消化器系
【医師監修】水素吸入がベーチェット病の症状を改善?!研究をもとに解説

【医師監修】水素吸入がベーチェット病の症状を改善?!研究をもとに解説

ベーチェット病は、口内炎や皮膚炎、眼の炎症などを引き起こす慢性疾患。

再発を繰り返し、治療も長期にわたるため、症状に悩まされている方も多いのではないでしょうか?

近年、この病気に対して「水素」の可能性が注目されています。

本記事では、ベーチェット病の原因や症状などの基礎知識から、水素吸入がどのように役立つ可能性があるのか詳しく解説していきます。

すいかつねっとのエビデンス評価
3.0

水素の抗酸化・抗炎症作用により、ベーチェット病の病態改善が期待される。小規模試験や症例報告では一定の有効性が示唆されるが、水素吸入としての大規模な臨床エビデンスは不足。

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《この記事の監修者》

ベーチェット病とは?

ベーチェット病とは?

ベーチェット病は、慢性の全身性炎症性疾患であり、1937年にトルコの皮膚科医であるフルス・ベーチェット博士によって初めて報告された病気です。

難病(指定難病56)にも指定されており、日本には約2万人の患者さんがいると推定されています。1)

男女ともに20~40代で発症しやすいとされますが、男性の方が重症化しやすいとも報告されています。

ベーチェット病の主な原因

ベーチェット病の原因は、まだ完全には解明されていません。

しかし、遺伝的な要因(特にHLA-B51という遺伝子の型を持っていること)と、環境的な要因(細菌やウイルス感染など)が複雑に絡み合って、体の免疫システムに異常が生じ、発症するのではないかと考えられています。

特に好中球という免疫細胞の活性化(活性酸素産生や炎症物質の放出)は、組織のダメージや血管炎を引き起こす主要な要因とされています。

ベーチェット病の主な症状

ベーチェット病の代表的な症状には、以下のようなものがあります。

ベーチェット病の主な症状
  • 口内炎(口腔内アフタ)
    通常の口内炎と比べて痛みが強い、再発を繰り返す
  • 皮膚症状
    結節性紅斑(赤みや痛みを伴う皮膚のはれ)やニキビ様の発疹
  • 外陰部潰瘍
    外陰部や肛門周囲などにも潰瘍が生じ、痛みやただれを伴う
  • 眼症状(ぶどう膜炎)
    ぶどう膜炎が起こると、充血や視力低下をきたす
  • 特殊病変
    血管型では血栓や動脈瘤など、腸管型では消化管潰瘍、中枢神経型では神経症状が現れる

ベーチェット病の一般的な治療法

残念ながら、現在のところベーチェット病を完全に治す治療法はありません。

そのため、治療の目的は、症状を和らげ、炎症を抑え、再発を防ぐことです。

一般的に、以下のような治療法が用いられます。

ベーチェット病の一般的な治療法
  • コルヒチン: 白血球の働きを抑え、炎症を鎮める効果がある。再発予防に広く用いられ、約60%の患者さんで発作の頻度が減少すると報告される。
  • 副腎皮質ステロイド: 炎症を抑える効果が強い薬だが、副作用もあるため、症状が重い場合に短期間使用することがある。
  • 免疫抑制剤: 免疫システムの働きを抑える薬で、症状が重い場合や、ステロイドの効果が不十分な場合に使用される。
  • 生物学的製剤(TNFα阻害薬など): 炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の働きを抑える薬で、特に難治性の眼症状や、血管、神経、消化管の症状を伴う重症例に有効。

これらの薬物療法に加えて、症状に応じて、痛み止めや外用薬(塗り薬)などが用いられます。

また、これらの治療薬は効果が高い一方で、副作用や長期使用によるリスク管理が必要になります。そのため、症状の重症度や患者さんの生活環境に合わせた組み合わせや投与量の調整が行われます。

水素吸入に期待されるベーチェット病への可能性

ベーチェット病を含む慢性炎症や自己免疫反応が関わる病気に対しては、近年「水素」への注目が高まっています。

水素は生体内で活性酸素や炎症反応を抑える作用があるとされ、実際に関節リウマチや乾癬などの患者さんで有効性を示した小規模研究も報告されています。

ベーチェット病に対しての直接的な大規模臨床試験はまだ見当たりませんが、2024年に中国から発表された症例報告では、難治性のベーチェット病患者に対し、水素水の経口摂取で口内炎や皮膚病変が改善したことが示されています。2)

水素吸入を用いた大規模な研究はまだ十分ではありませんが、いくつかのポイントから、ベーチェット病への応用が期待されています。

有効性が期待される点1:酸化ストレスを抑える可能性

ベーチェット病の活動期には、好中球が多量の活性酸素を放出して組織を傷つけることがわかっています。3)

水素は、ヒドロキシルラジカルや過酸化亜硝酸などの有害な活性酸素を選択的に消去する能力があると報告されています。4)

関節リウマチ患者を対象とした小規模試験では、水素水を数週間飲用することで酸化ストレスマーカーが減少し、症状指標も改善したというデータがあります。5)

このように「酸化ストレスを抑える」ことは、組織障害や血管炎のリスク軽減につながる可能性があります。

ベーチェット病で問題となる好中球由来の活性酸素を抑えられれば、粘膜潰瘍などの炎症症状を和らげる効果が期待できるかもしれません。

有効性が期待される点2:炎症や免疫バランスを調節する可能性

水素は炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の産生を抑制したり、体内の免疫バランス(Th1/Th2/制御性T細胞)を改善したりする作用が示唆されています。4)

