《この記事の執筆者》

2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
唾液腺がんは早期発見が難しく、進行すると生存率が低下する難治性のがんです。
新たな予防法や治療法の確立が求められる中、水素吸入療法の効果に注目が集まっています。
水素の持つ抗酸化力が、唾液腺がんの発症を抑え、放射線治療の副作用を軽減する可能性が研究で示唆されているのです。
今回は、唾液腺がんの特徴と、水素吸入療法の可能性について詳しく解説します。
唾液腺がんってどんな病気?

唾液腺がんとは、唾液を作る器官である唾液腺に発生するがんのことです。
唾液腺は、耳下腺・顎下腺・舌下腺という3つの大きなものと、小さな唾液腺に分類されます。
唾液腺がんのほとんどは舌下腺と顎下腺にできますが、発症頻度は高くありません。
まずは、唾液腺がんの特徴について詳しく見てみましょう。
唾液腺がんの原因
唾液腺がんの明確な発症メカニズムは解明されていません。
しかし、以下のような要因があると発症リスクが高まるとの報告があります。
- 喫煙習慣
- 放射線治療による被ばく
- 一部の農薬などに使用される物質
唾液腺がんの症状
唾液腺がんは組織のタイプが20種類以上あり、タイプによって進行の速さなどが異なります。
一般的に、唾液腺がんは早期の段階では目立った症状はなく、顎、舌、顎の下などにしこりが形成されます。
進行した場合
しかし、進行すると痛みやしびれなどの症状を伴うようになります。
顔面神経など周囲を走行する神経にダメージが生じると顔の筋肉が動かしにくくなるといった症状を引き起こします。
さらに、唾液腺がんは進行すると首周りのリンパ節に転移してリンパ節の腫れが生じるようになります。
肺、肝臓、骨などの離れた部位に転移するケースも少なくありません。
唾液腺がんの標準的な治療方法
唾液腺がんの治療方法は、がんの進行度や全身の状態によって異なります。
転移などがない場合には基本的にがんを取り除くための手術が必要です。
がんのタイプによっては放射線治療に効果がある場合もありますが治療の第一選択は手術となっています。
また、悪性度が高いタイプの場合には手術をした後に再発を予防する目的で放射線治療を行うことがあります。
唾液腺がんは治りにくい?
唾液腺がんは早期段階で発見できた場合、5年生存率は90%を超えているため予後はよいと言えます。
しかし、上述したように唾液腺がんは早期段階では目立った自覚症状がないケースも多く、転移があるような進行した状態で発見された場合の5年生存率は20~40%程度です1)。
水素吸入療法は唾液腺がんの予防や治療に役立つ?
唾液腺がんは早期段階で自覚症状が出にくいため、進行した状態で初めて診断されるケースも少なくありません。
進行すると5年生存率は低くなり、現在でも1年間で約600人が唾液腺がんで命を落としています2)。
そのため、唾液腺がんの新たな予防と治療方法を見出すために多くの研究が行われています。
唾液腺がんに対する水素吸入療法の効果を検討した研究結果は現在のところ報告されていません。
しかし、水素吸入療法にも備わっている抗酸化力が唾液腺がんの予防や治療に役立つ可能性を示唆する報告がされています。
詳しい内容を見てみましょう。
抗酸化作用は唾液腺がんの予防になる?
2007年に、抗酸化作用が唾液腺がんの予防につながる可能性を示唆する研究結果が報告されました3)。
この研究では、唾液腺がん患者66人を対象に、血管新生を促すタンパク質である「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」の発現量と予後の関連が検討されました。
その結果、VEGFが多いほど唾液腺がんの細胞が増殖しやすく、生存率も低くなることが明らかになっています。
水素吸入療法が唾液腺がんを予防する可能性
今回の研究から、VEGFという因子が唾液腺がんの発症に関わっていることが示唆されました。
VEGFは細胞内の活性酸素量が多いほど活性化される可能性も示唆されており、抗酸化作用が発症予防につながる可能性があると考えられます4)。
効率的に水素を取り込むことができる水素吸入療法は抗酸化作用が強いため、唾液腺がんの予防につながる可能性が期待できるでしょう。
まだ検討段階であるため確実な効果があるとは言えませんが、今後のさらなる解明に期待します。
抗酸化作用が唾液腺がん放射線治療の副作用を軽減する?
2021年に、抗酸化作用が唾液腺がんの放射線治療によって引き起こされる唾液腺の機能低下を抑える可能性を示唆する研究結果が報告されています5)。
この研究では、唾液腺に放射線照射を行ったマウスに抗酸化作用がある物質を投与した際の唾液腺機能が検討されました。
その結果、抗酸化物質を投与したマウスは投与していないマウスに比べ、有意に唾液腺機能が保たれていたことが明らかになっています。
水素吸入療法は唾液腺がん治療の役に立つ可能性
今回の研究では、水素とは異なる抗酸化物質を用いて放射線治療の副作用の変化が検討されました。
抗酸化物質によって細胞内の酸化ストレスが軽減したことも明らかになっています。
水素吸入療法は上述したように強い抗酸化作用があるため、唾液腺がんの放射線治療に役立つ可能性も期待できます。
まだ確実な効果があると言える段階ではありません。
しかし、放射線治療による唾液腺機能低下は生活に大きな影響を与える副作用です。
これまで唾液腺機能低下を防ぐ明確な方法はなかったため、今後のさらなる研究の進展に期待します。
【私はこう考える】水素吸入と唾液腺がん
唾液腺がんは、珍しい病気ですが進行した状態で発見されるケースも少なくありません。
進行した唾液腺がんの5年生存率は20~40%台と低く、新たな治療や予防法を解明するための研究が行われています。
今回ご紹介した研究結果から、抗酸化作用を持つ水素吸入療法が唾液腺がんの予防や治療に役立つ可能性が示唆されました。
今後のさらなる解明に期待します。
また、水素吸入療法は自宅でも簡単に行うことができます。
美容や健康によい効果もたくさんあるため、美容や健康を維持していく補助的な手段として取り入れてみるのもよいでしょう。
参考文献
- 唾液腺がん|頭頸部がん|がん研有明病院
- がん統計2022|公益財団法人がん研究振興財団
- Lequerica-Fernández, P., Astudillo, A., & de Vicente, J. C. (2007). Expression of vascular endothelial growth factor in salivary gland carcinomas correlates with lymph node metastasis. Anticancer research, 27(5B), 3661–3666.
- Neves, K. B., Rios, F. J., van der Mey, L., Alves-Lopes, R., Cameron, A. C., Volpe, M., Montezano, A. C., Savoia, C., & Touyz, R. M. (2018). VEGFR (Vascular Endothelial Growth Factor Receptor) Inhibition Induces Cardiovascular Damage via Redox-Sensitive Processes. Hypertension (Dallas, Tex. : 1979), 71(4), 638–647. https://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.117.10490
- Liu, X., Subedi, K. P., Zheng, C., & Ambudkar, I. (2021). Mitochondria-targeted antioxidant protects against irradiation-induced salivary gland hypofunction. Scientific reports, 11(1), 7690. https://doi.org/10.1038/s41598-021-86927-3