胸やけや酸っぱい液の逆流に悩まされていませんか?
それは食道裂孔ヘルニアが原因かもしれません。日本人の約半数が指摘されるこの疾患は、加齢とともに増加する一般的な病態です。通常は薬物療法や生活改善が中心ですが、十分な効果が得られないケースも少なくありません。
本記事では、食道裂孔ヘルニアの基本情報に加えて、新しい選択肢として注目される水素吸入療法の可能性を解説します。
酸化ストレスや炎症を軽減する水素の力が、胸やけなどの不快な症状を緩和する仕組みとは?水素吸入が食道裂孔ヘルニアに効く科学的根拠と今後の展望を紹介します。
水素吸入が食道裂孔ヘルニアの症状緩和に寄与する可能性は示唆されるが、現時点では動物実験や水素水の研究が中心。直接的なヒト臨床試験は不足しており、さらなる検証が求められる段階。
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《この記事の執筆者》

国立大学医学部卒。卒後は消化器内科医として様々な市中病院で研鑽を積み、現在に至る。専門は早期がんの内視鏡治療、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の診療、消化器がんの化学療法。消化器病学会専門医,消化器内視鏡学会専門医,総合内科専門医を取得。
食道裂孔ヘルニアってどんな病気?

食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜にある食道の通り道(食道裂孔)から胃の一部が胸のほうに飛び出してしまう病態を指します。
主に以下の2つのタイプがあります。
- 滑脱型ヘルニア
胃と食道のつなぎ目(噴門部)が上へずれるタイプ。食道裂孔ヘルニアの多くはこのタイプです。 - 傍食道型ヘルニア
胃の一部が食道の横から飛び出すタイプ。頻度は低いですが、嵌頓(かんとん:はまり込んだ状態)を起こすと、血流が悪くなるリスクがあります。
日本においては非常に頻度の高い病気であり、加齢とともに頻度が高まります。日本人では内視鏡検査で約半数の方に指摘されるとの報告もあります。1)
食道裂孔ヘルニアの主な原因
原因としては、加齢による横隔膜まわりの筋力低下や肥満、妊娠、慢性的な便秘、重い荷物を持つ習慣など、腹圧が長期間かかる生活習慣が挙げられます。
食道裂孔ヘルニアの主な症状
小さな滑脱型ヘルニアの場合、症状がまったく出ないことも珍しくありません。
しかし、ヘルニアが原因で胃酸が逆流しやすくなると、いわゆる「逆流性食道炎」を引き起こし、胸やけや酸っぱい液がこみ上げる感じ、のどの違和感、慢性的な咳などが出現することがあります。
ヘルニアが大きい場合には、食べ物が通りにくくなったり、嘔吐や胸の痛み、呼吸困難など重い症状を伴うケースもあります。
食道裂孔ヘルニアの一般的な治療法
症状がない場合は、定期的に様子を見る経過観察で済むことが多いです。
症状がある場合には、まず生活習慣の改善と、胃酸分泌を抑える薬物療法が行われます。
食後すぐに横にならない、腹圧を高めない姿勢を心がける、体重をコントロールするなどの生活改善が重要です。
ただし、薬ではヘルニア自体を小さくすることは難しく、傍食道型や巨大な滑脱型で症状のコントロールが困難な場合には、腹腔鏡手術によって胃を本来の位置に戻し、逆流を防ぐ処置を行うことがあります。
水素吸入療法は食道裂孔ヘルニアに効く?

