《この記事の執筆者》

2011年国立大学医学部卒。初期臨床研修を経て総合診療医として勤務しながら、さまざまな疾患の患者さんに向き合う治療に従事。医療行政に従事していた期間もあり、精神福祉、母子保健、感染症、がん対策、生活習慣病対策などに携わる。結核研究所や国立医療科学院での研修も積む。2020年からは医療法人ウェルパートナーで主任医師を勤める。
卵巣がんは「沈黙の臓器」とも称される卵巣から発生し、初期症状が現れにくいため、発見が遅れがちながんです。
原因は完全には解明されていないものの、炎症や遺伝、生活習慣の乱れがリスク要因とされています。
進行すると生命に関わる病態を呈し、治療は手術や薬物療法が中心ですが、治りにくいのが現状です。
本記事では、水素吸入療法が卵巣がんの予防や治療にどのように役立つか、最新の研究をもとに探ります。
《▼YouTube動画版での解説▼》
卵巣がんってどんな病気?
卵巣がんは、卵巣に発生するがんのことです。
卵巣はお腹の奥にある小さな臓器であるため「沈黙の臓器」とも呼ばれています。
がんになっても進行するまで症状が現れにくいのが特徴です。
まずは、卵巣がんの特徴について見てみましょう。
卵巣がんの原因
卵巣がんの明確な発症メカニズムは解明されていません。
一方で、卵巣がんは炎症や排卵などによる長期間の刺激が主な原因であると考えられています。
そのため、以下のような要因がある方は卵巣がんの発症リスクが高くなります1)。
- 子宮内膜症などの婦人科系の病気
- 骨盤腹膜炎などの骨盤内の炎症
- 排卵回数が多い(初潮が早い、閉経が遅い、出産経験がない)
また、そのほかにも遺伝や肥満などの生活習慣の乱れも卵巣がんのリスクになるとされています。
卵巣がんの症状
卵巣がんは、早期の段階では自覚症状はほとんどありません。
しかし、進行するとがんが大きくなるため、腹囲が大きくなったり、下腹部にしこりを触れたりするようになります。
さらに、周囲の臓器を圧迫することで頻尿や便秘、むくみなどの症状を引き起こします。
また、がんが大きくなると破裂したり、卵巣の根元が捻じれたりすることで激痛が生じることがあります。
このような場合には緊急での手術が必要です。
卵巣がんの標準的な治療方法
卵巣がんの治療方法は、進行度と全身の状態によって異なります。
また、若い世代では将来的に妊娠を希望するかによって治療方針が変わることもあります。
基本的にがんを取り除くための手術が必要です。
進行度や卵巣がんのタイプによっては手術後に抗がん剤などの薬物療法を行う場合もあります。
卵巣がんは治りにくいがん
卵巣がんは早期段階で発見できれば5年生存率は90%以上ですが、がんが卵巣周囲に広がっていると5年生存生存率は60%以下になります。
さらに転移がある場合には20%前後に低下します2)。
卵巣がんは進行した段階で発見されるケースが多く、今もなお治りにくいがんの一つです。
そのため、新たな予防や治療方法の解明が進められています。
水素吸入療法は卵巣がんの予防と治療に役立つ?
日本では1年間に約13,000人が卵巣がんと診断され、約4,800人が命を落としています2)。
多くの方が卵巣がんで命を落としたり、つらい治療と戦ったりしているのが現状です。
新たな予防、治療方法の研究が行われていますが、水素吸入療法が卵巣がんの予防や治療に役立つ可能性を示唆する研究結果も報告されています。
水素吸入療法と卵巣がんの関係を示す研究結果の内容を見てみましょう。
卵巣がんは酸化ストレスも要因の一つ?
2014年に、卵巣がん患者の血液中の抗酸化物質濃度と酸化ストレスの程度を測る研究結果が報告されています3)。
卵巣がん患者30人と卵巣がんではない女性30人の血中抗酸化物質濃度を調べたところ、卵巣がん患者は有意に血中の抗酸化物質が減少。
さらに酸化ストレスを示す指標も有意に高くなったことが明らかになりました。
この研究結果から、卵巣がんの発生や増殖には酸化ストレスが関与している可能性が考えられます。
水素吸入療法で酸化ストレスを軽減すると卵巣がんを予防できる可能性
この研究は限られた人数での比較であるため、確実に酸化ストレスが卵巣がんの要因であるとはいえません。
しかし、酸化ストレスは他の部分のがんとの関係も多く報告されていることからも、酸化ストレスが卵巣がんの要因である可能性は高いと言えるでしょう。
したがって、酸化ストレスを軽減できる水素吸入療法は卵巣がんの予防に役立つ可能性もあります。
今後のさらなる研究の進展が期待されます。
水素ガスの吸入で卵巣がんを小さくして進行を抑えられる?
2018年に、水素ガスの吸入によって卵巣がんの治療に役立つ研究結果が報告されています4)。
この研究では、卵巣がんを発症したマウスに6週間に渡って水素ガスを吸入させ、吸入前後のがんの大きさや腫瘍マーカーの変化を調べています。
結果として、水素ガスを吸入させた後に腫瘍の体積が平均して32.3%縮小。
腫瘍マーカーも30.0%減少したことが明らかになりました。
また、がんの増殖を促す分子の発生を74.0%抑制できたことも分かっています。
水素吸入療法は卵巣がんの治療に役立つ可能性がある
水素ガスの吸入は卵巣がんを小さくするばかりでなく、増殖を抑える効果を持つことが示唆されました。
まだ動物実験の段階であるため、人の卵巣がんに対しても同様の効果があると断言することはできません。
しかし、この研究結果は水素吸入療法の卵巣がん治療への応用を叶える道筋となりました。
今後、さらなる解明が続けられ、水素吸入療法が治療に応用されるようになることを期待します。
【私はこう考える】水素吸入と卵巣がん
卵巣がんは進行した段階にならないければ自覚症状があらわれにくいため、進行した状態で発見されるケースが多いとされています。
現在でも卵巣がんは治りにくいがんの一つであり、5年生存率も高くありません。
今回ご紹介した2つの研究結果から、水素吸入療法が卵巣がんの予防や治療に役立つ可能性が示唆されました。
現在のところ、卵巣がんは手術や薬物療法が標準的な治療となっています。
しかし、治療が上手くいかずに命を落とす女性も多いのが現状です。
水素吸入療法は自宅でも行うことができるため、今後さらに研究が進んで卵巣がんの予防や治療に応用されることが期待されます。
現時点でも卵巣がんになりやすい要因に当てはまる方、すでに卵巣がんの治療をしている方は水素吸入療法を受けてみるのもよいでしょう。