikawa, H., Reiter, R. J., & Sugino, N. (2008). Oxidative stress impairs oocyte quality and melatonin protects oocytes from free radical damage and improves fertilization rate. Journal of pineal research, 44(3), 280–287. https://doi.org/10.1111/j.1600-079X.2007.00524.x
- Morimoto, H., Yamamoto, T., Miyazaki, T., Ogonuki, N., Ogura, A., Tanaka, T., Kanatsu-Shinohara, M., Yabe-Nishimura, C., Zhang, H., Pommier, Y., Trumpp, A., & Shinohara, T. (2021). An interplay of NOX1-derived ROS and oxygen determines the spermatogonial stem cell self-renewal efficiency under hypoxia. Genes & development, 35(3-4), 250–260. https://doi.org/10.1101/gad.339903.120