水素吸入療法は、水素ガスが持つとされる「選択的抗酸化作用」および「抗炎症作用」に着目した新しい補助的治療法です。
近年の研究では、さまざまな疾患の炎症や酸化ストレスを軽減する可能性が指摘されており、食道裂孔ヘルニアに伴う逆流性食道炎などにも応用の期待が寄せられています。2)
現在、水素吸入と食道裂孔ヘルニアの関係を直接的に調べた研究はまだ報告されていません。
したがって、ここでは、過去の研究論文から食道裂孔ヘルニアへの水素吸入療法の有効性が期待される点について考察します。
有効性が期待される点1:過剰な活性酸素の選択的除去
食道裂孔ヘルニアによって胃酸が食道に逆流すると、食道粘膜に強い刺激が及び、活性酸素(フリーラジカル)の産生や抗酸化酵素の低下が起こりやすくなります。3)
このような状態が慢性的に続くと、食道粘膜の傷害や炎症が進み、胸やけや痛みだけでなく、将来的なバレット食道やがんのリスクにも影響するとされています。3)
一方、水素ガスは体内で過剰に発生したヒドロキシルラジカルなどの毒性の高い活性酸素と反応しやすい一方で、生体機能に必要な分子(過酸化水素など)にはほとんど反応しない「選択的抗酸化作用」があると報告されています。2)
これにより、食道裂孔ヘルニアによる過剰な酸化ストレスによる食道粘膜の傷害や炎症が抑えられる可能性があると考えられます。
有効性が期待される点2:逆流性食道炎の症状改善
水素には、好中球などの免疫細胞が放出する炎症性物質の増幅を抑える作用や、細胞の自然死(アポトーシス)を緩和する働きも示唆されています。4)
これらの作用によって、逆流性食道炎など消化管の炎症を抑え、粘膜の修復・防御機能を助ける可能性があります。
実際、逆流性食道炎患者を対象としたランダム化比較試験では、標準治療薬に加えて水素水を3か月間飲用した群で、胸やけや酸っぱい液の逆流などの症状が統計的に有意に改善し、血中の酸化ストレス指標も低下したと報告されています。5)
この研究では、症状緩和と酸化ストレス低減の程度には相関が見られ、酸化ストレスや炎症の軽減が症状の改善に貢献した可能性が示唆されました。
まとめ:水素吸入と食道裂孔ヘルニアの現状と課題
食道裂孔ヘルニアとそれに伴う逆流性食道炎は、多くの人が悩む病気です。
水素吸入療法は、これらの症状を改善する新しい治療法として、大きな可能性を秘めています。
ただし、現時点では、水素吸入の効果はまだ研究段階です。 食道裂孔ヘルニアそのものに対する水素吸入の臨床試験はまだ報告されておらず、今後の検証が必要でしょう。
しかし、逆流性食道炎の患者さんに対する水素水の効果は有望な結果が出ています。
今後さらに検証が進み、有効性が明らかになっていけば、水素吸入は既存の治療法(生活習慣の改善、薬物療法、手術)を補完する、新しい選択肢となるかもしれません。
現状の治療で十分な効果が得られない場合や、副作用が気になる場合には、専門医に相談した上で水素吸入や水素水の導入も検討してみる価値があるかもしれません。
参考文献
- 食道裂孔ヘルニア・逆流性食道炎に対する手術が4年連続日本最多になりました|社会医療法人景岳会南大阪病院
- Ohsawa, I., Ishikawa, M., Takahashi, K., Watanabe, M., Nishimaki, K., Yamagata, K., Katsura, K., Katayama, Y., Asoh, S., & Ohta, S. (2007). Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nature medicine, 13(6), 688–694. https://doi.org/10.1038/nm1577
- Jiménez, P., Piazuelo, E., Sánchez, M. T., Ortego, J., Soteras, F., & Lanas, A. (2005). Free radicals and antioxidant systems in reflux esophagitis and Barrett’s esophagus. World journal of gastroenterology, 11(18), 2697–2703. https://doi.org/10.3748/wjg.v11.i18.26
- Tian, Y., Zhang, Y., Wang, Y., Chen, Y., Fan, W., Zhou, J., Qiao, J., & Wei, Y. (2021). Hydrogen, a Novel Therapeutic Molecule, Regulates Oxidative Stress, Inflammation, and Apoptosis. Frontiers in physiology, 12, 789507. https://doi.org/10.3389/fphys.2021.789507
- Franceschelli, S., Gatta, D. M. P., Pesce, M., Ferrone, A., Di Martino, G., Di Nicola, M., De Lutiis, M. A., Vitacolonna, E., Patruno, A., Grilli, A., Felaco, M., & Speranza, L. (2018). Modulation of the oxidative plasmatic state in gastroesophageal reflux disease with the addition of rich water molecular hydrogen: A new biological vision. Journal of cellular and molecular medicine, 22(5), 2750–2759. https://doi.org/10.1111/jcmm.13569
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