ベーチェット病ではサイトカインが過剰に産生され、再燃と寛解を繰り返す病態が引き起こされます。

水素がこれらの炎症メカニズムに働きかけることで、症状の頻度や強さを抑える可能性があります。

実際に乾癬(かんせん)という皮膚炎症の代表的疾患では、水素を含むお風呂で入浴する「水素浴」を8週間続けた患者群で皮疹や生活の質が改善したという報告があります。6)

このような抗炎症効果は、ベーチェット病の皮膚症状にも応用できる可能性が指摘されています。

有効性が期待される点3:好中球の“暴走”を抑制する可能性(NETs抑制)

好中球はベーチェット病の病態に深く関与しており、特にNETs(好中球が放出するDNA-タンパク質の網状構造)が血管障害や血栓を引き起こす要因になることがわかってきました。7)

近年の研究では、水素が好中球由来のNETs形成を強力に阻害する可能性が示されており、他の抗酸化物質では十分に抑えられないレベルでNETsを抑制した例も報告されています。8)

こうした好中球の過剰な活性・凝集を抑えることで、ベーチェット病で問題となる血管炎や血栓合併症のリスクを低減できる可能性があります。

まとめ:水素吸入とベーチェット病の現状と課題

ベーチェット病は、原因が未解明であり、再発と寛解を繰り返す慢性的な炎症疾患です。免疫抑制薬や生物学的製剤など、既にエビデンスの整った薬物療法が優先的に行われますが、それでも難治性の症状や長期の副作用管理に苦労する患者さんも少なくありません。

一方、水素吸入療法をはじめとした「水素」を用いる治療は、酸化ストレスや炎症を抑える効果が期待される点や、安全性が比較的高いとされる点などから、補助的な選択肢として注目されています。実際、ベーチェット病患者に対する症例報告や、他の自己免疫・炎症疾患での小規模臨床試験では一定の改善が示唆されています。

ただし、ベーチェット病での水素吸入療法に関しては、大規模なランダム化比較試験(RCT)が存在しないため、現時点では「確立した治療法」とは言えません。

今後、より質の高い研究によって有効性を検証し、投与量や治療期間などの標準化が進めば、ベーチェット病治療の補助療法として位置づけられる可能性は十分にあるでしょう。

もし水素吸入の導入を検討する場合には、主治医の指示のもと、既存の標準治療を中断せずに併用することを前提としてください。

参考文献
  1. ベーチェット病(指定難病56)|難病情報センター
  2. Guan, C., Zhang, Z., Wang, L., Chen, S. A., & Luo, X. (2024). Successful treatment of Behçet’s disease ulcers and skin lesions with hydrogen water. International journal of dermatology, 63(3), 379–380. https://doi.org/10.1111/ijd.16958
  3. ベーチェット病|順天堂大学医学部附属順天堂医院
  4. Yang, M., Dong, Y., He, Q., Zhu, P., Zhuang, Q., Shen, J., Zhang, X., & Zhao, M. (2020). Hydrogen: A Novel Option in Human Disease Treatment. Oxidative medicine and cellular longevity, 2020, 8384742. https://doi.org/10.1155/2020/8384742
  5. Ishibashi, T., Sato, B., Rikitake, M., Seo, T., Kurokawa, R., Hara, Y., Naritomi, Y., Hara, H., & Nagao, T. (2012). Consumption of water containing a high concentration of molecular hydrogen reduces oxidative stress and disease activity in patients with rheumatoid arthritis: an open-label pilot study. Medical gas research, 2(1), 27. https://doi.org/10.1186/2045-9912-2-27
  6. Zhu, Q., Wu, Y., Li, Y., Chen, Z., Wang, L., Xiong, H., Dai, E., Wu, J., Fan, B., Ping, L., & Luo, X. (2018). Positive effects of hydrogen-water bathing in patients of psoriasis and parapsoriasis en plaques. Scientific reports, 8(1), 8051. https://doi.org/10.1038/s41598-018-26388-3
  7. Le Joncour, A., Martos, R., Loyau, S., Lelay, N., Dossier, A., Cazes, A., Fouret, P., Domont, F., Papo, T., Jandrot-Perrus, M., Bouton, M. C., Cacoub, P., Ajzenberg, N., Saadoun, D., & Boulaftali, Y. (2019). Critical role of neutrophil extracellular traps (NETs) in patients with Behcet’s disease. Annals of the rheumatic diseases, 78(9), 1274–1282. https://doi.org/10.1136/annrheumdis-2018-214335
  8. Shirakawa, K., Kobayashi, E., Ichihara, G., Kitakata, H., Katsumata, Y., Sugai, K., Hakamata, Y., & Sano, M. (2022). H2 Inhibits the Formation of Neutrophil Extracellular Traps. JACC. Basic to translational science, 7(2), 146–161. https://doi.org/10.1016/j.jacbts.2021.11.005

このコラム記事は、一般的な医学的情報および最新の研究動向をもとに作成しておりますが、読者の方の個別の症状や体質などを考慮したものではありません。また、医学的アドバイス、診断、治療に代わるものではなく、特定の製品や治療法の効果・効能を保証、証明するものでもありません。健康上の問題がある場合は、自己判断せずに医療機関を受診し、医師などの専門家に必ずご相談ください。本コラム記事の情報をもとに被ったいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。

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