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【医師監修】水素吸入で改善?放射線性腸炎の新たな対策

【医師監修】水素吸入で改善?放射線性腸炎の新たな対策となりえるのか

《この記事の執筆者》

消化管への放射線治療を受けるがん患者の約半数が経験する「放射線性腸炎」。排便回数の増加や下痢といった症状は、生活の質(QOL)を大きく損ねます。

この放射線治療による苦痛を和らげる新たな方法として注目されているのが水素吸入です。水素には抗酸化・抗炎症効果があり、放射線による腸の損傷を軽減する結果が報告されています。

本記事では、放射線治療と胃腸障害の関係から水素吸入がどのような可能性を秘めているのかについて、科学的根拠をもとに解説していきます。放射線治療を受ける予定のある方や治療中の方は、ぜひご参考ください。

放射線性腸炎について

放射線性腸炎について

放射線性腸炎は、腹部に放射線照射を行ったときに起こる副作用です1)

排便回数の増加や下痢などを引き起こします。

放射線治療は主にがんの治療法として用いられ、実際にがん患者のうち約23%が放射線治療をしているというデータがあります2)

手術のように皮膚を切ったり臓器を取り除いたりせず、がん細胞にダメージを与えられるメリットがありますが、放射線治療にはさまざまな副作用が伴います。

放射線治療患者の半数が胃腸の副作用に悩む

とくに腹部は、放射線治療による副作用が起こりやすい部位です。

消化管への放射線治療を受ける患者の約50%が、長期の慢性胃腸症状を発症すると推定されており、放射線性腸炎はめずらしい副作用ではありません4)

治療にともなう苦痛を減らし、QOL(生活の質)を上げるための方法が必要とされています3)

放射線性腸炎の原因

放射線が消化管の粘膜を傷つけることが、放射線性腸炎の原因です4)

腹部や骨盤にできたがんに放射線をあてると、放射線が正常な細胞にも作用します。

なかでも小腸の粘膜は細胞の増殖が活発なため、放射線照射によって傷がつきやすい部位です。

消化管が傷つくことによって、下痢などを引き起こすことがあります。

放射線性腸炎の症状

放射線治療開始2〜3週間後ごろから、「早期障害」と呼ばれる症状があらわれます5)

放射線性腸炎の具体的な症状は、下痢や排便回数の増加、肛門痛などです1)

放射線治療の数か月後には、「晩期障害」と呼ばれる比較的重めの腸炎を起こすことがあります1)

慢性的に血便などの症状が生じるため、QOLの低下が問題になります。

放射線性腸炎の治療

放射線性腸炎が生じた際は、下痢止めを使用しながら水分補給をしますが、ひどいときには点滴をすることもあります5)

放射線治療が終わると1〜2週間後には改善することがほとんどです。

なお、血便が続くときには内視鏡を使って止血することもあります1)

水素吸入は放射線性腸炎の予防・改善に効果はある?

水素吸入は放射線性腸炎の予防・改善に効果はある?

水素には抗酸化・抗炎症効果があることが知られており、多くの疾患に適応できると考えられてきました3)

活性酸素は放射線による有害作用を引き起こす原因物質です。

そのため放射線性腸炎の新しい治療法として水素が応用できれば、治療にともなう苦痛を減らすことが期待できるため、さまざまな研究が行われています。

現時点で放射線性腸炎と水素吸入の関係を調べた論文はありませんが、水素水が放射線照射による腸の損傷を改善すると示唆した研究結果が報告されています。

研究について見ていきましょう。

水素が放射線による腸での活性酸素を減少させた

この研究では放射線をマウスの腹部に照射し、腸の粘膜に傷をつけました3)

水素水投与群には、放射線の照射2日前から7日後まで水素水を投与しています。対照群は通常水を投与されました。

研究結果は以下のとおりです。

研究の結果
  • 放射線照射を受けたマウスでは、小腸の酸化ストレスマーカーであるMDAが有意に増加した。
  • 水素水投与群ではMDAの顕著な減少を示した。

MDA(マロンジアルデヒド)は活性酸素と関連のある物質です。

この研究の結果から、水素水は活性酸素の産生を減少させることで腸の保護作用を示し、放射線性腸炎の予防に役立つ可能性が示唆されました。

この研究では水素水を使用していますが、水素吸入で同様の研究を行えば放射線性腸炎の軽減効果を実証できるかもしれません。

水素が放射線による下痢の症状を軽減した

同じ研究において、マウスの腹部に放射線照射を行い、「便の量」と「腸の厚み」がそれぞれ変化するかを調べました3)

マウスは対照群と水素群に分け、対照群は通常水を、水素群は水素水を放射線の照射2日前から照射後7日間投与されています。

この研究によって以下の結果が得られました。

研究の結果
  • 放射線照射後6日目、水素水の投与を受けていないマウス(放射線照射群)は、水素水投与群よりも便の量が少なかった。
  • 放射線照射群では腹部照射により腸管が薄くなり水様性下痢が生じたが、水素水投与群では腸管は正常状態に近かった。
  • 小腸を染色すると、放射線照射群では損傷を受けていない腸絨毛の数が劇的に減少していたが、水素水投与群では腸絨毛の数が大幅に回復した。

この研究結果から、水素水の投与は放射線性腸炎を軽減し、水様性下痢の症状を改善することがわかりました。

こちらの研究でも水素水を使用していますが、水素吸入で同様の研究を行えば放射線性腸炎の軽減効果を実証できるかもしれません。

【私はこう考える】水素吸入と放射線性腸炎

水素が放射線性腸炎に対してどのような効果が報告されているのかを見てきました。

腸での活性酸素が減少し、実際に下痢症状が改善されたという成果は、水素吸入の放射線性腸炎への可能性を広げたといっても過言ではありません。

ただ、今回紹介した研究はいずれも動物実験であったように、ヒトでの臨床研究が実施されていないのが現状です。

放射線性腸炎は決してめずらしい副作用ではないものの、水素吸入の研究を実施している機関は限られているため、なかなか進みが悪いのかもしれません。

しかしながら、動物実験では着実なエビデンスを残しています。いざ臨床研究が実施されると、水素吸入で患者様が楽になったという想像は難しくありません。

今後、水素吸入がヒトの放射線性腸炎で有効な可能性が報告されるのを期待しています。

参考文献
  1. 放射線性腸炎|兵庫医科大学病院PRESENTS「もっとよく知る!病気ガイド」
    全国放射線治療施設の 2019 年定期構造調査報告(第 1 報)|日本放射線腫瘍学会
  2. Xiao, H. W., Li, Y., Luo, D., Dong, J. L., Zhou, L. X., Zhao, S. Y., Zheng, Q. S., Wang, H. C., Cui, M., & Fan, S. J. (2018). Hydrogen-water ameliorates radiation-induced gastrointestinal toxicity via MyD88’s effects on the gut microbiota. Experimental & molecular medicine50(1), e433. https://doi.org/10.1038/emm.2017.246
  3. Qiu, X., Dong, K., Guan, J., & He, J. (2020). Hydrogen attenuates radiation-induced intestinal damage by reducing oxidative stress and inflammatory response. International immunopharmacology, 84, 106517. https://doi.org/10.1016/j.intimp.2020.106517
    放射線治療中の副作用に関して|東北大学病院放射線治療科

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